issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 01 30
「わかったー!こっちはすぐ終わらせるからね!」
ミーティスは軽やかに手を振り、斜面を蹴った足にぐっと力を込めると、
弾けるような加速で次の攻撃へと移行した。背後に迫る黒い影の群れを視界の端に捉えながら、
胸の内では、これから繰り出す“舞い”の段取りが1呼吸ごとに磨かれていく。
山の斜面を蛇行しつつ駆け下りる最中、背負っていたバックパックの留め金――胴の長いウサギの、ヨレたぬいぐるみの赤い口が、彼女の意思に応じるようにぱっくりと割れた。
開いた隙間から、圧縮されていた霊符の束が白昼の空へ勢いよく噴き上がる。紙とは思えぬほどの速度で立ち上がったそれらは、風を切る音すら一瞬で呑み込み、頭上へと噴出していった。
惜しげもなく放たれた10数万枚の札は、ばらばらの紙片では終わらない。
空中で互いの縁をかすめ合いながら群れを成し、光を帯びたひと筋の流れへとまとまり始める。
やがてそれは、天空を征す1本の大河となった。
白い帯は蛇蝎山の樹海へ向けて鋭く折れ、風を追い越す勢いで木々の梢をかすめ、
枝葉の隙間を縫いながら、舞い散る星屑のような光を撒いて闇の奥へと流れ込んでいく。
札の1枚1枚が、迫りくる邪霊の波頭に触れた途端、そこを起点に着火した。浄化の爆炎が小さな火口のように次々と開き、山のふもとから丈高い樹林の合間まで、あらゆる地点で絶え間なく発生する。
妖異の群れが描いた漆黒の包囲は、その全域で内側から食い破られていった。
蛇蝎山を目指して押し寄せていた霊の大群は、突進の歩調を崩され、前線に到達する前に、
その大半が光に呑まれ、途切れ途切れの叫びを残して消え失せていったのだ。




