【やり直し軍師SS-620】騎士団修行(20)
最初に劣勢が滲み始めたのは、ジュノスだった。
「やはりか」
「どうして分かったの?」
ウラルの呟きに、リュージェが説明を求める。
「フォランはベクシュタットの直弟子だけあって、二人よりもほんの少しだけ狙いが正確だ。そしてウェルトはあの若さで帝国の本隊に抜擢されるだけあって、槍捌きがほんのわずかに二人よりも速い」
「ほんのわずかって、どのくらい?」
「……説明が難しいが、リュージェが見て差がわからんのだろう? お前もそれなりに鍛錬しているが、それでも気づかない程度の差、といえば伝わりやすいか」
「なんとなくは分かった。じゃあ、ジュノスは速さも正確さも負けて、このまま追い込まれるしかないの?」
実際こうして話している間にも、ジュノスの身体に穂先が掠める場面が多くなっている。しかも、ジュノスを二人がかりで攻め立てている状況。もはや脱落は目前に思える。
「ここまでの打ち合いで、フォランもウェルトも己が他より優れている部分を見極めた。あとは強みを活かして、“持っていない”者を先に排除するのが効率的だ。ジュノスが狙われているのは必然と言える」
「……厳しいわね」
「ああ。だが……」
そこまで言って、ウラルは口を閉じた。
ウラルはよく知っている。
ジュノスがこのまま、何もできずに終わるようなやつではないことを。
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フォランの槍をいなせば、ウェルトの槍が腕を掠める。床を滑るようにして猛攻を凌ぎ、体勢を立て直そうとするも、二人がそれを許さない。
全く、嫌になる。
ザックハートに一撃入れて以来、様々な相手がジュノスと手合わせを願ってきた。そのいずれにも、ジュノスは負けはしなかった。
少なくとも、近しい世代では、ウラル以外にジュノスとまともに打ち合えるやつはいない。
そう、過信していた。慢心と言い換えてもいい。
それがどうだ。今回の修行に出てから、グランツには一方的に打ちのめされ、双子にも翻弄されるままに負け。
極め付けは勝手に自分が一番だと自惚れていた、同世代にもこの扱いだ。
二人がジュノスを一番弱いと見て、先に仕留めようとしているのはジュノスも気づいている。そして実際に、ジュノスが劣っている部分も多い。
俺は本当に、まだまだだった。
しかしある意味、ここでそれを知れたのは大きな収穫だ。あのまま自分の実力を勘違いして鼻にかけていては、父さんのような将軍にはなれなかったに違いない。
ここからだ。ここから俺はさらに強くなる。
ひたすらに攻めを躱しながら、ジュノスはそんなことを考えつつ、同時にもう一つの思考を巡らせていた。
まだ、負けたわけじゃねえ。
ジュノスはずっとその時を待っていた。
今、ジュノスが集中して狙われてはいるが、別に二人は共闘しているわけではない。
特にウェルトは、フォランがジュノスに集中して、隙を見せるのを窺っているのが、視線の動きでよくわかる。
しかし当然、フォランも簡単に付け入る隙は与えない。
ジュノスは一度、大きく後ろへ飛んだ。直後にフォランが力強く槍を引き絞る!
その動きにジュノスは見覚えがあった。先ほどベクシュタットの見せた形の一つだ。勝負を決める大技がくる。
悟ったのはジュノスだけではない。ウェルトもまた、その気配を嗅ぎ取ると、フォランの背後を取らんとする。
一瞬だけ、フォランの視線が背後を気にしたその時、フォランとウェルトが、一直線に重なった!
今だ!
ここがジュノスの距離。腰を落として、持ちうる力を全て槍に乗せて、一直線に突き出す。ザックハートに一撃を喰らわした、ジュノス必殺の突きが炸裂!
咄嗟に己の槍で防御姿勢をとったフォランの槍の柄をへし折りながら、ジュノスの槍が胸をついた!
木槍とはいえ、ジュノスの全力の突きを喰らったフォランは、身体を宙へ浮かすと後方へ吹き飛ぶ。
そこにいたのはウェルト。
何が起きたのかわからぬままに、フォランに巻き込まれたウェルトは、フォランとともに床へと転がった。
「そこまでだ!」
ベクシュタットの言葉とともに、観客から大歓声が起きる。
ジュノスが肩で息をしながら観客を見渡せば、賭け札を持って大喜びする双子が目に止まる。
「……なんだよ。姉さん方を悔しがらせるつもりだったのによ」
そんなジュノスの独り言は、観客たちの声にかき消された。




