【やり直し軍師SS-613】騎士団修行(13)
ウラルの問いに対して、体躯の良い男は軽く首を傾げた。
「はて、どちらかで会ったことが?」
「いや、私が一方的に知っているだけだ。ヴァ・ヴァンピルは有名だからな」
「左様で。しかしよく気づかれましたな。演目の時は化粧をし、衣装も変えておりますゆえ。こうした旅路で気づく方はほとんどおりません」
「いや、貴殿の体格にどこか見覚えがあった。それに他の者も所作が“動ける”者のそれだった。ヴァ・ヴァンピルといえば戯曲が有名だが、それを鮮やかに表現するだけの軽業も、また見所の一つ。なのでもしや、と」
「それは見事な推察。ああ、申し遅れました、ヴァ・ヴァンピルの座長をしておるルベールと申します」
「私はウラルという。第三騎士団所属だ」
ウラルはあえて王族を名乗らなかった。旅一座があまり権力に頓着しないことくらいはジュノスも知っているが、気を使ったか、それとも安全のためか。
ルベールはそれほど気にした顔を見せずに、
「第三騎士団といえば、確か北ルデクに滞在していると記憶しておりますが、このような場所まで、何かの任務で?」
「いいや、そんな大した話ではない。ちょっとした所用のついでに、この地の鎮魂の碑に祈りを捧げに立ち寄った」
「なるほど。ルデクの皆様には重要な場所ですからな」
「詳しいな」
「それはもちろん、我々は大軍師ロア様の戯曲を、数多く演じさせていただいておりますから」
「それもそうか」
ウラルとルベールが言葉を交わす様を、さして興味もなく眺めていたジュノスであったが、少ししてゼファーの様子がおかしいことに気がつく。
何やらワナワナしている。改めて見れば、リュージェも落ち着かぬ様子。
「お、おい……お前達は本当にヴァ・ヴァンピルなのか」
「まあ、証明する術は特にありませんが、ヴァ・ヴァンピルに違いありません」
ルベールに改めて名乗られて、ゼファーは己の手を一度拭ってから差し出す。
「……実は、俺はヴァ・ヴァンピルの愛好家なのだ。以前ルデクトラドで行われた芸にすっかり魅了されてしまってな。その、握手をしてほしい」
良いおっさんが恥ずかしげに願えば、ルベールは慣れた手つきでその手を握り返す。
「それは大変ありがたく。またいずれルデクトラドでも芸を披露したいものです。が、今は、様々な街から引き合いを頂戴しておりまして」
「いや! 別に強要しているわけではない。俺にそんな権限もない。お主らが引く手数多なのは知っている。それにしても……ル・プ・ゼアの歌姫との共演は見事だった。今でも時折思い出すほどだ」
「あれはゾディア殿の歌声あってのものです」
「謙遜しなくてもいい。いやあ、このような場所でヴァ・ヴァンピルに会うことができるとはな」
珍しくご機嫌なゼファーとルデールの間に割り込むようにして、リュージェも同じように手を差し出してきた。
「私もぜひ握手を!」
……なるほど、ジュノスが知らないだけで、相当有名な旅一座であるらしい。
それからしばらく取り止めのない会話が続き、ウラルがふと、
「そういえば、作家の娘の姿が見えんな」
と口にすると、ルデールは僅かに警戒の色を見せた。
「お詳しいですな。レヴはあまり表には出ぬのですが……」
「ああ、そうなのか。……お主らに直接会ったことがある者から、偶然耳にしただけだ。一座の戯曲を紡いだという娘だから、少し興味を惹かれたに過ぎん」
「なるほど。……実は、この場所に止まっているのは、そのレヴに関することでして」
「病にでもかかったのか?」
「いいえ、いいえ。レヴはこうしてロア様ゆかりの地を訪れては、新しい物語を考えております。ちょうど先ほど、新しい物語の着想を得たとのことで、馬車に篭りっきりでして。我らはその作業が終わるのを待っている最中なのです」
「そういうことだったか。では、あまり邪魔をしては申し訳ないな」
そう言いながら、騒いでいる双子にちらりと視線を向けたウラル。
「いえ。お気遣いなく」
「いや、もしかするとまた素晴らしい戯曲が生まれるかもしれんのだ。それを妨げては、ルデクの民草の恨みを買おう」
ウラルの配慮にルべールが深々と頭を下げると、ジュノス達はそれを潮にハクシャを後にしたのである。
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ウラル達の姿が見えなくなったところで、ルベールは小さく息を吐く。
「……なんか騒がしかったけど、誰か来てたの?」
「なんだレヴ、もう書き終えたのか?」
「まあ、大筋を決めただけだけど」
「そうか、じゃあそろそろ行くか?」
「うん。それで、誰かいたの」
「ああ。この国の王子がいたぞ」
あの身なり、そして第三騎士団所属のウラル。加えて民草などの物言い。まず間違いなく、ルデクの第二王子。
なんのつもりか知らんが、身分を隠しているならば、こちらもわざわざ探る気はない。
「……何? 作り話? ルベールも物語書きたくなった?」
全く信じていないレヴ。その様子を見ながら、ルベールはしばし一人で笑った。




