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赤銅の剣は無慈悲につらぬく  作者: ばおー
第一章 炎の王国
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第五十話 治癒の魔法

 振り向いて城を見た時、神獣の吐いた溶岩の塊の直撃を受けた場所は、まるでそこだけが空間を切り取られてしまったかのように、溶けてなくなってしまっている。

 サラマンダーの攻撃によって、変わり果てたリザードパレスを見て、ユシアは身体の底から震えがくるのを必死に耐えたーー今は負傷したロレインを安全な場所まで避難させなければならなかったからだ。

 ユシアはロレインを抱き抱えながら、サラマンダーの視界に入らないように、城壁の影に身を隠しながら城門のほうへ向かっていた。

 頭上からは先程の爆発によって飛び散った城の破片が降り注いでいたため、ロレインに当たらないように庇いながら進んだ。

 城壁内は恐怖で逃げる人、瓦礫の下敷きになり動かなくなった人など様々だった。

 街へと続く跳ね橋に辿り着いたユシアは、城門から恐る恐る外の様子を伺ったーーサラマンダーは尾を振りまわし、暴れ、建物を次々と破壊している。

 どうやら、ユシアたちのほうに注意は向いていないようだった。

 ユシアが城門から出たその時、街の方向から跳ね橋へと走ってくるローブを羽織った中年の男性の姿が見えた。

 その男は息を切らしながらユシアの下へとやってきた。


 「君! 〈赤銅(しゃくどう)(つるぎ)〉だね?」


 ユシアの赤い瞳をじっと見ながら、頭から滝のような汗を流した男は言った。


 「そうですーーここは危険です。早く逃げて下さい」


 「わかっているーーだが、城にはわたしの息子がいるんだ。君、レオナルドを知っているだろう? レオはわたしの息子なんだーー頼む、知っているなら教えてくれ」


 ユシアは返事に窮した。

 ブランドンの命令により、自分の近くにいたロレインは助けられたものの、他の仲間の生死は確認ができていないーー当然、ユシアとしては全員が無事に生きていると信じているが、レオナルドの父親の必死の形相を見ると出鱈目に答えるわけにはいかなかった。


 「レオが言っていた魔法院にいる父親と言うのは、あなたのことだったんですね。今は説明している暇はありません。彼女をーーロレインを連れてここから逃げて下さい。レオも他の仲間もまだ城の中にいます。おれはこれから彼らを助けに行きます」


 「待ってくれ! どういうことなんだーー息子は無事なのか?」


 レオナルドの父親は困惑した表情になった。


 「それを確かめに行きます。それよりも、ロレインは重傷を負っています。レオのことはおれがなんとかしますから、あなたはロレインをお願いします」


 城に残してきた仲間のことはユシアも気が気ではなかったーー神獣の気が街に逸れている今なら、仲間を助け出せるとユシアは考えた。

 それに、レオナルドの父親ならば、ロレインを託しても信用できると思った。


 「......わかった」


 ユシアの有無を言わせぬ口調に、レオナルドの父親は承諾せざるを得なかった。


 「だが、その前に彼女をそこに寝かせなさいーーわたしは治癒魔法が使える。少しなら、なんとかなるはずだーーさ、早く」


 ユシアは言われるがままにロレインをそっと地面に下ろした。


 「なにをするんです?」


 「いいから、見てなさい」


 レオナルドの父親は自分の手を広げ、ロレインに向けると、周囲に光が満ち溢れ、彼女の火傷を負った赤く爛れた肌は徐々に元の白い肌へと治っていった。


 「す、すごい......!」


 ユシアは驚きの声を上げた。

 ドレモス砦で負傷した父のアルフィノを、駆けつけた騎士たちが治癒魔法で応急処置をしているのを見ていたが、あの時はここまでは回復していなかった。


 「わたしも一応、魔導師の端くれだからね」


 謙遜するように彼は答えた。


 「うっ......ぐ......」


 痛みを堪えるようにして、ロレインはゆっくりと起き上がった。


 「ロレイン、だいじょうぶか!」


 ユシアは彼女の背中をそっと支えた。


 「あ、ああ。おかげでだいぶ楽になったーーありがとうございます」


 レオナルドの父親に礼を言うと、ロレインはユシアに支えられながら、ゆっくりと立ち上がった。


 「二人とも、ここから逃げて。おれは仲間を探しに戻る」


 「お前一人に行かせられるか! わたしもーーうぐっ!」


 身体を動かしたロレインに痛みが走り、彼女の顔が歪んだ。


 「無理をしてはいけない。治癒魔法は、なにもすべての傷を元通りにするわけじゃないーーあくまでも一時的な処置にすぎない。君の身体は相当なダメージを負っている。無理に身体を動かせば、余計に悪化するだけだ。ここは彼に任せようーー悔しいが、わたしたちがいると足手纏いになるだけだ」


 彼はユシアの心の中を見透かしたように言った。

 確かに神獣から二人を守りつつ、仲間の捜索をするのは至難の技とも言えた。

 ロレインが本来の状態ならば、即座に否定するところではあるがーーユシアは答えず、黙っていた。


 「そうですね......あなたの言うとおりだ。ユシア、団長たちのことは任せたぞ」


 ロレインは悔しさを滲ませていた。


 「ーー任せてくれ。そっちも気をつけろよ」


 「待ちなさい」


 城に戻ろうとするユシアをレオナルドの父親が止めた。


 「君もだいぶ消耗しているようだーー特に〈デュナミス〉を」


 彼はそう言いながら、先程と同様にユシアのほうへ手を広げた。


 「ーーこれは!」


 ユシアの身体が光りに包まれると、一気に身体が軽くなり、今までの疲労が吹き飛んでしまったようだ。


 「すごい......! これが治癒魔法。身体の奥から力が溢れてくるみたいだ......!」


 治癒魔法の回復力はユシアの想像を越えていた。

 シヴァンとの戦いで消耗した体力や〈デュナミス〉が、だいぶ戻っていた。


 「ユシア君、息子を......レオを頼んだぞ」


 「はい」


 ユシアが頷くと、ロレインが声をかけた。


 「ユシア、助けてくれてありがとうーー死ぬなよ」


 ロレインは身体の痛みに耐えながら微笑んだ。

 ユシアは彼女に微笑み返すと、二人に背を向け、崩壊したリザードパレスへと戻って行った。


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