issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 01 33
「えッッ!!?」
瞬間、シャカゾンビの首から下が、力を失ってその場へ崩れ落ちた。糸の切れた人形のように、白骨の身体は土埃を巻き上げ、無様に地面へ沈む。
スヌープキャットの拳は、もはや標的を失い、虚空を貫いて背後の蛇蝎山の岩盤へと叩き込まれる。
全身の筋束が絞り出した運動エネルギーが、その1点に凝縮していた。
着弾の瞬間、標高3000m級の山体が内部構造ごとたわみ、地殻がねじれて悲鳴を上げる。
衝撃点から奔る歪みが根本へ達し、麓から頂まで蜘蛛の巣状の亀裂が閃光のように走る。
続いて、拳骨の本格的なねじ込みが加わり、巨峰は内圧の限界を超えて爆ぜた。
破局噴火を凌駕する規模の岩盤噴出――
数100万tの岩塊が、圧縮された空気を押しのけながら逆巻く瀑布のごとく天を目指して吹き上がる。
飛翔した破片は空中で渦を巻き、青空を切り裂く軌跡を描いて落下と旋回を繰り返す。熱風と砂塵が混じり合い、視界全体が赤茶けた煙に染まった。
――ズオォオオォオオォ!!!!
走り抜けた衝撃波は、樹海を平打ちにして木々をなぎ倒し、大地を深々と踏み割っていく。
山は、見えない巨人の拳打――そのクリーンヒットを受けたかのように、
頬を殴り抜かれる軌道で地平へ倒れ込んだ。崩れゆく稜線は、固体の定義を捨てたかのようにドロリと液状化して傾ぎ、行き場を失った高圧の大気が、地平線の彼方まで視界を歪ませながら駆け抜ける。
上空の雲層はとてつもない力で球状にくり抜かれ、遅れて届く轟音が天地の境界をあいまいに震わせた。
ただ一撃。
人間の小さな拳が、惑星の一部を物理的に凌駕したという事実だけが、そこに焼き付けられていた。
*
「いい音させるなぁ……!やっぱ、線香花火みたいなビッグバンより、こっちの方がよっぽどワビサビってもんだよ!」
尋常ならざる地鳴りが全身を駆け抜けていく。基地の長い廊下を炎の矢となって突き進むホットショットの口元に、獰猛な笑みが浮かんだ。
壮大な破壊の余韻が眼下の景色に満ちる中、
シャカゾンビの頭部は蒼いジェットの炎を噴射し続けていた。首の断面から放たれるその輝きは、
さながら小型ロケット。スヌープキャットの必殺の一撃を紙一重で回避したあとは、
ただ一直線に空の彼方へと逃れていく。
「ハッハッハ、これが吾輩の誇る華麗な離脱術だ!
その目に、とくと焼き付けるがいい!ではな、小娘どもよ!」
空に消えていく蒼い光跡を、
「……えっ?またこのパターンなの!?」
イムノは呆然と見上げる。先のエイペックス・レジェンド戦の記憶が、
悪夢の再来のように脳裏をよぎった。怒りも悔しさも通り越し、今はただ、
心底うんざりした表情で天を仰ぐ。
「テラー・スクワッド、お前たちも撤退だあああああああ!」
シャカゾンビの威勢のいい声だけが、なおも支配者の気迫を保ち、
崩れゆく蛇蝎山にありありとこだます。
この予想外すぎる脱出劇には、誰もが言葉を失った。イムノ、ミーティスと死闘を繰り広げていた部下の2人でさえ、信じがたいものを見るように空を睨み、やがて、その場にそぐわぬ絶叫を上げた。
「……ああっ、ボスが逃げた!」
「チッ、やむを得ねぇ!撤退だ、俺たちも追うぞ!」
プロディジーが忌々しげに吐き捨てると、ハヴォックが即座に呼応する。
カバの獣人はイムノの剣を剛腕で弾き返し、間髪入れずに巨大な両拳を大地へ叩きつけた。
炸裂した衝撃が岩盤を砕き、爆発的な土煙の壁を天高くまで巻き上げる。
泥と埃のカーテンは、少女たちの視界を的確に遮断した。
生じた一瞬の混沌を突き、彼らは、イムノが破壊した対空砲座の残骸――ぽっかりと口を開けた縦穴の闇へ、躊躇なく身を躍らせる。
直後、地の底から重い駆動音が地鳴りとなって轟いた。続いて、流線型の小型シャトル2機が土砂と黒煙を噴き上げながら垂直に射出される。
機体はシャカゾンビの頭部が消えた空の彼方を追い、烈風を巻き起こして急加速していった。
爆音と熱風が戦場を吹き抜け、視界を覆い尽くしていた粉塵が風にさらわれて薄れていく。
後に残された3人は、ただ呆気にとられ、空を見上げるしかなかった。




