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きっかけは【漢字辞典】〜名前の長い孤児が生きる、漢字が魔法になる世界〜   作者: 七瀬
第一章

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37.元教え子の嘆き



エミルダさんの言いつけでギルドに走ると、深紅のドレスに身を包んだカストルさんが、ちょうど馬車から降りるところだった。



「カストルさん!!」



声を掛けると、周囲を見渡したカストルさんは俺を見つけるとにっこり笑った。


「あら、エルちゃん。 おはよう。どうしたのこんな朝早くから。」


「あの、エミルダさんがカストルさん呼んで来いって」


「あら先生が?何かあったのかしら?」



カストルさんは少しきょとんとして、ギルドの人に声を掛けてから一緒に作業場に向かった。



「で、先生に何かあったの?」


「エミルダさんに何かっていうか…… あの俺が悪いみたいなんだけど…」


しどろもどろになりながら作業場の扉を開くと、エミルダさんが手招きをしてくれた。



「先生ったらどうしたの? こんな朝早くに呼び出すなんて」


「どうしたもこうしたもないさ。 とりあえずこれ見てごらん」


エミルダさんはカストルさんの手に俺の作った軽量鞄を乗せた。

中には何か入っているようで大きく膨らんでいる。



「変わった鞄ね。背嚢かしら?巾着みたいだけど」


「それ、この子が作ったんだよ。あんたから貰った帆布でね」


「あぁ、あの帆布がこれになったのね。そういえば鞄作るって言ってたわね。

随分と上手に縫えるようになったじゃない」



鞄の口を閉じたまま、しげしげとあちこちを見るカストルさんに俺は、おずおずと訂正を入れた。


「違うよ、鞄自体を作ったのはルナ姉ちゃんなんだ。俺は鞄に魔法を付与しただけで……」


「カストル開けてごらん」



エミルダさんに言われて、鞄の口を開けたカストルさんは長いまつ毛を瞬かせた。


「えっと…薪? にしては随分軽いわね、この時期の薪ならそこそこ重いでしょうに」


「軽いのは薪じゃないよ。その鞄の魔法さ。」



カストルさんは慌てたようにすべての薪を取り出し、鞄に施された『軽』の刺繍を見るなり、鮮やかな唇を大きく吊り上げた。


「エルちゃん、付与刺繍までできるようになったの?さすが先生の教え子ね。」


「いや、あの… 刺繍をしたのもルナ姉ちゃんなんだ…


ルナ姉ちゃんは糸魔法がまだ使えないから俺が糸出して、それでルナ姉ちゃんが作った鞄に刺繍して、俺が魔法をかけたの。」



カストルさんは俺の説明を眉間にしわを寄せながら聞いてくれた。


「つまり、そのルナって子が鞄を作って刺繍して、エルちゃんは糸出して魔法かけただけってこと?」



俺は責められてる気分になって、手をもじもじさせながら説明を続けた。


「うん。冷却箱はトム兄ちゃんが彫った物でも魔法がかけられるんだから、軽量鞄も同じようにできないかなって」


「で、やってみたら出来ちゃったってこと? 


エルちゃんこれ知ってる人は?誰かに見せた?」



詰め寄るようなカストルさんに、驚いた俺は思わず両手を上げて答えた。


「昨日孤児院で完成してから、真っ直ぐこっちに持ってきた。

贈り物にしようと思ってたから、見たのはここにいる人以外はルナ姉ちゃんとアンだけ。


トム兄ちゃんが誰かに言う前にエミルダさんさに見せろって…」



チラリとトム兄ちゃんに視線を向けると口を堅く結んだまま、カストルさんを見て頷いていた。

カストルさんに視線を戻すと、眉間にシワを寄せたまま大きくため息を吐いた。



「先生ぇー! 20年前とおんなじじゃない!」



カストルさんの綺麗に纏められた金髪が一房ひらりと乱れた時、エミルダさんがケラケラと笑い出した。



ご覧いただきありがとうございます。

次回も明日17時頃投稿予定です


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