31.魔法の価値と糸巻き機
天井からはたき落とす様にして、やっと鞄を下ろした頃にはもう昼過ぎになっていて、椅子の下に鞄を敷くようにして昼ごはんを食べた。
ようやく、間違った軽量魔法をかけた鞄に向かって指先を光らせ、『除』の文字を刻んでいく。
さっき見た書き順を間違えないようにしながら、丁寧に進めると、ふわりと鞄が光り金色の『軽』の文字がふわりと浮かび上がり、さっと消えていった。
ドキドキしながら鞄から手を放すと、ぽとりと床に落ちてホッと息をついた。
鞄を拾い上げると、かなり汚れてしまっていることに気付いた。
昨日一晩中天井に浮いていた鞄は、蜘蛛の巣とホコリが絡まっている所や、さっき床に敷いたせいで泥にまみれている所もある。
―『潔』の魔法でもかけようかな…
そう思ってもう一度、指先を光らせて意識を集中させると後から声がした。
「なーにしてるんだい?
また、軽量魔法をかけるんじゃないだろうね?」
「ち、違うよ。 綺麗にしようと思って、清潔魔法かけようとしただけだよ!」
びっくりして必死になると、ため息をついたエミルダさんに促され、もう一度指先に魔力を集中させた。
汚れた茶色の鞄を前に金色に光る『潔』の文字を丁寧に描いていく。
鞄にその文字が染み込むように消えていき、鞄自体がカッと明るく光ったあと、目の前に現れたのは真っ白な鞄だった。
「これ、元々は白だったんだ…」
ぽつりと呟くと俺の肩に、ポンッとエミルダさんのしわくちゃな手が置かれた。
「相変わらず上手い事やるねぇ。
ところであんた、今日の分まだ済んでないんじゃないかい?」
作業場の片隅に置かれた、今日の分の30個の木箱を思い出して、慌てて駆け寄る。
傾き出した夕陽に追われながら、必死で指先を何度も光らせた。
やっとのことで全てを終わらせ、急いで孤児院に帰るとフィリップとカイはまだ孤児院に着いていなかった。
「おかえりなさい。 今日は一番乗りね。」
針仕事をしているルナ姉ちゃんに聞くと、トム兄ちゃんも今日はまだ帰っていないみたいだ。
「削除魔法習ってきたよ!
トム兄ちゃんが剝がしの魔法って言ってたやつ!!」
真っ白な鞄を突き出しながらルナ姉ちゃんに見せると、翡翠色の目を大きく見開きながらポカンとしている。
「え…? これ、あの茶色の鞄?
なんでこんな真っ白になってるのよ?!」
驚いているルナ姉ちゃんに、少し得意げになって頭を掻きながら答えた。
「汚れてたから、清潔魔法かけたんだ!
真っ白になったよ!」
「エルあんた、そんな魔法も使えたの?」
「うん、フィリップもできるよ!
あっ…でも、カイは使えなくて…で、この間あんな事になったからなんか言いづらくて…」
途中でモゴモゴしながら答えると、ルナ姉ちゃんが口元だけで小さく笑った。
「優しい子たちね…
でもこの魔法、どれぐらいの価値があるか分かってる?」
「え?
どれぐらいってどういうこと?」
言われた意味が分からずにポカンとしてると、ルナ姉ちゃんがため息をついた。
「はぁ…。 街の洗濯屋ならここまでやったら小銀貨5枚は掛かるわよ?」
「小銀貨5枚?! 俺の日当5日分じゃん!!」
「そうよ。だからめったにその魔法、ほかの人に見せるんじゃないわよ。」
手を出したルナ姉ちゃんにトム兄ちゃんの鞄を渡すと、隅々を見ながら、「ホントに綺麗ね…」とポツリと呟いた。
ルナ姉ちゃんは清潔魔法で直らない、ほつれや破れが気になるらしくあちこち見ながら確認をしてから、にっこり笑って言った。
「エル。 糸、出してちょうだい。
いくらあってもいいわ。」
そうして俺はトム兄ちゃんが帰ってくるまで、ルナ姉ちゃん専属の糸巻き機になって糸を出し続けることになった。
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次回も明日17時頃投稿予定です
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