44.量産計画と人手不足
カストルさんを見送ってからみんなで夕食を食べたけど、ルナ姉ちゃんは無言のままだった。
俺も考えても答えは出なくでいつの間にか眠りについて、気が付いたら朝になっていた。
翌朝、俺たちは早足でギルドへと向かった。
ルナ姉ちゃんの表情は硬いままで、昨日の動揺がまだ消えていないみたいだった。
ギルドに到着すると、俺たちはカストルさんに案内されて、いつものロビーではなくギルド長室へと通された。
扉を開けると、豪奢なソファーは隅に追いやられていて、部屋の一画がすべて大量の帆布で埋め尽くされ、山のように積まれていた。
そのほとんどは汚れて使い古された帆布のようだった。
「ここにあるのが、今回のアタシのコネクションでかき集めた素材よ。
とりあえずまだ声は掛けてあるから、どんどん集まるわよ」
カストルさんはデスクの革張りの椅子に腰掛け、真っ赤な唇を吊り上げ不敵に笑った。
反対に俺たちは部屋の惨状を見て言葉を失った。どう考えても、ルナ姉ちゃん一人でこれだけの数を縫うのは不可能だ。
「カストル様……私、無理です。こんな数縫えません!!」
ルナ姉ちゃんはスカートの裾をぎゅうっと握って、泣きそうな顔でカストルさんを見上げた。
「そんなの昨日聞いたわよ。
エルちゃん、確認なんだけど魔法をかける術者は糸を出して軽量魔法の付与をかけるだけで良いのよね?」
「はい。合ってます。」
俺の返事を聞いたカストルさんは、小さく頷いてから、鞄から帆布を取り出した。
見ると一度組み立てを終わったルナバッグを再度開いて解体したものだった。
「次はルナちゃんに確認よ。
縫うのはこの両サイドの2カ所と紐を通す部分だけ。
裁断も全て直線で合ってる?」
「はい。なので刺繍以外の作業は難しいものじゃないんです。
ただ、数が問題なだけで…」
どんどん言葉尻が小さくなるルナ姉ちゃんと対照的にカストルさんは笑みを深くした。
「なら、軽量魔法と糸魔法が使える人間と、裁縫が得意な人間を集めればいいだけの話よ。
先生の作業場の一画を借りる手筈は整えたから、ルナちゃんは先生役をやってちょうだい」
「人を雇うってことですか?
そんなに集まりますか?」
「軽量魔法を使う現場は力仕事が多いから、若い人間が選ばれるのよ。立ち仕事がほとんどってのもあるけれどね。
でも、年のせいで仕事が出来なくなったご老人や、怪我で働けなくなった人も多いから割と集まると思うわ。
縫い子も、普段仕事があまり無い女性たちを集めれば、何とかなるわ。」
ホッと息を着いた俺たちの背後でガチャリと扉を開けるとともに、エミルダさんが現れた。
「そんな簡単に行くもんかねぇ」
「先生、どういうことかしら?」
少しツンとしたカストルさんがエミルダさんを見つめると、やれやれといった様子でエミルダさんが続けた。
「問題は縫い子の方だよ。
縫い物が出来る人間のほとんどは女さ。
家に小さい子供が居るんじゃ、おちおち働きになんか出れないだろう?」
「確かに…そこまで考えて無かったわね…」
大きくため息を着いたカストルさんが、天井を見上げて考え込む横で俺はひらめいた事を口に出した。
「それなら、作業場の中に『託児所』を作るのはどう?」
「……託児所?」
眉間にシワを寄せたカストルさんを見ながら、俺は続けた。
「みんなが縫い物をしている間、交代で子供たちの面倒を見るの。
もしくは、子守りだけを担当する人を雇うとか。
そうすれば、みんなは安心して手を動かせるし、子供たちも寂しくない。それに子供たちも友達が出来るよ」
俺の提案に、エミルダさんがケラケラと笑った。
「なるほどねぇ。……あんたたち、本当に面白いことを考えるね。分業の次は、託児所かい」
カストルさんも深く頷いてから口を開いた。
「いいわ、その案で行きましょう。小さい子たちの面倒も同時に見られるし、一石二鳥よ。
……さあ、まずはルナ先生と二人で、お針子さんたちに技術を教えるための『手本』を作りましょうか。」
「はい……! 私、頑張ります!」
カストルさんに先生と呼ばれて頭を撫でられたルナ姉ちゃんは、頬を赤く染めて大きな声で返事をした。
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次回7/17 18時頃投稿予定です
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