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きっかけは【漢字辞典】〜名前の長い孤児が生きる、漢字が魔法になる世界〜   作者: 七瀬
第一章

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6.妹の才能  ◆ルナ視点

私は小さい時から、母さんが指先から糸を紡ぐのを見るのが大好きだった。


針やハサミがある机は、危ないから近寄らないように。と何度も言われだが、その光景をどうしても近くで見ていたくて作業台に触らないことを条件にずっと母さんの指先を見ていた。

キラキラと輝く指先から紡がれる真っ白な糸を見るたび、いつか自分もこうやって母さんの隣で糸を紡ぐんだ。と疑いもしなかった。


そして4年前、私は洗礼を受けた。

父さんが彫ってくれたネームタグが宝石みたいな光の粒に変わって私の身体に入っていった。

これで私も魔法が使えるようになるんだ!って


でも、その後の魔法教室の事は思い出したくもない。私はずっと憧れてた糸魔法が使えなかった。


風魔法も使えなかったけどそんな事はどうでもいい。私にとって何よりも使いたかったのは糸魔法なのに。何回練習しても使えなかった。


仲良しだったクロエとヘレナも風魔法は使えなかったけど、糸魔法は練習したら使えるようになってた。


「これなら貴族の家の下働きにも出れるかも!次は洗濯魔法を覚えなくちゃ!」

そう言って嬉しそうに話すのを何度も糸魔法を練習しながら聞いていた。


父さんと母さんは何も言わなかったけど、可哀想な子を見るような目で見られている気がして仕方なかった。

だから母さんが紡いだ糸を使って、針仕事も沢山練習して、毎日糸魔法も練習してた。


一つ下の妹のカメリアが洗礼を受けてからは、もっと辛かった。カメリアは洗礼を受けた2日後にはもう糸魔法が出来るようになってた。

母さんと同じ、キラキラと輝く指先から紡がれる白い糸は、私が何度練習しても出せなかったものだった。

それからお針子の勉強にカメリアも加わった。

カメリアが紡いだ糸を使って私が針を動かす。


「カメリアの糸は細くてとても綺麗ね。」そう言って母さんはカメリアを褒めるけど、私には何も言ってくれなかった。

針で指先を傷だらけにしながらひと針ひと針、一生懸命縫っても「ちゃんと縫えてるわ。」

その一言だけだった。


それからしばらくして、クロエとヘレナがお貴族様の家の下働きに選ばれた。私は元々母さんの仕立て屋を継ぐつもりだったけど、糸魔法が使えないから継ぐのはカメリアに決まった。

だから、私も奉公先を探さなきゃいけないけど、糸魔法も使えない女の子にろくな働き口なんか無かった。


9歳になる年のある日、父さんと母さんの言い争うような声で目が覚めた。


「嫌よ!!娼館の下働きなんて!そんな所にルナを奉公に出せっていうの?!」

「なにも客をとる訳じゃない。洗濯とか掃除とかそう言う下働きだって。もう、そういう所でもないと働き口がないんだ。」

「最初はそうでも、後から年頃になって客をとらされるようになるかもしれないじゃない!」

「じゃあ、ルナに仕立て屋を継がせるか?カメリアは糸魔法があるから、貴族の家でも働けるかもしれん。」


「…糸魔法が使えないなら洋裁屋は無理よ。でも娼館は…。」

2人は黙ってしまい、パチパチと静かに暖炉の薪が弾ける音だけがしていた。



「……そうだ、北の孤児院に預けるのはどうだ?

エンゴナシンの子は毎年優秀だって言うだろ?あそこなら上達して糸魔法が使えるようになるかもしれん。少なくとも食うには困らんはずだ。」

「そうね…。そうするしかないのかもしれないわね。」


その後のことはあまり覚えていない。

父さんに連れられてこの孤児院に来た。


アンや同い年のトムといった何人かの魔法が使えない子も居たからそこまで寂しくは無かったけど、それでも毎年、年下の子達が嬉しそうに魔法を使うのを見るたび、胸が締め付けられるような悔しさと世界に一人ぼっちになったような気持ちになった。


気が付くと、私はトムに食堂のベンチに降ろされてた。食堂はスープを作るアンと薪を割るトムのおかげでいつも温かい。


トムが手渡してくれた、温かいミルクを飲みながら私はいつの間にかトムに凭れて眠りについた。


ご覧いただき、ありがとうございます。


次回明日17時頃投稿予定です。

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