14.トム兄ちゃんの手紙と市場での買い物
「あとトム、また届いてるぞ」
副ギルド長はトム兄ちゃんに封筒を手渡した。
「トム兄ちゃん、それなーに?」
フィリップと一緒になって覗き込むと、宛先のような文字が書いてある。けして綺麗とは言えない、粗末な封筒だ。
「妹と弟からの手紙だ。ってもまだ文字は書けねぇから書いてるのはおじさんだけどな。 たまに見つけたってきれいな葉っぱとか、つやつやした石が入ってることもあるんだ。」
トム兄ちゃんがその手紙を、とても大切そうに仕舞うのを見ながら、カイが驚いたように聞いた。
「え? トム兄ちゃん兄弟いるの?」
「おう、弟と妹が2人づつな。うちは流行り病で父ちゃんも母ちゃんも死んだから、親戚に2人づつ引き取ってもらったんだ。」
「俺と一緒だ! 俺の父ちゃんと母ちゃんも流行り病だって。でもトム兄ちゃんは一緒に行かなかったの?」
フィリップが不思議そうに問いかけると、トム兄ちゃんは笑って答えた。
「そうだな。どっちの親戚も2人までならって言ってくれてな。兄妹を引き離すのはかわいそうでな。それぞれに2人づつ引き取って貰ったんだ。」
「そうなんだ…」
トム兄ちゃんは親戚の引き取り手がなく、ひとり孤児院に来たらしい。
何と声を掛けて良いか、言葉に詰まっているとトム兄ちゃんは続けて言った。
「まあ、今のお前らも弟だけどな。」
うりうりと俺たち3人の頭を撫でてから、トム兄ちゃんは副ギルド長に続けて言った。
「今月も預けてある給金の半分、送っておいてください。」
「おう。 先月はおじさんの方だから、今月はおばさんの方か。」
「はい。 よろしくお願いします。」
―トム兄ちゃん仕送りまでしてるんだ…。
いつもの事のように、やり取りを続ける2人を見届けてから、俺たちは揃ってギルドを後にした。
ギルドの前には大きな広場があり、その周りを四方に道が伸びている。
「ギルドの右側の道を行くと、すぐ市場だ。その先に工房通りがある。
逆に左は質は良いが、ちょっと高い店屋とか、商会が並んでんだ。
俺たちが買い物するのは、当然右側だ。
人が沢山居るからはぐれるなよ。」
トム兄ちゃんを先頭に市場へ入ると、騒がしいたくさんの声と、いろんな食べ物の匂いがした。
腹が減ってグルグルと音をたてそうだ。
「アンに何頼まれたか覚えてるか?」
トム兄ちゃんが振り返ってフィリップを見た。
「麦と、豆と……… あとなんだっけ?」
「塩だよ。 それぐらい覚えてろ」
フィリップが指折り思い出そうとした所で、カイが
ツッコんだ。
市場を進むにつれ、トム兄ちゃんはあちこちのお店で声を掛けられている。
そのたびに俺たち3人の紹介をしてくれた。
中には売れ残りの野菜をくれるおばちゃんまでいた。
いくら売り物にならないといっても、孤児院では十分な食料になる。
ひび割れてしまったという大きなかぼちゃ。
シチューやコロッケ、かぼちゃの煮付け…
和食がたべたいなぁ…
そんな事を考えながら、ほかにもありがたく頂き、アンに頼まれた品物を買っていく。
最後に麦の大袋をトム兄ちゃんが担ぐのを見ていたらカイが話しかけてきた。
「そういえば、洗礼式で魔法教えてくれた鍛冶屋のおじさんって、この先かな?」
遠くの方でカンカンとハンマーを叩く音が聞こえる。
肉屋が向かいにあるってことだから、ちょうど市場と工房通りの間なんだろう。
「寄ってみるか?」
トム兄ちゃんは何事も無さそうに、振り返るけど流石にその大荷物には気が引けた。
むしろトム兄ちゃんなんで平気そうなんだよ…。
「また今度、ギルドに来たときでいいよ。」
そうして買い物を終えた俺たちだけど、ここからが大変だった。
「夜道は危ないからな、ちょっと急ぐぞ」
街灯なんてない道は暗くなると野獣が出てくることもある。傾き始めた夕陽に焦りながら帰り道を進んだ。
ワクワクした行きとは違い、荷物の増えた帰りはかなりつらい。大きなかぼちゃをくれた八百屋のおばちゃんを少し恨めしく思ってしまう程だった。
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次回も明日17時頃投稿予定です
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