22.プロ達の嗜み、指先の魔術
「まっったく…もう。 相変わらずね先生も」
文句を言いながらもカストルさんは、コツコツとヒールを鳴らし、ふわりと風に舞う花弁の様にスカートをたなびかせながら、作業場に入ってきた。
エミルダはまた人が悪そうに笑い、指示を飛ばした。
「それじゃ、とりあえず冷却箱と凍結箱に仕分けるよ。」
重い木箱は、俺たちとエミルダさんは一個づつしか運べないけど、トム兄ちゃんは一度に2個づつ運んでいる。
逞しい腕を羨ましく思っていると、その横を一度に4個の木箱を運ぶカストルさんが通った。
ドレスの中の筋力に呆れながら、仕分け作業が終わる頃には、殆ど夕陽は見えなくなっていた。
「トム。あんたはとりあえず孤児院に帰んなさい。
あんまり遅いと心配するだろう。3人は今日はうちに泊めるから。
副ギルド長にも事情を話しとくれ。」
トムを帰し、作業場は5人だけになった所でまた指示を出した。
「さて、凍結箱が40と冷却箱が60だね
カストルとエル、それにフィリップで冷却箱を頼むよ。こっちはあたしとカイでやるから。」
「でも、凍結の魔法はさっき…」
カイが泣きそうな顔で口ごもると、その頭をぺしりと軽く叩いた。
「なーに言ってんだい。 あれだけの威力が出せるならしっかりコントロール出来るようにならないとね」
そうして、俺たちは二手に分かれて作業に入った。
「改めまして、斡旋ギルドのギルド長を務めていますカストル・ゲミニーよ」
鮮やかな唇でにっこりと笑い、ドレスをつまんでカーテシをする背筋は、一切ブレがなく優雅なのに、どこか騎士のような振る舞いだった。
俺達は椅子代わりの木箱に腰掛けて、『冷』の魔法陣を指先でなぞっていく。
必死な俺たちの横で、その倍以上の速さでカストルさんが涼しい顔で冷却箱を仕上げ始めた。
『冷』をなぞる指先は、楽器を奏でるように繊細で迷いがない。
眉一つ動かさずに冷却魔法を使いこなすその後ろで、エミルダさんとカイが凍結箱を作るのが見えた。
思わずぼんやりと見ていると、おでこにデコピンをくらった
「ちょっと。 なーにぼんやりしてんのよ。
先生の方ばっかり見てないで、さっさと手動かしなさい。」
隣のフィリップも、カイ達を見ていたようで一緒に怒られてしまったところで、フィリップが声を上げた。
「なんでギルド長は、エミルダさんのこと先生って呼ぶんだ?」
フィリップの問いにカストルさんはケラケラと笑い声を上げた。
「あらヤダ、アンタ達知らないの?
あの人、今はあんなお婆ちゃんだけど、昔は王立学園で付与魔法を叩き込んでた凄腕の教師だったのよ?
で、アタシもその教え子のひとりってワケ。」
衝撃の事実に2人であんぐりと口を開けていると、それを見てまたカストルさんは笑った。
そんな話をしながらもカストルさんの指先は、優雅に冷却箱を仕上げていった。
どっぷりと日が暮れ、月が顔を出す頃には全ての冷却箱が完成し、俺たちは汗でびっしょりと濡れた額を袖口で拭った。
対して、相変わらず涼しい顔をしているカストルさんはエミルダさんに声を掛け、外に出ていった。
エミルダさんと全ての凍結箱を仕上げたカイは、達成感に満ちた、晴れやかな顔をしていた。
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次回も明日17時頃投稿予定です
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