47.ルナバッグ工場②
「おはようございます!」
翌朝、ギルドの作業場に集まった人々の数は、昨日よりもさらに増えていた。
カストルさんの求人を見た新たな人も加わり、ルナ姉ちゃんと俺の量産体制で、作業場の一画は、本格的な工場になってきた。
作業が始まると、部屋は驚くほど賑やかになる。
主婦たちが大きなテーブルを囲んで手を動かし始めると、そこはまるで町の井戸端会議の様になった。
「ねえ、昨日うちの旦那がね……」と愚痴をこぼす人。
「うちの子、最近なかなか寝付かなくて……」と、あくびをこらえながら針を動かす若い母親。
「今日の夕飯の献立、何にする?」と顔を顰めながら話す人など話題は様々だ。
針を動かす手のリズムに合わせて、旦那の愚痴や子育ての悩み、今日の献立といった話題が次から次へと飛び交う。
昨日までの暗い影はどこへやら、彼女たちは生き生きと交流を楽しみながら仕事をしていた。
ルナ姉ちゃんもその輪の中に入り、ただ教えるだけでなく、時にはベテランの針子さんから「もっと布をこう引っ張ると縫い目が綺麗になるわよ」といった、職人ならではのコツを教わっている。
昨日までは「先生」として緊張していたルナ姉ちゃんも、少しずつ自然な笑顔を見せるようになっていた。
俺のルーティンも固まってきた。
朝一番にエミルダ先生の作業場へ行き、木箱への付与ノルマを黙々とこなす。それが終わると魔法チームに合流して、付与の作業に参加する。
その日、俺のペアになったのは、一人の妊婦さんだった。
彼女は丁寧に、かつ慎重に針を動かしている。
「あの……つらくないですか? 大丈夫ですか?」
俺がそう声をかけると、彼女は優しくお腹を撫でながら微笑んだ。
「ありがとうね。大丈夫よ。
でもね、不思議なことに、妊娠してからというもの、得意だった軽量魔法がさっぱり使えなくなっちゃって……。
これじゃあ生活も困るし、どうしようかと思っていたの」
「えっ!? 魔法が使えなくなることなんてあるの?」
俺が驚いて聞き返すと、隣で糸を出していた老婆が、作業の手を休めることなく口を挟んだ。
「ああ、よくあることさ。古くからね、母親になる者は、自分の魔力を少しずつ子供に分け与えると言われているんだよ。その分、自分の手元から魔法が消えてしまうのは、ある意味で自然なことなんだ」
老婆の言葉に、妊婦さんは愛おしそうにお腹を見つめた。
子供のために、自分の力を差し出す。俺にはまだ想像もつかないけれど、淡い記憶すらない母さんの事を考えて、複雑な気持ちになった。
「だからね、こうして技術さえあれば刺繍ができるこの仕事は、本当にありがたいのよ」
そう言われて、胸がじんわりと熱くなる。
顔も覚えていない母さんに、会いたくてたまらなくなった。
その日作業は順調に進んだ。
慣れてきた主婦たちの手際が驚くほど向上し、ルナ姉ちゃんの指導もより具体的になっていく。
作業場に充満するのは、心地よい活気と笑い声だった。
日が傾き、今日一日の作業を終えて皆で数えてみると、その日の生産数は80個に達していた。
「80個……! すごい、昨日の50個を大きく超えたわ!」
ルナ姉ちゃんが目を見開いて声を上げる。
隣で見ていたエミルダさんも、優しい顔で笑っていた。
「よし、明日は100個を目指すわよ!!」
カストルさんの掛け声に、作業場全体が応えるようにどよめいた。
700という数字は、もう遠い目標ではない。
この賑やかで温かい「工場」なら、きっと越えられる。
俺は山積みになった鞄を眺めながら、そう確信していた。
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次回、明日18頃投稿予定です
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