36.歓喜と魔女の高笑い
ぽかんと2人で口を開けたまま、しばらく顔を見合わせて、ほとんど同時に鞄をもう一度見た。
「ルナ姉ちゃん……今、鞄光ったよね………?」
「光ったわよね……?」
目を見開いて固まっていたルナ姉ちゃんが、弾かれるように台所に駆けて行き、麦の大袋を少しふらつきながら抱えて戻ってきた。
その後ろから何があったのかと、アンが顔を覗かせている。
机の上にドサリと置かれたそれを見た俺も、目の前の鞄の口を引っ張って大きく開け、その大袋を鞄の中に入れた。
じっとりとした手の汗を感じながら、鞄の口を閉じてそっと持ち上げてみる。
「ルナ姉ちゃん……軽い…」
俺は鞄をルナ姉ちゃんの震えた冷たい手に、そっと乗せて反応を待った。
「軽いわ…」
目を見開いたルナ姉ちゃんが、口をほとんど動かさないで呟いてから、俺に抱きついて喜んだ。
「エル!! やったじゃない! あなた天才よ!」
興奮したルナ姉ちゃんの声に驚いて、裏庭と台所から怪訝な顔をしたアンとトム兄ちゃんが、顔を出してきた。
「ルナ姉ちゃん! できた!!」
二人して抱き合ったまま、飛び上がって喜ぶ俺たちに、アンが声をかけてきた。
「ちょっと、どうしたの二人とも。何があったの?」
「出来たのよ!! 軽量鞄が!」
ルナ姉ちゃんは麦袋が入ったカバンをアンの手に乗せて、反応を待った。
「……軽い……」
目を見開いて、鞄の中身とそれを持つ手を何度も見比べてから、アンはその鞄をトム兄ちゃんに手渡した。
トム兄ちゃんもポカンと口を開けたまま同じ動きを繰り返し、俺を見た。
「あのね、俺ずっとルナ姉ちゃんにお裁縫習ってたでしょ?
あれね、軽量鞄を作ろうと思って習ってたんだ」
俺は興奮したまま、二人に説明を続けた。
「でもね、俺、刺繍がなかなかうまくならなくて、木箱はトム兄ちゃんが彫っても軽量箱作れるなら、鞄もルナ姉ちゃんの刺繍でも出来るんじゃないかなって思って!
試したら出来ちゃったの!」
俺の説明を聞いて、トム兄ちゃんは大きくため息を吐いた。
「エル、その鞄とりあえず明日エミルダさんに見せてこい。
ルナも、アンも一旦誰にも言うなよ。」
少し怖い顔のトム兄ちゃんに言われて、俺とルナ姉ちゃんはコクコクと頷いた。
翌日、完成した軽量鞄を持ってエミルダさんの所にトム兄ちゃんと行くと、それを見たエミルダさんはあんぐりと大きく口を開けた後、ため息を吐いてから大きな声で笑い出した。
「エル、あんた流石だよ。面白いこと考えるじゃないか」
「そんなに? だって冷却箱の掘り込みと一緒だよ?」
笑いすぎて目じりに涙を浮かべながら、エミルダさんは続けた。
「そもそも、冷却箱を掘り込みと付与に分業したのは、あたしが最初なんだよ」
「そうなの? でもなら、なおさら今までエミルダさんは思いつかなかったの?」
エミルダさんはニヤリと笑いながら答えた。
「付与刺繍ってもんは貴族の嗜みだからね。出来ないほうが珍しいんだよ。
お針子も、まともに糸も出せないんじゃ、お針子の給料よりもそれに使う糸代の方がかかっちまうから、到底商売にはならないんだよ。」
エミルダさんは鞄を隅々まで見ながら話を進めた。
「あんたが糸を出して、別の人間がその糸を使って刺繍をして、で糸を出したあんたがもう一度付与魔法を入れる。
そんなまどろっこしいこと、考えつかなかったよ。
それにしても丁寧な縫製だねぇ」
エミルダさんは軽量鞄を開けたり閉めたりしながら、続ける。
「それにこの形も面白いよ。旅人や平民には重宝するだろうね。
これ素材は帆布だろう? カストルから貰ったのかい?」
「うん。張り替えたからって古いの貰ったんだ。 それに清潔魔法かけて…」
「帆布なら丈夫だし元が重い生地だから、ある程度魔法も持つだろうね。
で、あんたこれどうする気だい?」
人の悪そうな顔で俺の顔を覗き込むエミルダさんに、少しビクビクしながら答えた。
「カイとフィリップがもうじき孤児院を出るから、その時に渡そうと思って…
あの二人なら軽量魔法使えるから、魔法が切れても掛けなおしが効くでしょ?」
エミルダさんはそれを聞いて、一層目じりの皺を深くした。
「あんたらこれ、量産したら腹いっぱい食えるようになるかもしれないよ。」
ケッケッケと魔女のように笑うエミルダさんがギルドの方向を見ながら、呟いた。
「材料の出どころがあの子なんだ、協力してもらわない手は無いねぇ……」
悪だくみをしているような顔でエミルダさんは俺にカストルさんを呼んでくるように言った。
ご覧いただきありがとうございます。
次回も明日17時頃投稿予定です
★や評価、ブックマークなども
本当にありがとうこざいます。
励みにしておりますので、よろしければポチッとしていただけますと幸いです。




