【やり直し軍師SS-612】騎士団修行(12)
「ここがハクシャか……」
ジュノスの眼前で緩やかに流れる河。
リュージェから戦いの概要は教えてもらったが、この河が渡河できぬほどに荒れるとは、少し想像ができないほどに穏やかな景色だ。
周囲を見渡してみれば、人気はない。
「砂金集めのごろつきってのは、どこへんにいるんだ?」
ジュノスがキョロキョロしていると、ウラルが応じる。
「もうほとんどいないはずだ。宰相殿の政策でごろつき自体減っている上、この辺りは近々工事の予定があるので、騎士団の出入りも多い」
「工事?」
「ああ。見ての通り、この辺りは河さえ荒れなければ肥沃な土地。灌漑すれば一大農地に生まれ変わる可能性を秘めている。そのための工事の準備が進められている」
「へえ。ウラルも普段は北ルデクにいるのに、詳しいもんだ」
「私は定期的に王都に帰っているからな。ハクシャの開発は今後、ルデクにとって一大事業となる。流石に耳には入るさ。だからこそ今のうちに、当時のままのハクシャを見ておきたかったのだ。間に合ってよかった」
「そのままにしておきたいなら、王家で管理すりゃいいだろ?」
ジュノスの単純な疑問に、ウラルは肩をすくめる。
「そうもいかん。国の発展のためには、常に変化を求めてゆく必要がある」
発展のために、常に変化、か。
ウラルは考えずに放った一言だろうが、元リフレアの民であるジュノスには、その言葉が妙に耳に残る。
そんな会話をしながら橋を探して河を渡る。目的の鎮魂の碑は、ゴルベルとの国境近くに建っているらしい。
と、そこでゼファーが「ちょっと待て」と口を挟んだ。ウラルの護衛であるゼファーが止まれというなら、なんらかの危険があるのか。
「どうした?」
ウラルが問えば、ゼファーは己の耳に手を当てる。
「風に乗って話し声が聞こえました。この先に誰かいます。まあ、声の様子からして危険はないとは思いますが、念の為殿下は私の後ろに。おい、双子、一人先行して様子を見に行ってくれ」
「よし、じゃあ私が行こう!」
「いや、私が行く!」
そのまま競い合うように駆けて行くユイゼスト、メイゼスト。その様子にゼファーが大きくため息を吐く。
「……宰相様は“あれ”の手綱を握っているのか……」
しみじみ呟いたゼファーに対して、
「いや、宰相殿も御しきれんから好きにさせていると聞くぞ」
とウラルが言えば、ゼファーはもう一度深々と息を吐いた。
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結局ジュノスを先頭に、リュージュを後方に配置して注意しながら進めば、なるほど確かに人の姿があった。2台の大型の馬車の前で、数名が双子と何やら言葉を交わしている様子が確認できる。
見たところ、旅一座のようだ。
ジュノス達の接近に気づいた双子が、こちらに大きく手を振ってきた。
「何してる!」
「早く来い!」
全く、自由にすぎる。
とにかく危険はなさそうなので、馬の速度を上げて進んでみれば、待っていたのはやはり旅一座。
ジュノスはあまり芸事に詳しくないが、馬車の規模だけ見ても、人気の一座である様子が窺える。
一際体格の良い男が、ジュノス達の前に出てきた。
「鎮魂の碑に祈りを捧げるところだとお伺いした。我々は邪魔立てするつもりは毛頭ありません。が、少々この場から動けぬ事情がございます。我々のことは放っておいていただければ幸いです」
「動けぬ事情? 馬車でも壊れたか? ならば近くの集落から人を呼んでこようか?」
ウラルが問えば、男は首を振る。
「いいえ、お気遣いだけありがたく頂戴したく」
ウラルは丁寧に頭を下げる男の様子をしばらく眺めたのち、ジュノス達の方へ視線を移す。
「……ともかく祈りを捧げよう」
危険がないのであれば文句はない。なおも旅一座に絡んでいる双子を放置して、鎮魂の碑へ。
碑は簡素なものだったが、聞いた通り、騎士団関係者がよく訪れるのだろう。周辺は比較的整っていたし、花を供えた後も残っている。
ジュノス達はまずは手分けして周辺の雑草などを抜いて、周囲の環境を整えると、それから祈りを捧げた。ジュノスも栄達を祈らずとも、先達の魂の安寧を願う。
「よし」
ウラルの言葉を合図に、祈りを終える。それからウラルが、「もう一度あの旅一座に話を聞きに行こう」という。
双子もまだあの場所にいるだろうし、断る理由はないものの、ウラルがやや眉根を寄せているのは引っかかる。
「何か気になることでもなるのか」
「いや、ともかく戻る」
それだけ言って、旅一座の元まで戻ったウラルは、先ほどの男に開口一番、
「もしかして、お前達はヴァ・ヴァンピルではないか?」
と、問うた。




