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きっかけは【漢字辞典】〜名前の長い孤児が生きる、漢字が魔法になる世界〜   作者: 七瀬
第一章

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15.魔法のコソ練と禁断の魔法


アンの言う通り、翌日からは雨が続いた。


みんなで文字や計算の練習をしたり、トム兄ちゃんが雨漏りの補修をしてくれたりしてたけど、俺は一人になれるタイミングを見計らっては魔法の練習をした。



ポツポツと止まない雨を見ながらふと思いついた。


―『傘』って魔法で描いたらどうなるんだろ?

俺の周りだけを雨粒が避けたりしないかな?


教会の木板には無かったはずだし発明になるかも!


そう思って指先で『傘』を書いてみたが、発動しない。


―書き順違うのか? どうだったっけな?

屋根の下の左側に、人を2つ書く所までは合ってると思うんだけど… その後があやふやだ。

タテ棒…?ヨコ棒…? 違うな…?


何度かの失敗の後、やっと最後まで金色に文字が光り続け、『傘』が発動した。


指先を立てたまま軒先を出てみたけど、雨に濡れることはない。


―やった! 成功した!


そう思った瞬間風が大きく吹いて俺の顔を濡らした。


「まあ、傘だし横からの風に弱いのは変わらんか。」

そう思って少し集中力を乱した瞬間に、頭からずぶ濡れになった。


「……使えねぇなこれは。」


袖口で顔を拭いながら、少しガッカリして

俺は、川の向こうの森を見た。

少し前にオオカミが逃げていった方向だ。



―今度はみんなを守れるようになりたいな。

トム兄ちゃんみたいに…。



そう思って最強の攻撃魔法はなんだ?

と、つらつら考え始めた。


教会で見た魔法の中にもいくつか、攻撃に使えそうなものがあった。


「投げる、刃、弓、あとは刀もあったな…」

どれも書き順や形が、割と分かりやすい漢字だ。

だからこそ魔力の少ない平民にも普及したのだろう。


それこそ、『撃』や『雷』、とかでも良さそうだ。

『殴』も使えそうだけど、殴れる距離まで詰めるのは避けたい。 

オオカミや熊の瞬発力に勝てる訳がない。



そんな事を考えながらふと思い付く。




『死』って最強じゃね?



わりかし書き順も分かりやすいし、簡単な漢字だ。

教会では見なかったのは危ないから〜とか、その辺の理由かな? 即死魔法だし?


そんな事を考えながら指先に意識を集中させて『死』を描いていく。

目線の先には小さなカエルがゲコゲコと鳴いていた。



金色の文字が指先を照らし、最後のハネを書き上げる直前に、―すっと血の気が引いた。




―これ、誰が『死』ぬんだ?




主語も無ければ、対象を指定するわけでもない。


水や刃の様に、物体になるわけでもないから、カエルに向かって投げることも出来ない…


『死』は、ただの現象だ。

そうなると書き上げたときに一番近い生命体が

『死』ぬ……?



「あっっっぶね!!!  じゃあ、俺じゃん!!」


慌てて指先の文字を消し、ほっと息をついた。

確証は無いけど、実験するには危険すぎる。



「学園に行けば、もっと色んなこと分かるかな…?」

 


賢者が漢字辞典を持っていたなら、ほぼ全ての漢字を使うことが出来たんだろう。


【大賢者】と言われるからには、どの漢字が、どんな魔法になったかも解明しているはずだ。

それはこの世界の攻略本を持っていたに等しい。

なら、なぜそれを燃やしてしまったのか。


自分の死期を悟って争いを避けた?

それとも、もっと他に理由があるのか。


写しのほんの1ページでもいい。

魔法の事を、大賢者の事をもっと知りたい。


そうすれば、どうして大賢者が【漢字辞典】を燃やしたのか分かる気がする。

ルナ姉ちゃんや、トム兄ちゃんが魔法が使えない理由も。


孤児の俺が王立学園に入ることはできるだろうか?

特待生とか、そういうのがあれば…

勉強をすれば、どうにかなる問題なのか?


俺は、雨粒が弾ける音を聞きながら、その果てしない道のりを思い描いた。

ご覧いただきありがとうございます。

次回も明日17時頃投稿予定です


評価やブックマークも本当にありがとうこざいます。

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