16.初仕事とエミルダさん
雨が上がり、ついに待ちに待った俺たちの初仕事の日が来た。
水汲みを終えてから、孤児院を出ようとする俺たちに、アンが声をかけてきた。
お弁当を作ってくれたようで、手にはいい匂いのする4つの木の包みをもっていた。
「外で食べるとお金なんて、すぐなくなっちゃうからね」
そう言って一人ひとつづつ、まだほんのりと温かい
サンドイッチを手渡してくれた。
「ありがとう!!」
この世界で初めてのお弁当にわくわくして、口々にお礼を言う俺たちを、アンはニコニコと見送った。
トム兄ちゃんと4人でギルドに向かい、扉を開けると、副ギルド長がカウンターの奥で手を上げて反応してくれた。
そのまま手招きをして俺たちを呼んでいる。
既に数人が集まっている掲示板を横目にカウンターに行くと、俺らにザラついた紙を見せてくれた。
「今年も加工場の婆さんが、トムの弟達なら付与魔法教えながら依頼出してやるって言ってたから、取っといたんだ。」
「加工場?」
「付与魔法?」
初めて聞く単語にポカンとしている俺たちを横目に、トム兄ちゃんが少しほっとしたような、嬉しそうな顔で紙に目を落とし、教えてくれた。
「木箱に冷やしたり、凍らせたりする魔法を付けるのが加工場なんだ。 付与魔法は応用が利くからって、去年もお前らの姉ちゃんや兄ちゃん達にも教えてくれたんだ。将来食いっぱぐれないからってな。
しっかり教わってこいよ。」
どうやら、魔法を教わりながら働けるらしい。
しかもトム兄ちゃんの弟ならと、初仕事から指名のような扱いだ。
―え? すごくね?
日雇いなのに、そんな待遇いいの?
「すげぇ、魔法も教えてくれるの?ラッキー!!」
素直にはしゃぐフィリップの頭を、副ギルド長がペチリとたしなめた。
「お前ら、トムのおかげだからな。
トムがしょっちゅう婆さんの所に顔出して、あれこれ手伝ってっから、特別に婆さんが教えてんだ。」
「エミルダさんが優しいだけですよ。
ありがたいですね。」
トム兄ちゃんは、謙遜するけどよっぽど気に入られてるらしい。
「トムも婆さんの所だ。彫りの方だと。」
【彫り?】となりながら、揃って名前を書いていると、振り返ったトム兄ちゃんが、真剣な顔で言った
「副ギルド長みたいに【婆さん】って呼んじゃダメだよ。絶対【エミルダ】さんって呼んでね」
―絶対怒ったら怖い婆さんじゃん…
トム兄ちゃんの真剣な顔に、3人揃ってコクコクと頷き、加工場もとい、エミルダさんの所に向かった。
ギルドのすぐ裏手にある加工場は、騒がしい人の声と湿った木の匂いに包まれていた。
トム兄ちゃんに続いて奥に進むと、腰を曲げたお婆さんが厳しい顔で机に向かっている。
「エミルダさん おはようございます。」
トム兄ちゃんが声をかけるとエミルダさんは顔を上げた。
「おお、来たかね。」
「今年も依頼ありがとうございます。」
「あんたの弟達だから特別だよ。」
俺ら3人の紹介を済ませると、エミルダさんは仕事の説明をしてくれた。
「お前たちには、この木箱に魔法をかけてもらうよ。
風の魔法が使える魔力なら、『冷』は使えると思うけどちょいと見てな」
そう言うとエミルダさんは木箱を指さした。
「これは、あっちで魔法が使えない子らが、『冷』の魔法陣を箱に掘ってるんだ。その魔法陣に合わせてお前たちは、魔法を入れるのが仕事だよ。」
エミルダさんは人差し指の先を金色に光らせ、箱の『冷』をなぞっていく。描き終わった瞬間、金色の文字は箱の中に染み込むように消えていき、ほのかに一瞬だけ周りの空気が冷たくなった。
「開けてごらん」
そう言うと、フィリップが直ぐに蓋に手をかける。
ガタリと軽い音を立てて開いた木箱から、ふわりと冷気が漏れ出した。
「これに肉や魚を入れておけば、ある程度日持ちがするからね、店屋には人気なんだ。」
「どれぐらい日持ちするの?」
カイに聞かれてエミルダさんは、ニヤリと笑った。
「スイッチを入れたままだと、だいたい1週間てとこかね。
しかしなんでかトムが彫った魔法陣で作ると10日ぐらい持つんだ。 その分ちょいと高く売れるんだよ。」
―トム兄ちゃんのこと褒めてるだけなのに、すげぇ悪巧みしてる顔だな…
エミルダさんの迫力に圧倒されながら、僕たちの初仕事はスタートした。
そしてこの付与魔法で、あのちょっと皮肉屋なカイが、大波乱を起こすことになるとは、思ってもみなかった。
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次回も明日17時頃投稿予定です
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