issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 01 25
「……ん?」
それは、けしてシャカゾンビの意志による静止ではなかった。
何も、勝利に直結した1手という感覚を、彼はそこに見い出していたわけではない。
だが、これほどの猛攻を加えて、何の反応も返ってこない……悲鳴のひとつ、
抵抗の気配すら――その完全な沈黙は、考えてみればあまりにも不自然だった。
その不審が、シャカゾンビの思考に、いまさらになって影を落とした、まさにその刹那――
「……まっいっか!」
彼女のその、あっけらかんとした一言が、起爆スイッチとなった。
次の瞬間、世界が反転するほどの閃光が、岩の腕の隙間から迸った。
彼女を拘束していた岩塊の腕群が、その中心から、内側から溢れ出す凄まじい力によって、
一撃で木っ端微塵に粉砕された。
山野を吹き抜ける轟音とともに、爆心地から、白銀の光を纏ったスヌープキャットが、
一直線の光条と化して撃ち出される。大きく振りかぶられた拳は、
ただ1点、シャカゾンビのみを見据え、彼へと肉薄していく。
爆砕の余波は、割れる海のような衝撃波となって、彼女のあとを遅れて走った。
粉々になった岩の破片が天高く巻き上げられ、数100の石片が砂の尾を引き、
崩落の雨となってあたり一面に降り注ぐ。それは、地形そのものを暴力的に描き変える、
創造にも似た破壊の光景だった。
「――ッッ!!」
術の破砕が生んだ衝撃波に押し流され、シャカゾンビは完全に守勢へと転じていた。
足元の地面がめくれ上がり、岩塊が乱気流となって吹き荒れる中、彼の視界の中心に、
白銀の残像が閃いた。
それはスヌープキャット――ユキヒョウの獣人。ほとんど瞬間移動に等しい速度で、
すでに目前へと迫っていた。
「なっっっ――!?」
次の瞬間、杖と拳が火花を散らす。連打。打撃。大音が続けざまに轟き、杖の軸には、拳を引き戻した時の衝撃波の痕跡が刻印され続ける。
シャカゾンビは死に物狂いでその猛攻を受け流していた。
杖の一撃ごとに砂塵が渦を巻き、空気がひしゃげる。それでも、爆撃のような拳撃はかわらず降り注ぐ。必死さを増す彼の防御は、死の予感を燃料とした、脊髄反射の領域から常に繰り出されていた。




