27.望んだ切符と許しの言葉
翌朝、まだ寝ているカイとフィリップを置いて、物音のする方に向かうとエミルダさんが台所で料理をしていた。
「…おはようございます。」
「あぁ、おはよう。 よく眠れたかい?」
「はい…。」
鶏肉やにんじんを小さく切っては、どんどん鍋に入れていく様子を見ながら、俺は意を決してエミルダさんの背中に言った。
「俺、目指したい。特待生。
たくさん勉強して、学園に入りたいです。」
にんじんを切っていたエミルダさんが手を止めて、振り返った。
「13までの6年間、頑張れるかい?
もしダメだったときは、もう見習い奉公は見つからんかもしれないよ?」
「はい。それでも、やりたいです。」
孤児院の皆でお腹いっぱいご飯を食べることも、ルナ姉ちゃん達が魔法を使えないワケも、大賢者の漢字辞典の謎も、学園に行けば何が分かるかも知れない。
目を見て宣言する俺に、エミルダさんはニヤリと笑った。
「じゃあ、それまでの間はあたしの所で修行しながら働くといい。
ただし、毎日必ず冷却箱と凍結箱、それに清潔箱を10個づつ作ること。それが条件だ。
出来るかい?」
「はい。やります。」
「じゃあ、明日からよろしくね。
朝飯にするから2人起こして、顔洗っといで。」
そうして3人で朝ごはんを食べてから孤児院へ帰ることになった。
エミルダさんのスープは孤児院のスープより具だくさんで美味しいのに、アンのスープが恋しくて堪らなかった。
孤児院への道中、3人で歩いて居ると後から声をかけられた。
振り返ると走って来たらしい昨日の赤毛の子が、息を切らして膝に手を付いていた。
「ハァ、ハァ… あの、その…
昨日は…悪かった…」
下を向いたまま、こっちを見ずに言う彼にカイはそのまま、つむじに向かって言った。
「いいよ。もう。
でも、次は許さないから。俺以外にも言うなよ。」
そのまま振り返って、また孤児院への道を歩き出すカイを、俺とフィリップは慌てて追いかけた。
「おい、いいのか? あんなヤツ許して。」
少し面白く無さそうに寄るフィリップに、カイは真っ直ぐ前だけ見て言った。
「うん。昨日の夜、作業してる時にエミルダさんが言ってたんだ。
俺に親が居ないのは俺のせいじゃないし、でもあいつが魔法を使えないのも、あいつのせいじゃないって。」
「そうだけど……」
――誰のせいでもない。
カイの真っ直ぐな言葉に、フィリップも俺も黙り込むしかなかった。
それでも納得してなさそうなフィリップを横目に、カイはどんどん帰り道を進んでいく。
俺はカイの黒い頭を見ながら、昨日の涙と、ドロドロに汚れたルナ姉ちゃんの財布を思い出していた。
しばらくして孤児院に近づくと、トム兄ちゃんが薪を割る乾いた音と、鶏の鳴き声が聞こえてきた。
「「「ただいまーー!!!」」」
3人で声を上げると、ルナ姉ちゃんが飛んできて、カイを抱きしめた。
「もう、あんたって子は心配かけて。
財布ならまた作ってあげるから無茶しないでよ」
泣きそうな顔のルナ姉ちゃんに抱きしめられているカイの耳は、この間よりもずっと赤かった。
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