42.旅立ちの贈り物
それから俺たちは、軽量鞄を作り続けた。
俺が昼間、エミルダさんの作業場に行っている間にルナ姉ちゃんが刺繍をし、帰ってきた俺が魔法を付与して、翌日分の糸を出しておく。一日に作れる量は五個ぐらいが限界だったけれど、アンもルナに教わって本体を作ってくれたり、フィリップとカイも作業を手伝ってくれたりと、みんなで協力して量産を進めていった。
フィリップは最初はあやふやだった軽量魔法も、作業に参加するうちにどんどん上達していった。そんなある日、彼が意気揚々と日雇いの仕事から帰宅した。
「ただいま!! 聞いて!!」
玉のような汗を額から流しているフィリップは、顔を真っ赤にして興奮しながら話しだした。
「決まったよ! 船乗りの見習い! 王都と海辺のゲミニー領を往復する仕事なんだけど、成人したら異国の貿易船にも乗れるかもしれないって!」
一足早く帰ってきた俺とルナが作業しているテーブルに身を乗り出して話すフィリップは、とても嬉しそうだった。
「おめでとう! 良かったね、フィリップ」
俺は自分のことのように嬉しくて、フィリップと両手でハイタッチをする。後ろから夕食を作ってくれていたアンも顔を出した。
「フィリップ、おめでとう! 会えなくなるのは寂しいけど、仕方ないわね」
そう言ってアンは少し涙ぐみながら、フィリップを抱きしめた。抱きしめられて少し耳を赤くしたフィリップが、もごもごと口を開いた。
「この町が港と王都の中継地点だから、二か月に一度ぐらいは帰ってこれると思う。だから……また帰ってきてもいいかな?」
「もちろんよ! いつでも帰ってきて、待っているから!」
少し気まずそうにするフィリップをアンはもう一度抱きしめた。
抱きしめられて顔を赤くしている所に、カイが帰って来て、二人をしげしげと見つめた。
「ただいま……って、どうしたの?」
「フィリップが船乗りの見習いに決まったのよ! しかも出て行ったきりじゃなくて、たまには里帰りもできるんですって!」
アンに抱きしめられて顔を赤くしているフィリップを見て、カイはニヤリと笑った。
「よかったな、フィリップ。アン、それはそうと、そろそろフィリップのこと放してやってくれよ」
「あ、ごめんね。かまども見に行かなきゃ!!」
そう言って台所に駆けていくアンの背中を、フィリップの視線が追っているのを、またカイがニヤニヤと見守っていた。
「エル、そろそろ二人に渡してもいいんじゃないかしら?」
後ろからルナ姉ちゃんが声をかけてきて、手には二つの軽量鞄が握られている。
「ルナ姉ちゃんが渡してくれる?」
「私が? いいけど……」
そう言いながらルナ姉ちゃんは、二人に鞄を渡した。
「私たちからの餞別よ。耐久実験がまだ終わってないからどれぐらい魔法が持つか分からないけれど、効果が切れたらまたかけ直してね」
二人の前に置かれた軽量鞄には、それぞれの名前まで刺繍してある特注品をルナ姉ちゃんが準備していた。
「ありがとう!! 大事にするね」
二人が笑ってその鞄を受け取るのを見てから、俺は口を開いた。
「商品化の計画も決まったよ。……『ルナバッグ』って名前なんだ!!」
「ちょっとエル!! 本当にルナバッグで確定なの!?」
恥ずかしそうに抗議するルナ姉ちゃんを見ながら、いつか、この鞄を背負ったフィリップたちが、誇らしげに帰ってくる姿を見たい。
そんなことを考えていたら、遠くの方から馬の蹄の音がだんだんと近づいてきた。
不審に思ったのも束の間、大きな音を立てて孤児院の扉が開き、駆け込んできたのは珍しく顔色を変えたカストルさんだった。
「エルちゃん、大変よ。ルナバッグに貴族からの大量注文が入ったわ。
数は来月までに700。とりあえず今ある分だけでも欲しいって。」
カストルさんの初めて見る男装と途方もない数字に俺とルナ姉ちゃんは、息をのんだ。
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