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きっかけは【漢字辞典】〜名前の長い孤児が生きる、漢字が魔法になる世界〜   作者: 七瀬
第一章

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17.冷蔵庫と冷凍庫


「じゃあまずは、冷却の魔法から行こうかね。」


俺たちの前にそれぞれ『冷』の魔法陣が彫られた箱が置かれた。


俺はさっき見せて貰ったように、指先に意識を集中させて、その魔法陣をなぞっていく。


イメージするのは、日本で使っていた冷蔵庫だ。

俺は日本で使っていた一人暮らし用の小さい冷蔵庫を思い浮かべていた。


牛乳に缶ビール、卵はもちろん、なんで取ってあるか分からない納豆のカラシや、寿司のパックに付いてきた醤油の小袋。


懐かしい面子を思い浮かべながら最後の一画を描き上げると、エミルダさんと同じように、ふわりと指先に冷気が伝わってきた。


開けると、ひんやりとした空気が木箱から流れてくる。


―よし。 成功した!



顔を上げるとエミルダさんがニマニマと笑っている。


「ほう、1回で成功させるとは。

2人ともなかなかやるじゃないか」


隣を見ると、カイも1回で成功したみたいだ。


エミルダさんは褒めてくれたけど、相変わらず顔はちょっと怖い。

まさしくおとぎ話の悪い魔女みたいだ。



フィリップは書き順があやふやで、失敗しているみたいだ。

「順番が違うじゃないか。さっき何見てたんだい。」


エミルダさんに修正されながら、やっと成功をさせていた。


エミルダさんの後ではトム兄ちゃんが、何人かの子どもと、一緒に魔法陣を掘っている。

俺らぐらいの小さい子どもたちもいたけど、その中にひとり見覚えのある赤毛の男の子がいた。



―どこで見たんだっけな…?


思い出そうとしていると、エミルダさんにデコピンをくらった。


「なーにボーッとしてるんだい。箱はまだたくさんあるんだよ」


「ごめんなさい!」


あわてて、作業に戻り『冷』の魔法陣を指先でなぞっていく。


10個ほど冷却箱を作った所で、気が付いた。

何となく魔法が掛けづらいものと、掛けやすい物がある。


掛けることが出来ないわけじゃないけど、何となく気持ちが悪い。



―もしかして彫りの方も、書き順や書く方向が、漢字と一致していないと掛けづらいのかな?



コレたぶん、掛けやすいやつがトム兄ちゃんが彫ったやつだな? 

トム兄ちゃんはきっちりしてるからな…



そうやって全員が『冷』を使えるようになって全員で30個ほど、作成した所で、エミルダさんは次の魔法を教えてくれた。


「次はさらに冷やす凍結の魔法だよ。

冬の朝の吹雪をイメージしてごらん。」


エミルダさんが指さす、トム兄ちゃんが持ってきた箱には『凍』の文字が掘ってある。


エミルダさんは指先を金色に光らせ、箱に彫られた魔法陣をなぞっていく。

達筆な習字の先生の筆遣いみたいで、洗練された動きだ。


最後のはらいを描いた瞬間、先程の『冷』よりも、もう一段、キン―と空気が一瞬冷たくなった。


ニヤリと笑って顎をしゃくるエミルダさんにつられて、箱を開けると白い冷気が漏れてきた。


「これに肉や魚を入れると、カチカチに凍るんだ。

船乗りや商会勤めなら、まず食いっぱぐれは無いよ」


「さっきの冷却箱よりも日持ちするの?」


「そうさねぇ、物によるが、だいたい1ヶ月ってとこかね。

箱としては、凍結の魔法は3ヶ月ぐらいは機能するよ。


もっとも木箱じゃなくて、金属の箱ならもう少し長いこと使えるから、貴族の家なんかじゃ鉄の箱で作り付けにする事も多いんだ。」


―なるほど、木箱で作ったのが運搬用のクーラーBOXで、鉄で作るとまさしく冷凍庫や冷蔵庫って所だろう。


孤児院で作ったらアイスクリームが食べれるかな?


俺がわくわくしている横で、フィリップが挙げた。


「ジャガイモとかも日持ちするの?」


「ジャガイモはダメだね。凍らせるとガスガスして食えたもんじゃないよ。あれは冷却箱だ。」


「でも冷却箱は1週間なんでしょ?」


「だから、商会で付与魔法の使い手が重宝されるんだよ。毎回魔法を掛け直すんだ。」


言い方は悪いが、付与魔法の使い手は発電機の様な扱いらしい。


「さて、午後からは凍結魔法をやってもらうから、一旦皆でお昼にするよ。」


エミルダさんは作業場の隅に置いてあった、大きな鍋に向けて指先を金色に光らせ『温』と描いた。


少しすると、鍋から湯気と美味しそうないい匂いがして、ギュルリと腹を鳴らした。

『温』の魔法は電子レンジの様に使えるらしい。


「みんな器持っておいで。」


エミルダさんが、他の子どもたちにも聞こえるように大きな声をかけると、トム兄ちゃんの周りに集まっていた子たちも、木のボウルを持ってやってきた。


お昼にお手製のスープを振る舞ってくれるらしい。


他のみんなに、スープが行き渡ったところで、トム兄ちゃんが声を掛ける。


「エミルダさん、この子ら今日器持ってきてないんで、台所の借りてもいいですか?」


「ああ、もっておいで」


トム兄ちゃんは作業場の奥の扉を開けて、木の器とスプーンを持ってきた。


豆とカボチャが入った赤いスープは、トマトの香りがする。

大鍋で煮込まれた具材はホクホクしていて、とても美味しそうだ。


俺たちは4人で作業場のテーブルに座り、アンが作ってくれたサンドイッチと一緒に食べ始めた。


普段アンが作るスープよりも、少しだけ味の濃いスープを飲んでいると、トム兄ちゃんの肩越しにさっきの赤毛の男の子がこっちを見ていた。


ご覧いただきありがとうございます。

次回も明日17時頃投稿予定です


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