【やり直し軍師SS-615】騎士団修行(15)
リーゼの砦に到着して来訪の目的を告げると、少しして若い人物が駆け寄ってきた。
服装からして将官か。真っ先に目を引く、燃えるような赤い髪。それと赤い目。サルシャの混血だ。
「ウラル殿下、ようこそいらっしゃいました。ボルドラス様より知らせをいただいております。さ、皆様こちらへ」
と、爽やかに入城を促す。
「感謝する。……ところで貴殿は?」
「申し遅れました。私はフォラン。第五騎士団の部隊長の一席を預かっている者です。……皆様には、このようにご挨拶しておいた方がいいでしょうか?」
「このように?」
「……ベクシュタット様の槍の一番弟子です」
爽やかな態度を崩さぬままに、フォランはジュノスに挑戦的な視線を向ける。しかしそれは一瞬のこと。
「ああ、それと実は、師匠の元に他に客がおられます。しかし身元ははっきりとしておりますので、ご安心ください」
とのフォランの説明。
「突然に来訪したこちらが悪いので気にはしない。ベクシュタットとの顔合わせは、その来客の後で構わん」
と応じたウラルに対して、フォランは妙なことを口にする。
「いえ。師匠からは、せっかくなのでお連れするように、と」
それ以上は本人からと口を閉ざしたフォランは、道中双子に絡まれつつも無難にいなして先へ。ジュノス達も腑に落ちぬままに後に続いた。
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ベクシュタットの執務室に入ると、部屋には確かにベクシュタット以外にもう一人いた。
年頃は同じくらいか。何より特徴的なのは服装。帝国の騎士のそれである。
こちらに気づくと、ベクシュタットがすぐにウラルの前にやってきた。
「ご足労、恐れ入ります」
必要以上の言葉を口にしないと有名な人物だ。それだけ言うと、臣下の礼をとる。
「いや、無理を言ってすまない。少々世話になる」
「は。ご随意に」
「……それで、早速で悪いのだが、道中でそちらの御仁と引き合わせると伺った。グリードルの関係者とお見受けするが……」
「それに関しては、フォランより」
ベクシュタットに命じられたフォランは、手慣れたようにベクシュタットの横に立つ。
「こちらのお方は、ウェルト殿。殿下の予想通り、この若さで、グリードル帝国の将校の一席を射止めておられるそうです」
紹介を受け、ウェルトが深々と頭を下げる。
「ウェルト=ゾルマンです。ウラル殿下にこうして拝謁が叶うのは光栄の至り」
「丁寧な挨拶痛みいる。ルデク第二王子、ウラル=トラドだ」
ウラルとの挨拶を終えると、ウェルトはジュノス達に握手を求めてきた。
ジュノスが手を握り返せば、わずかに挑戦的な視線をぶつけてくる。フォランといい、何やら不穏な奴らだ。
「……貴殿がザックハート殿に勝ったというジュノス殿ですか。一度、語り合ってみたいと思っていた」
「勝った、ってほどじゃねえよ」
なるほどな。穂先で語る方か。
そのまましばし握力を込めあっていると、ウラルが苦笑する。
「グリードルの若手将校ということは、南の大陸への遠征にも参加されたのか?」
ようやく手を緩め、ウラルを見たウェルト。
「はい。ですが残念ながら、ほぼ戦場には出られず仕舞いでした。……その、上皇陛下の部隊に組み込まれておりましたもので」
遠征部隊で上皇ドラクの部隊ということは、それは本隊に他ならない。
つまりこの若さで、強大な帝国軍部の本隊指揮官に抜擢されるほどの人物ってことか。いわゆるエリート、それとも相当な実力者。もしくはその両方。
ジュノスがそんなことを考えている間に、しばし遠征の件で盛り上がる二人。
「……私も参加したかったのですが、師匠の許可が降りず……」
などと悔しそうなのはフォラン。
そんな遠征話の中で、ウラルがふと、
「そういえば、ルベットはその後どうなったのだ?」
と口にした。南の遠征において、ジュノス達と少なからず縁のできた相手だ。
いくら父が帝国の英雄の一人とはいえ、命令を無視して暴走したルベットが、咎なく許されるような内容ではなかった。
問われたウェルトはやや顔を曇らせ、
「内政省へ転籍となったのは聞いておりますが、私もあまり詳しくは……。いっとき話題に上がっていたものの、今はほとんどその名を耳にしません」
「では、刑を受けたというわけではないのだな」
「ええ。おそらくそれはないと思います」
「そうか、ならいい」
ウラルの表情は複雑だ。ジュノスもその気持ちはわからなくもない。ルベットのやったことは愚かだが、あの時、自分たちが逆の立場になっていた可能性も、十分にあり得たように思うのだ。
そうして話が一段落したところで、ベクシュタットが口を開いた。
「さてでは、訓練場に行くぞ」
と。




