20.凍てつくプライド
お昼ご飯を食べてからも、カイとフィリップは『潔』の魔法陣と向き合っていた。
ポタポタと首筋を流れる汗が鬱陶しいのか、上半身は裸になっている。
テーブルの上には畳まれた服と、昨日ルナ姉ちゃんに貰った財布が置かれていた。
何度も、何度も、金色に光る『潔』が音もなくふっ、と途中で消えては失敗する様子を、俺は横から黙って見つめていた。
フィリップは、氵が 冫になってしまっていたり、書き順がぐちゃぐちゃだったりしている。
一方、カイは書き順は合っているはずなのに、途中で電球が切れるみたいに光が消えてしまう。
―ルナ姉ちゃんの糸魔法とおんなじだ。
そう思った瞬間、隣でフィリップが大声をあげた。
「っやったーーーー!!! 出来た!!!」
箱を開けたフィリップの目の前には、綺麗になったもう片方の靴が入った清潔箱が完成していた。
カイは唇を噛んで悔しそうに一瞬見たあと、もう一度魔法陣に向き合った。
何度も、何度も、光っては消えていく『潔』の魔法陣を見ていたら、だんだんとその手元が暗くなっていった。
夕陽が傾き始め、エミルダさんの周りに仕事を終えた子どもたちが集まりだした。
ガヤガヤとした子どもたちの声も聞こえないみたいで、カイは集中して、木箱と向き合っている。
その時、昨日から気になっていた陰口を言う赤毛の子と目が合い、思わず声を上げそうになった。
―洗礼の日に【みなしご】って俺らを罵った子だ…
その瞬間、赤毛の子が口を開いた。
「フン、親に捨てられたみなしごが、今度は女神様に見捨てられたぜ!」
蔑むように、口汚く揶揄しながら、カイの財布を汚い物の様に指で摘むつまむ。
「見ろよこれ! みっともねえ。
まさかこれが財布か?」
そうして財布を指から離し、地面に落として足で踏みつけた。
生成りの綺麗な財布が、土に汚れてドロドロになったのを、真っ赤な顔で見たカイの指先が、描こうとしていた『潔』ではなく咄嗟に違う魔法陣を描き、指先がカッと金色に光った。
―『凍』―
最後のはらいを描いた瞬間に、作業場全体が冬の吹雪よりも冷たい、風と白い冷気に覆われた。
痛いほどの凍える冷気が、積んである木箱をなぎ倒して轟音が周囲を包む。
カイを止めようとしたエミルダさんは、崩れた木箱の下で身動きが取れなくなってしまっている。
俺は意を決してカイの手を掴み、反対の手で大きく『温』の魔法陣を描いた。
夏場のビニールハウスをイメージしながら、最後の一筆を描いた瞬間、凍えるように寒かった作業はサウナの様に暑くなり、その後温度が戻っていった。
気がつくと、周囲は木箱が散乱していて、エミルダさんや赤毛の子など、何人かが下敷きになっている。
いち早く助けに動くトム兄ちゃんに倣って、エミルダさんを助け出した。
幸い大きな怪我はない様子だけど、所々擦りむいている所に『治』の治療魔法をかけていく。
他の子たちにも同様に治療魔法をかけようと近づくが、バツが悪そうにしてツンとそっぽを向かれてしまった。
トム兄ちゃんは、ドロドロになって破れてしまったルナ姉ちゃんの財布を握り締めて、ポロポロと涙を流すカイを抱きしめて、頭を撫でていた。
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次回も明日17時頃投稿予定です
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