34.夢の巾着鞄
「ただいまー」
軽くなった帆布を頭上に掲げながら、ヘトヘトになって孤児院の扉を開けると、ルナ姉ちゃんとアンが一瞬目を丸くしてから、怪訝な顔をした。
「おかえりなさい……
ってエル、あんたまたやったの?」
頭上にふわふわと浮く帆布を見ているルナ姉ちゃんに、俺は弁解をした。
「カストルさんに使い古しの船の帆を貰ったんだ!
裁縫の練習して、鞄作ろうと思って!!
でも重いから軽量魔法かけて持ってきたんだよ!」
俺は、帆布をくくっていたロープを手繰り寄せて、左手でしっかり握ってから、右手の指先に魔力を込めた。
金色に光る指先で『除』の文字を描き、それが帆布にすっと吸い込まれると、ふわりと『軽』の文字が浮かんで空中に消えていった。
その瞬間、ドサリと大きな音がして床に帆布が勢いよく落ちた。
俺は両手でその帆布をやっとのことでテーブルに上げ広げていく。
「所々破けた布だけど、とっても丈夫なんだって。
まだあるけど、とりあえず一船分貰ってきたんだ」
見ると、力が係る留め具の付いている所は痛みが酷いが、それ以外の真ん中の方はほとんど痛みがなくきれいなままだ。
「貰ったって、あんたこの綺麗な布無理で貰ってきたの?
しかもまだあるですって?!」
目を見開いて食いつくように言ってきたルナ姉ちゃんに、少し驚きながら続けた。
「う、うん。 倉庫に積まれてたのを清潔魔法かけて持ってきたんだ。
これで鞄作れるかな?」
大量の布を前に興奮しているルナ姉ちゃんに問いかけると、ルナ姉ちゃんが布を撫でながら答えた。
「トムみたいな手提げ鞄なら簡単だけど…」
「そうじゃなくて、両手が空くように背負える鞄が欲しいんだ」
ルナ姉ちゃんが布を撫でたまま考え込む。
「うーん…
旅人や兵士が使うような背嚢のこと?
型紙があれば何とかなりそうだけど、ちょっと難しいわね…」
―はいのう?多分リュックサックのことかな?
「そうじゃなくて、ルナ姉ちゃんが作ってくれた巾着を大きくしたみたいなのなら作れるかな?」
俺は首から下げていた財布の巾着を、胸元から出しながら話した。
「この巾着を大きくして、それでその紐の先を下の隅にくっつけるの。
そしたら背負えると思うんだけどどう?」
ルナ姉ちゃんは難しい顔をしながら俺の財布の紐をいじっている。
「まあ、考えてみるわ。
そのかわり、この布まだ貰えるなら貰ってきてちょうだい。」
よほど布がたくさんあるのが嬉しいのか、頬ずりする勢いで帆布に抱きつくルナ姉ちゃんがニコニコ笑いながら答えた。
次の日、仕事終わりにギルドに行った時にカストルさんに声を掛け俺は更に2船分の帆布を貰った。
今日は鮮やかなブルーのドレスに身を包んだカストルさんは、ぷかぷかと俺の頭上に浮かぶ帆布を見て、ケラケラと笑った。
「エルちゃん、あんた面白いこと考えるわね〜
まだまだあるから、欲しいならまたいらっしゃいな」
白い歯を見せて笑うカストルさんにお礼を言って、ギルドを出ると、何人かポカンとした顔をした人とすれ違う。
―昨日とは違って楽だけど、人目のある所はちょっと恥ずかしいかも…
そんな事を考えながら孤児院が近づくと、トム兄ちゃんが薪を割る音と、アンの作るスープの匂いがした。
今日は豆とトマトのスープかな?
「ただいまー」
孤児院の扉を開くと、見たことないぐらいニコニコ笑ったルナ姉ちゃんが出迎えてくれる。
「おかえりなさい!! ねぇ見て!!」
ルナ姉ちゃんが振り返ると、俺が想像していた通りの、巾着型の鞄を背負っていて、自慢げに笑っていた。
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次回も明日17時頃投稿予定です
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