【やり直し軍師SS-614】騎士団修行(14)
「せっかくだから、ヴァ・ヴァンピル芸を少し見たかったな」
後ろ髪引かれる思いで、来た道を振り返るリュージェ。
「おいおい、今回の目的を忘れたんじゃねえよな」
リュージェほど芸事に思い入れがないジュノスがそう口にすれば、リュージェはベエと舌を出す。
「ジュノスってそういうところがダメよね。もっと余裕を持ちなさいよ。そうでないと成長できないわよ」
「ぐ」
実は割と最近、似たような忠告を親友から受けたばかりだ。といっても直接ではなく、手紙での話だが。そいつは隣国の貴き立場にあるので、なかなか気軽に会うことは難しい。
南の大陸出征直前に届いた手紙には、近況を知らせる内容とともに、ジュノスの参陣に対する激励が続く。
そして最後に『君は少し前のめりなところがあるから、余裕を持って。そうすれば将としてもう一段階、格が上がるんじゃないかな』と書いてあった。
ジュノスとしても何となくは心に留めていたが、まさかこんな出来事で同じような指摘を受けるとは思わなかった。
「……芸と武将の質は関係ねえだろ」
ジュノスの言葉に弱気を感じ取ったか、リュージェがニヤリとする。
「そうともいえないんじゃないの? 例えばヴァ・ヴァンピルの軽業なんて、体の使い方の参考になることもあるわ。ウラルも旅一座の体つきに言及してたし。ね、ウラルもそう思うでしょ?」
ウラルは話を振られると予想していなかったようで、軽く目を見開く。
「……まあ、どちらかといえばリュージェの言葉の方が一理あるな。旅一座の全員がそうとは言わんが、時として勉強になる事はある。それに、意外に武辺者は芸事を嗜むものも多い。精神的な部分でも、何かしら学ぶべきものがあるのかもしれん」
「うーむ」
いまいち納得はいかないが、心持ちの余裕という点においては、多少は理解できそうな気がしなくもない。
馬上で腕を組んで唸るジュノス。その視線の先にいたのはユイメイの双子だ。相変わらずよくわからない歌を歌っている。
あの二人が芸事を嗜んでいるわけがないか。
ジュノスがそのように考えた瞬間である。双子が突然歌を止め、ジュノスの方を振り向くと近づいてきた。
「おうおう、なんか」
「言いたいことがありそうだなぁ」
本当に獣みたいな勘の良さだ。
「なんでもねえ……ないっすよ」
「いいや、あるな」
「ほれ言ってみろ。お姉さんが聞いてやるぞ」
本当のことを言ったら絶対に面倒になるやつだ。かといってこのまま何も言わなくても、道中飽きるまでいじられる。……厄介すぎる。
「……ほら、あれだ。ベクシュタットさんと、ユイメイの姉さんって、戦ったことあるのかなと思っただけっす」
現在のルデクにおいて、最強の槍使いとも謳われる、第五騎士団の団長。『極槍、ベクシュタット』といえば、全ての槍使いの憧れ。
それはジュノスも例外ではない。己の武器を定めた時から、ベクシュタットとは一度槍を交えてみたかった。
実は今回の修行において、第五騎士団への来訪が、一番の楽しみであったりする。
「ベクシュタットはなかなかやる」
「ああ。まあまあやる」
「次に戦ったら私が勝つが」
「まあ私たちも忙しい」
ここまでの双子の性格からして、ベクシュタットにはそこそこ負けているっぽい物言いだな。
元々双子の得物はモーニングスターだ。破壊力はともかく、速度と射程では槍に分がある。どちらが強いというよりも、武器の相性の差かもしれない。
ジュノスがそんなことを考えていると、
「随分とベクシュタット殿にこだわりがあるのね」
とリュージェが会話に加わってきた。
「そりゃそうだろ。槍使いの頂点だぞ。お前は割となんでも武器を使いこなすが、俺は不器用だからな。槍術を極める以外に道はない」
「でも槍ならザックハート様もベクシュタット様に並ぶお人じゃないの?」
「……ザックハートの槍は、誰かが真似できるものじゃねえ」
ザックハートは巨大な槍「無骨」を自在に操るが、あれは単に膂力が優れているわけじゃない。
むしろ要点は、無骨を振り回した時に発生する勢いを十全に活かせるだけの身体の使い方にある。
ジュノスが渾身を賭けて放つ突きと同様の威力を、横凪ひとつで生み出すのだ。
正直、全く参考にならない化け物。それがザックハートという男だ。
第七騎士団のリュージェと違い、同じ騎士団にいるウラルはジュノスにしみじみと同意する。
「俺もザックハート殿の槍使いを真似しようとは思わんな。あれを真似しては身体を痛める」
そう言ってため息を吐いたウラルの横で、
「まあ、ザックハートもまあまあだ」
「そうだな。そこそこだ」
当然のように言い放つ双子を見て、これもまた心の余裕というものだろうか、と、ジュノスは思った。




