【やり直し軍師SS-619】騎士団修行(19)
こうして始まった三つ巴の仕合。
序盤はジュノス、フォラン、ウェルトともに等しく距離をとって互いを牽制し合う。
ベクシュタットの直弟子であるフォランはともかく、ウェルトの実力は未知数だ。が、槍を構えたその姿には、強者特有の雰囲気が滲む。
三つ巴というのは非常に厄介。誰か二人が共闘すれば残りの一人は苦戦必至。実力者が揃えば、一瞬の隙が即座に死地となる。
誰が最初に動くか、それにどのように対応するか。しばし読み合いが続いた。
しかし。
ジュノスは考える。この状況下においては、孤立する最初の一人は薄々決まっている。あとはもう一人も同じ考えに至っているか。
まあ、このまま睨み合っているのはジュノスの性分ではない。予測が外れたらそれはそれ。巻き返せば良いだけのこと。
腹を決めるとジュノスは動く。その動きに帝国のウェルトが即座に同調。ジュノスと同じくフォランを狙う。
―――ベクシュタットの弟子はどの程度か―――
この一戦がベクシュタットに認めてもらい、稽古をつけてもらうための試験であるならば、初手からジュノスとウェルトで潰し合うのはあまり意味がない。
まずはフォランを叩いてから、じっくり決着をつければ良いのだ。
ウェルトは初対面にも関わらず、ジュノスと長く稽古をしていたかのような、息のあった突きを放った。
二人の狙いはフォランのいる場所よりもやや奥。フォランの回避行動を予測した上での一撃であり、通常の速度であれば、どちらの槍からも逃れるのは不可能に思えた。
が。
ジュノス達の想定を嘲笑うかのように、フォランは前に動いた。しかもジュノス達が槍を放つとほぼ同時に。
フォランとの距離が一気に詰まる。狭い空間の中で、フォランは槍の中央を持ち、体を素早く回転させる。
フォランの槍の石突部分が、ウェルトの腹部に迫る!
それを見るジュノスも、一瞬たりとも気を緩められない。ウェルトはフォランの攻撃を紙一重で躱しつつ、遠心力を利用して、引き戻した槍をジュノスへと向けたのだ!
ジュノスは床を転がりウェルトの一閃を避けると。低い姿勢のまま、再びフォランを狙う!
ジュノスの槍はフォランの胸先で空をきった。
息もつかせぬ攻防を経て、それぞれ再び等距離をとっての睨み合いに。
観客からどよめきと歓声が上がる。
盛り上がる観衆を背に、フォランがゆっくりと口をひらくいた。
「お見事です。……本来であればここで試験は終了となるのですが……師匠も止めませんし、何より、今止めては観客が納得しないでしょう」
「そうですね。せめて、賭けが成立する程度には頑張らないとなりません」
軽口に応じたウェルトが、ジュノスにも視線で同意を求める。
「……正直、賭けなんざ姉さんがたが負けてくれりゃあ、どうでもいんんだけどな。決着がつくまでやるのは大いに賛成だ」
「なら」
「ええ」
「おう」
ジュノス達は再び、その穂先を鋭く動かし始めた。
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「……改めて見ると、化け物揃いね」
三人の邪魔にならぬ場所で観戦していたリュージェが呟く。ウラルも同意だ。
ジュノスの槍は日々鋭くなっており、同じ武器ならばウラルも厳しいと感じていた頃合いだったが、それに互するか、あるいは上をいく者達が同世代にいるとは。
「参加しなくてよかった」
溢れた言葉はウラルの本心である。
「ま、ウラルは槍を極めることを目標にはしていないし、いいんじゃないの?」
リュージェの言う通りではあるが、こうして差を見せつけられるとやや悔しい気持ちも否定できない。
「リュージェはどうするんだ? このあとフォランに挑んで、ベクシュタットの師事を仰ぐのか?」
「一応挑戦はするつもりだけど、私にこのレベルは無理ね。そもそも私は個の武を伸ばすために同行しているわけでもないもの」
「目指すは戦姫、か」
リュージェの目指す理想は、『舞うように部隊を動かす』と謳われた戦姫ラピリア。ジュノスのような武ばった戦い方は、リュージェの目指す場所ではない。
「ええ。もちろん今回も、演習に参加させてもらえるんでしょ?」
「ああ、そのつもりだ」
ウラルもまた、指揮を学ぶことに本腰を入れなくてはならない。南の大陸への遠征では、己の実力不足を痛感するばかりであったのだから。
「……それにしても、実力伯仲とはこのことね。一生決着つかないんじゃないの?」
リュージェの目にはそう映るか。
ウラルは小さく首を振る。
「確かに近しい実力の者たちではあるが、おそらくは……」
そろそろ、わずかな“差”が浮かび上がってくるはずだ。




