12.ルナ姉ちゃんの試験
「エルー、まだ覚えられねぇのかよー!」
フィリップに急かされながら、今日も俺は食堂の机に向かって名前を書いていた。
「しょうがないだろ、長いんだから」
言い返すけど、馴染みのない文字と言うのは、いかんせん覚えるのに労力を使う。
日本の記憶を思い出した俺にとっては、未知の言語すぎる。
ここまで、俺はトム兄ちゃんに8回も木札を削ってもらった。
「ほんとに。あんなに魔法の覚えはいいのに…」
隣で見ていたルナ姉ちゃんも少し呆れたように頬杖をついた。その横でカイは、暇そうに両腕を頭の上で組み、こちらを見ている。
「エルはなんで文字だけ苦手なんだろうな。計算も覚えるの早かったんだから、バカって訳じゃないだろ」
そう、
俺が文字を覚えるのを待つ間、フィリップとカイはルナ姉ちゃんに計算を習っていた。
「ちゃんと覚えないと、買い物やお給料でちょろまかされて損するわよ。」
ここ2日でルナ姉ちゃんから5回は聞いた言いつけだ。
そう言って簡単な計算を教えてくれたが、書き方こそ違うものの、線が1本づつ増えていく数字は、ローマ数字に近い。
数え方も10進数なので、文字を覚える傍ら、俺は暗算でできる範囲の計算は、すぐに出来るようになった。
「「「まず、名前!!!」」」 3人にそう言われたけど…。
「3人とも何も見ずに名前が書けて、簡単な計算が出来るようになったらギルド行くからな。
エル、もうちょっとだ」
トム兄ちゃんの少し硬い手が頭を撫でてくれた。
「トム兄ちゃん! ギルドに行ったら日雇いの仕事が貰えるようになるんだよね?」
ワクワクした顔でフィリップが問いかける。
「あぁ、お前たちは基本の魔法が使えるから、割のいい仕事を紹介してもらえるはずだ。日雇いだけじゃなくて、住み込みの奉公の募集が出ることも多いからな。」
「じゃあ早く行かないと、いい仕事取られちゃうじゃん!」
フィリップは少しぶすくれた様に言った。
「そうとも限らないわよ。洗礼式から日が浅い時期は、安い仕事も多いの。何にも分からないのを良いことに、給料の計算も出来ない様な子ばかり狙うのよ。」
ルナ姉ちゃんは、暇を持て余したように穴が空いた俺たちのスボンを縫う手元を見ながら話した。
使っている糸はこの間、俺が糸魔法で出した糸だ。
「出来た! ルナ姉ちゃん見て!」
俺はやっと、お手本を見ずに書けるようになった木札をルナ姉ちゃんに見せた。
「んーっと……… 合格よ! 頑張ったわねエル!!」
「やったーーー!!」
カイ、フィリップの2人と、ハイタッチをして喜んだ。
「トム兄ちゃんこれからギルド行ける?」
せがむフィリップにトム兄ちゃんは少し考えながら
「行けないこともないが、もう昼すぎだからほとんど仕事は残ってないぞ。」
「「「えーーー!!!」」」
3人揃ってガッカリしていると、台所からアンが顔をだした。
「登録だけでも行ってきたら? 明日からたぶん雨になるから、帰りに豆と塩、あと麦を買ってきて欲しいの。 人手が多いときのほうがいいでしょ?」
窓の外を見ると、森の向こうの雲が分厚くなっている。それを見ながら、アンはトム兄ちゃんにお金を渡した。
「ちょっと待って!! 行くなら着替えてから行きなさい。この間の洗礼式に着た綺麗なのがあるでしょ。」
第一印象というのは、この世界にもあるらしい。
ルナ姉ちゃんに鋭い声で言われ、俺たちは着替えた。
この服もルナ姉ちゃんがお下がりを直してくれたものだ。
「行ってらっしゃい。気をつけてね。」
ルナ姉ちゃんとアンに見送られ、俺たち3人はトム兄ちゃんに連れられて、ギルドへ向かって歩き出した。
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次回明日17時頃投稿予定です。
(ちょっとだけストック出来ました!!)
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