25.大金貨10枚の甘い夢
「もしかして、ふたりはお貴族様なの?
お風呂も、アイスクリームも……
それに、王立学園の先生と生徒だって言ってたよね?」
恐る恐る聞く俺に、エミルダさんとカストルさんは一度目を合わせてから同じような顔で笑った。
「確かに先生もアタシも、貴族といえば貴族だけど…
アタシはあんまり関係ないわね。
先生は、それはそれは美しいご令嬢だったけど」
「フン、あんただって相当に女生徒にゃ人気だったろ。」
「お互い昔の話ね。
でも王立学園っていっても貴族だけが通うわけじゃないわよ?
それなりの大店の娘ちゃんや、息子ちゃんだって居たもの。」
同意を求めるようにカストルさんがエミルダさんを見た。
「まあ、魔法ができて金さえ積めばね。 大概のことは何とかなるもんさ。」
少し遠い目をしたエミルダさんに、食いつくように俺は問いかけた。
「俺、学園に行きたい!
学園に行って、もっともっと魔法を勉強して、トム兄ちゃんみたいに皆を助けたい!父さんのことも……
いくらあれば学園に行ける?」
きょとんとした顔のカストルさんが、頬杖を突きながら思い出すように言った。
「えっと……入学金とは別に、毎年の学費と寮費もあるから……」
そっぽを向いたカストルさんに、呆れたようにエミルダさんが続けた。
「フン、親に払って貰ったボンボンにゃ分からんか。
まず入学金が大金貨4枚、毎年の学費と寮費が合わせて大金貨2枚ってとこだね。
13歳から3年間だから卒業まで全部で大金貨10枚さ。」
「そんなに?!
…エミルダさんの所で働いた俺の日当が小銀貨1枚だから…
全部貯めても30年近くかかるってこと?」
あまりの金額に目眩を起こしそうになっていると、エミルダさんが悪巧みをするような顔でにやりと笑った。
「ふふふ……。じゃあ、目指してみるかい?
入学金も、学費も、寮費もぜーんぶ無料の【特待生】ってヤツを。
あんたなら出来るかもしれないよ?」
「特待生?! そんなのあるの?」
驚く俺とは裏腹にカストルさんが少し渋い顔をした。
「ちょっと先生それは…」
眉間にシワを寄せ、嗜めようとするカストルさんを横目に、エミルダさんが続けた。
「さて。そんな事はさておき、そろそろ子どもは寝る時間だよ。
昔、住み込みの見習い奉公が寝てた部屋を貸してやるから着いておいで。」
眉間にシワを寄せたままのカストルさんを置き去りに、作業場を後にするエミルダさんに着いていくと2段ベッドが2つある部屋に通された。
天井からぶら下がるランタンのような物に向けて、エミルダさんは『灯』と指先を動かすと、煌々とした昼間のような灯りに包まれた。
部屋片隅には古びた木箱が積まれているが、孤児院の寝室よりも清潔な部屋で、蜘蛛の巣一つない。
「ちとホコリっぽいが、我慢しとくれ。
寒かったら毛布もあるから。風邪ひかないようにね。
そういえばエル、あんた湯船の水張り替えてくれたかい?」
「うん。大分汚れちゃってたから…
エミルダさんも入るでしょ?」
毛布を出しながらこちらを見ずに聞いてきたエミルダさんに、答えると今度はしっかり俺の目を見てきた。
「そうかい、ありがとね。
じゃあみんな、今日は疲れたろ。しっかりとお休み。」
部屋の灯りを消したエミルダさんが出ていくと、カイがベッドの下から声をかけてきた。
「エル、おまえ孤児院に残るんじゃなかったのか?学校に行きたいなんて前言ってなかったろ?」
隣のベッドのフィリップも同調して続けた。
「俺もびっくりしたぞ。でもまあ、孤児院に居られるのも15までだもんな」
俺は小さく頷いて、天井を見上げた。
「そうだね……でも学園に行ったほうが稼げると思うんだ。そしたらさ、みんなでお腹いっぱいご飯食べれるよ。あのアイスクリームも…」
ポツポツと話をしながらも、潮が満ちるようにゆっくりと訪れる睡魔に俺は意識を手放した。
作業場の方はまだ明かりが煌々と灯っていて、ドアの隙間から光が漏れていた。
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次回も明日17時頃投稿予定です
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