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きっかけは【漢字辞典】〜名前の長い孤児が生きる、漢字が魔法になる世界〜   作者: 七瀬
第一章

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2.魔法教室

夢のなかにいるような、ぼんやりとしたまま教会を出ると何人かの大人が子供たちを集めていた。


「こっちで初期魔法を教えるぞ。お前らの将来に関わるからよく聞け。」

大柄な体つきの中年の男が、俺たちの前で人差し指を立てた。


「魔法を使うときはまず、指先に魔力を集める。そして魔法陣を描く。」

そう言ってそのまま漢字で『火』と指先で書いた。


金色に浮かんだ漢字の最後のはらいを書いた瞬間に空中に炎が浮かび熱を帯びる。

創造していたような、小難しい呪文ではなく漢字がそのまま魔法陣として成立して具現化するらしい。

あまりにも俺にとって現実味がないが、だからこそ漢字辞典が彫刻にまでなって女神様の足元に置かれていたのだろうか。



「お前たちが普段使う魔法は曜日の魔法だろう。さっきの『火』を入れて全部で6つ。ここに安息日を入れて7日で1週間だ。」

教師役のおじさんは順番に魔法を見せてくれた。


『水』と書くとふわふわと球体状の水がでる。

『土』と書くとボコりと足元の土が隆起する。

『光』と書いて小さな明かりが灯る。

『糸』と書いて指先からするすると糸を紡ぐ。


そして最後に『風』と書いた瞬間、ふわりと周囲に風が吹き、土埃と草の匂いを運んできた。


その金色に輝く漢字を俺は懐かしく思いながら見ていたが、おじさんに急かされて同じように真似をしてみた。

まずは安全そうなものから…と手始めに指先で『水』と書いてみたが何も起きない。ただ指先が空を切っただけだ。


「もっと指先に魔力を集めるんだ。」


おじさんにそう言われたがそもそも魔力とは何なのか?

体のなかに溜まっている何がなのか?

漢字は知っているが【魔法】というものに、いかんせん馴染みが無すぎる。

よくあるイメージの具現化の様な話なのか?


そう思いながら、指先に熱が集まるようなイメージで何度か指先で『水』と書いた。

初めてそれが金色になったとき、コップ1杯分ほどの水が球体になってフワフワと目の前に浮いた。

出来た!と集中を切らせた瞬間水は地面に落ちてバシャリと俺の足元を冷たく濡らした。


「おっ! よく出来たな坊主。そのまま他の魔法もやってみろ。」

そう言われながら俺は教わった魔法を順に空に書き発動させていった。

最後の『火』だけは火傷が怖くて一瞬で消してしまったが、フィリップが言っていた『風』も指先に息を吹き掛けたような小さな風を起こすことが出来た。


隣のカイも同様に何度かの失敗の後、6つ全ての魔法を発動していた。フィリップは『風』の魔法だけが発動出来なかったが、悔しそうに何度も練習をしていた。


「やっぱりエンゴナシンの子は優秀なヤツが多いな。頑張ればうちで働けるかもしれん。鍛冶場には火と風が必須だからな。」


教師役のおじさんはフィリップの頭を少し乱暴に撫でつけながら言った。

誇らしそうに頬を掻くフィリップや俺らの背後から水と土、火の魔法しか発動できなかったらしい男の子が恨めしそうにボソリと言った。


「良かったな、みなしごのクセに。親には捨てられたけど魔法が使えて。」

顔を真っ赤にしながらそう吐き捨てて、親の待つ教会の方に走って行ってしまった。


「気にすんな。毎年ああいうヤツは居るんだ。」


教師役のおじさんが今度は俺の頭を撫でつけながら言うのを、親に抱きしめられる子どもをぼんやりと見ていた。

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