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きっかけは【漢字辞典】〜名前の長い孤児が生きる、漢字が魔法になる世界〜   作者: 七瀬
第一章

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21.俺らの矜持と深紅のギルド長


ようやく立てるようになったエミルダさんは、体中に付いた泥をサッと払いながら、冷たい目で言った。



「みなしごかい。随分な言い草じゃないか。

明日のパンにも、寝床にも困ったことがないような甘ったれた小僧が。


この子たちはね、既に自分たちで努力して身を立て始めてるんだよ。


ロクに努力もしたことないような甘えん坊が、罵っていいと思ったら大間違いだよ。

才が無いのを棚に上げて、他人を傷つける様な人間に女神様が力を与える訳がないだろう。


もう帰んな」



静かにエミルダさんに突き放された赤毛の子は、顔を真っ赤にしながら駆け出て行った。


他の子どもたちも、気まずそうにぞろぞろと出ていき、エミルダさんと俺たち4人だけがその場に取り残された。




エミルダさんは周囲を見渡しながら、ため息を吐く。

「はぁ、……こりゃダメだね。全部の魔法が解けちまってる」


風で木箱がなぎ倒されたせいか、作業場全体に俺が『温』を掛けたせいか、冷却箱と凍結箱は、付与された魔法が解けてただの木箱に戻ってしまっていた。


「ごめんなさい!! 俺が温めたから……」


咄嗟に謝ると、エミルダさんは

「お前さんのせいじゃないさ。」

と言ってくれたけど、製品をダメにしてしまった事には違いはない。



申し訳ない気持ちと、悔しい気持ちでいっぱいになっていると、作業場の扉が―バンッ と勢いよく開いた。



「エミルダ先生!?


すごっい音がしたから、様子を見に来たのだけど……

これは……何事かしら?」


扉の前には長身で細身の、ドレス姿の人間が立っていた。

一見、背の高い女性かと思ったが…


男だ。 声と体格が完全に男のものだ。


一見すると女性の姿をしている。

派手な深紅のドレスも

緩く巻いて後ろで纏め上げた長い金髪も

唇を彩る真っ赤なルージュも

姿自体は、非常に本人に似合っている。


でも、声も、体格も見れば見るほどに……


―オネエだ… この世界にも居るんだ…


唖然としていると、エミルダさんが答えた。


「なんだい。 カストルかい。

どうしたもこうしたも、魔法がちょっーと暴発しちまっただけだよ。


にしても、相変わらずけったいな格好だねぇ。」



カストルと呼ばれた彼?は、爪まで美しく磨かれた指先で、優雅にドレスの裾を翻した。

「格好は放っといてちょうだい。アタシが好きでやってるんだから。


にしても、この冷却箱と凍結箱… 明日納品よね?

間に合うのかしら?」



「あんた達、怪我は無いかい?」


急に話を振られて驚きながら、4人でコクコクと頷くとエミルダさんはニヤリと笑った。


「特別料金払ってやるから、あんたらちょっと残りな。


なーに5人でやれば夜更け前には終わるさ。」


5人…? トム兄ちゃんは魔法が使えないから…

俺とフィリップ、カイにエミルダさんと……



「ちょっと!! 5人ってアタシまで入ってるの!?」


「ああ、 頼りにしてるよ。 "ギルド長"。」


悪い顔で笑うエミルダさんは、今度は俺らの方を見て言った。


「さあ、魔法の失敗は魔法で返す。

それが、あたしら魔法使いの矜持さ。」



ご覧いただきありがとうございます。

次回も明日17時頃投稿予定です


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本当にありがとうこざいます。


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