第五十一話 決意
ユシアは半壊した城へと走った。
周囲を見まわしたが、どこにもシヴァンの姿が見えないことが気になった。
神獣の攻撃でシヴァンが死んだとは到底思えなかった。
自らサラマンダーの攻撃を誘い、城を半壊状態にして、自身は姿を眩ましたーーシヴァンには目論みがあり、なにかを狙っているのは間違いないとユシアは確信していた。
「おい、ユシア! こっちだ」
無惨に崩れた城の前には、ユシアには馴染みの人物が立っていた。
三年前にユシアたちが〈赤銅の剣〉に入った時、はじめての訓練相手になったレスター・ウィルコックスだ。
「レスター、無事だったのか! 姿がなかったから、てっきり死んだのかと思ったぞ」
王国騎士団とともに〈赤銅の剣〉が謁見の間に集まった時、レスターもいたのだが、シヴァンとの戦闘がはじまってからは彼の姿が見えなかったため、やられたのだとユシアは勝手に思いこんでいた。
「人を勝手に殺すなよ! こう見えてもお前らより一年先輩なんだからな! おれは戦いは苦手だが、逃げ隠れするのは得意なんだ」
レスターは胸を張って威張ったーーこういうところは三年前から変わらないな、とユシアは思った。
最初に会った時、レスターは貴族出身者に対して攻撃的で、弱い者をいじめる嫌な先輩だったが、訓練の際、ユシアが返り討ちにして以来、自らの素行を改め、今では仲良くなった。
お互いに任務で各地に派遣されるため、会う機会は滅多にないのだが、それでもユシアにとっては、気を許せる数少ない仲間の一人だった。
「自慢するなよーーそれより、ブランドン団長たちは無事なのか?」
「それがそうでもないんだ......命は助かったがーー一先ずこっちにきてくれ」
レスターに案内され、城の中に入ると、そこにはぐったりとした姿のブランドンとティアーズが地面に座り、壁にもたれかかっていたーーそのまわりには、二人を心配そうに見つめるルファたちの姿があった。
全員の姿を見て、ユシアは安堵した。
「みんな無事か! いったいどうしたんだ」
ユシアが駆け寄ると、ブランドンとティアーズの身体は火傷を負い、出血もしていた。
「おれたちを庇って......」
ランドは自分の不甲斐なさを嘆いた。
二人の火傷の状態はロレインよりも酷く、出血も多いため、当分の間、戦闘は無理だろうと思われた。
「悪いな、ユシア......神獣の攻撃は想像以上だった......思いの外、ダメージを受けてしまった」
ブランドンは言葉を発するのも辛そうだった。
「二人とも平気なんですかーーその傷は......」
「わたしたちのことは......気にするな......ユシア。ロレインは......どうした? 無事か?」
ティアーズが苦しそうにゆっくりと話した。
「無事です。実は城の外で魔法院にいるレオの父親に会いまして、ロレインを治癒魔法で治してもらったんです。ロレインを彼に預けて、おれは戻ってきたんです」
「え! 父さんがきてたの!」
レオナルドは驚いて、彼にしては珍しく大きな声を出した。
「ああ。お前のことをよろしく頼むって言われたよ。だから二人もレオの父親に頼んで治してもらえばーー」
「いや、ユシア。今はそんな暇はない。セナの言うとおり、おれたちのことは気にするな。それよりも、今一番の問題は街で暴れている神獣だ。こいつをどうにかしなければいけない」
「ブランドン団長、それはつまり......」
ユシアは唾を飲みこんだーーブランドンの言いたいことははっきりとわかっていた。
「ーーそうだ。神獣の......サラマンダーの討伐だ。情けないがおれたちはこの様だーーお前たちに頼みたい。これは〈デュナミス〉を持つ者にしかできないことだ。神獣はとてつもなく強いーーさっきの一撃で身を持ってわかった。だが、それでも指を加えて見ているわけにはいかない。おそらく、王国騎士ではどうにもならないだろう。新人のお前たちにこんな重責を背負わせなければいけない自分が恥ずかしいが......これは命令ではない。拒否しても構わない。だが、今、人々を守ることができるのはお前たちだけだ......どうか、頼む。この王国を救ってくれ」
ブランドンは今にも意識がなくなりそうな虚ろな瞳をしながらも、ユシアたちに自分の想いが通じるよう、力強い言葉で話した。
ユシアは彼の言葉を聞き、胸が熱くなった。
当然、神獣と戦うことへの恐怖は感じていたが、それよりも、自分の力でこの国の人々を救いたいと言う正義感のほうが強かった。
「なに言ってんの、ブランドン団長! そんなの当然じゃない。わたしたちに授かったこの力ーー今、使わずにいつ使うの。それに、身を呈して命を救ってくれた団長たちへの恩もあるしね」
ユシアが返事をしようとした瞬間、デルフィが陽気に言った。
彼女の言葉にまわりの仲間たちも次々に頷いた。
「デルフィの言うとおりだ......団長たちはここで休んでてくれ。サラマンダーはおれたちがなんとかする」
ランドは力強く言った。
「う、うん。ぼくも怖いけど頑張るよ。任務なんか関係ないーー守るんだ、この国を」
震えるような声のレオナルドだが、その瞳の奥には闘志が宿っているようだった。
「ふふ......レオ、その意気だ」
辛そうなティアーズだが、レオの言葉を聞き、少し微笑んだ。
「......そう言えば」
黙っていたルファが口を開いた。
「シヴァンはどこ? 姿が見えない」
ユシアも気になっていたことを、ルファが口にした。
「城の外にはいなかったーー最初はエリーセの命を狙いに行ったのかと思ったんだけど、その様子もないしーーそうだ! エリーセの無事を確認しないと!」
ユシアは重大なことを忘れているのに気がついた。
この半壊したリザードパレスにはエリーセもいるーーアーサーがいなくなった今、後継者はエリーセだ。
彼女まで失うわけにはいかないーーそれはここにいる全員が同じ気持ちだった。
「エリーセ王女のことはおれとセナでなんとかする......彼女の護衛くらいはできるだろう。おそらくシヴァンは神獣を倒す機会を伺っているはずだ。アーサーを倒した今、王女の命は二の次だろう。今の奴の最優先事項はサラマンダーを倒し、契約の儀を無効化させることだろう。王女はいつでも殺せると高を括っているに違いない......奴と目的が一緒と言うのは気に食わないが......あとはお前たちに懸かっている。頼んだぞ」
「はいっ!」
五人が一斉に返事をした。
「神獣と戦うのか......マジかよ......」
レスターは一人、肩を落とした。




