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第19話

「……ここ、は……」


 そして清子は目覚めました。あたり一面真っ白な世界です。さっきまで降っていた雨も、この世界では降っていません。それどころか、地面と空との境目が、まったく見えないのです。


「あっ、元のすがたに、戻ってる」


 清子は自分のからだを見おろして、思わず声をあげました。さっきまでの人形の姿ではなく、人間のすがたに戻っています。手をにぎったり開いたりして、清子は自分のからだの感触を確かめました。


「よかった、もとに戻ったんだ。でも、おじいちゃんは?」


 清子はあたりをきょろきょろしましたが、どこまで行っても白い色しか見えません。見わたす限り白一色の世界に、清子だけしかいないのです。心細くなった清子は、大声でさけびました。


「おじいちゃーん、だれかー」

「おじいちゃんはここにはいないよ。だってここは、清子ちゃんのいた世界とは別の世界だもの」


 白い世界から、突然女の子の声が聞こえてきました。知らない声のはずなのに、どこかなつかしい声です。いいえ、もしかしたら知っている声なのかもしれません。けれども清子は、その声がだれの声なのか思い出せませんでした。


「あなたはだれ? いったいどこにいるの」


 再び清子は大声で呼びかけました。清子の声は、白い空間にすいこまれていきます。それにしても、先ほどの声はいったいどこから聞こえてきたのでしょうか。頭の中に直接語りかけられたような、そんな感覚でした。清子はもう一度まわりを見わたしました。


「わたしはここよ」


 真っ白な世界に、ふっとなにかが現れました。清子は目をこらして、それから驚きかけよりました。


「ミーヤ! ミーヤね!」


 現れたのは、人形のミーヤだったのです。清子はミーヤに飛びつき、それから何度もほおずりしました。


「ミーヤ、ミーヤ、清子のミーヤ! ごめんね、清子、ミーヤのこと大切にできてなかったわ。小さいころはあんなに仲良しだったのに、ごめんね、さびしい思いさせて。清子、人形になってから、ずっとミーヤにあやまりたいって思ってたの。ごめんね、ごめんね」

「ありがとう、清子ちゃん、でもちょっと苦しいよ」


 清子の胸に顔をおしつけられて、ミーヤがもぞもぞと動きました。清子はあわててミーヤを解放します。


「ごめんなさい」

「ううん、気にしないで。でも、久しぶりに清子ちゃんにぎゅうってしてもらえて、うれしいよ。あったかいね」


 人形だったころの、あの冷たく乾いたからだを思い出して、清子はもう一度ミーヤのからだを抱きしめました。自分のぬくもりが少しでも届くように願いながら。


「でも、どうしてミーヤがしゃべれるの? それに、清子さっきまでお人形さんだったのに、どうして元のすがたに戻ったんだろう」


 ひとしきりミーヤを抱きしめたあとに、清子は小首をかしげました。


「それはね、ここが人形の世界だからよ」

「人形の世界?」


 まだなにがなんだかわからないという顔の清子に、ミーヤは得意げに説明を始めました。


「そう、人形の世界よ。ここには心を持った人形たちがたくさんいるの。清子ちゃんにはまだ見えないかもしれないけど」

「どうして?」

「まだ清子ちゃんは完全な人形じゃないからよ。だからきっと清子ちゃんには、この世界はわたし以外なにも見えていないでしょう。でも、清子ちゃんのからだもまだ人間のままになっている。つまり清子ちゃんは、人形と人間の半々ってことね」


 納得したようにうなずく清子に、ミーヤは続けました。


「わたしね、清子ちゃんが話しかけてくれるたびに、いつも、清子ちゃんとお話できたらなって思ってたの。その願いがかなってすごくうれしいわ」

「清子もだよ。ずっとずっと、ミーヤとおしゃべりしたかった。だって清子にとって、ミーヤは一番のお友だちだったもん。だから」


 今度はミーヤのほうから、清子にほおをすりつけてきました。清子がミーヤを両手で包みこみます。しばらくミーヤは、清子になでられるがままになっていましたが、やがて顔をあげ、清子を見あげました。


「清子ちゃん、これからするのはとっても大事な話なの。清子ちゃんがこれからどうするか、どうなるかを決める、大事な話よ」


 ミーヤの真剣な声に、思わず清子も姿勢を改めました。ミーヤはじっと清子を見あげたまま、話を続けました。


「さっきいったように、ここは清子ちゃんのいた世界とは別の世界なの。だから今は、清子ちゃんは人間のすがただけど、もし元の世界に戻ったら、清子ちゃんはまた人形に戻ってしまうわ」


 さっきまでの温かな感覚が、一気にしぼんでなくなってしまいました。心なしかまわりの白い空間も、寒々とした灰色の空間に変わったように思えます。がっくりと肩を落とす清子に、ミーヤは元気づけるようにいいました。


「でも、清子ちゃんが人間に戻る方法もあるわ」

「えっ、本当? どうすればいいの?清子は、どうやったら人間に戻れるの」


 清子がミーヤにせまります。ミーヤはうつむき、なにも答えません。人形なので、もちろん表情は変わりませんが、清子にはそれが、悲しんでいるように見えました。


「ねえ、清子ちゃん。もしこのままもとの世界へ戻っても、それで人間に戻ることができても、清子ちゃんは本当に幸せなのかな」


いつも読んでくださいまして、ありがとうございます。

最終話まであと4話となります。最後までお楽しみいただければ幸いです。

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