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祝福  作者: 素人
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最高の転機

理解できない。できるはずがない。


自分は否定された。人として否定された。

「大嫌いだ」と、嫌悪の言葉を向けられたんだ。


出来損ないのセインを、騎士団に勧誘なんて——

意味がわからない。


「私がお前を、国中に見返させてやる」


セインは理解できない。


(なんでなんだよ。なんでこんな話になった?

なんで自分なんかを誘う? なんで自分を見る?)


脳内に、理解不能が溢れる。


「なんで……俺は弱いんですよ。誰よりも。それなのに騎士団なんて、できるわけないでしょう」


言葉は、疑問を解消する前に出る。


自分は出来損ないという大前提が、今、目の前の希望を否定する。


リアもフレアの言葉に驚いている。

でも、少しだけ嬉しそうな顔をする。


「それを叩き直してやると言っている」


フレアのその言葉に、セインは戸惑う。


どうすればいいのか。

入ったとして何をするのか。


また努力を始めても、出来損ないで居続けてしまったら——


意味がない。

必要がない。

価値がない。


自分には、何もない。


フレアは、セインを真っ直ぐに見る。


「私にはわかる。お前は変わる。強くなれる」


その言葉を、セインは理解できない。


リアはセインを見つめる。


「セイン、騎士団に入って。セインは強くないとダメだよ」


リアは、セインに誰よりも期待している。


「なんでリアまで、そんなこと言うんだよ」


セインは、国中に見損なわれ、それ以降、期待なんてされていない。

自分は出来損ないだと、誰よりも深く理解している。


セインという人間は、「出来損ない」が大前提の人間だ。


「お前はあの時、魔獣に殺されかけながら、一人泣いている少女を助けただろう。

私は、身を挺して救ったお前を知っている。あの時見せた力の片鱗を見た。

もう一度言う——お前は強くなれる」


セインは思い出す。

あの時、自分の魔法が魔獣の頭を抉り取ったことを。


自分の魔法じゃ、できなかったことを思い出す。


その記憶が、妄想を広げてしまう。

自分でも、何か出来ることはあるのではないかと。


「お前は今、自分でも何か出来ることはあるんじゃないかと、そう思ったな。

ならば行動しろ。私の騎士団に来い」


心の中を当てられ、

自分の夢物語を肯定された。


セインは涙を流す。


「俺でも……出来ることがありますか?

出来損ないの俺でも……」


泣きながら、震えた声でフレアに問う。


フレアはその言葉を聞き、セインの目を真っ直ぐに見る。


「お前次第だ。死ぬ気で、本気になって努力しろ。そうすれば強くなれる」


セインは期待された。

優しいセインは、もう答えるしかない。


「騎士団に入ります。俺は強くなりたい」


フレアは目を瞑り、彼女らしい笑顔を見せて、


「よく言った」


そう言う。


リアも笑顔で喜んでいる。


「ひとまず、今回の件は本当にすまなかった。起きたばかりなのに、すまなかった。

騎士団入団の件は、また後日会い、話そう」


フレアは立ち上がり、そう言った後、部屋を出る。


セインはベッドに横たわる。

どっと疲れが押し寄せたのだ。


リアはそれを見て、心配そうな顔をする。


「セイン、大丈夫?」


「うん、大丈夫だよ」


セインは、リアが安堵できるよう言葉を返す。


リアはその言葉を聞いても、安堵しない。

セインが、リアのために嘘をついてまで安心させようとするのを知っているからだ。


セインの目や顔色を見て、本当に大丈夫か判断する。


——本当に、セインは大丈夫みたい。


そう思い、リアはあの時の笑顔を見せる。


「それにしても、キミが騎士団なんて、びっくりするね」


「本当にね。自分でも驚いてる。昨日の自分が聞いたら、どんな反応するだろ」


セインはまだ、記憶の整理がついていない。


「昨日? 昨日なら、キミはまだ寝ていたよ」


リアは当たり前のことを言っているような顔で言う。


「え? 昨日、魔獣に襲われて、今日起きたんじゃないの?」


リアは「あー」と察したような顔をする。


「セインは七日ほど寝てたよ。ずっとね」


セインは驚愕する。口が開いたまま閉じない。


「七日で済んだのが奇跡だからね、本当に」


リアは頬を膨らませ、声に出す。


セインは驚愕し続けている。


「だって、私が着いた時、キミは腕切られて外れてたし、胸からばっさり血が出てて、内臓まで切れてたんだよ」


セインも、それは覚えている。


「正直、私がいなかったら、セイン死んでたんだよ」


その言葉を言う彼女は、悲しそうな目をしていた。


「そんなに死にかけだったのか、俺。傷治してくれてありがとう、リア」


リアは目を丸くする。

感謝されたのが意外だったのか、驚いた表情をする。


「なんだよ、その顔。俺だって、感謝する時は感謝するよ。そんなに薄情じゃない」


リアはその言葉を聞き、大きな声で笑う。


「ごめんごめん。私の中でキミは助ける側で、感謝してるのはいつも私だったから。キミの感謝は、少し驚いたよ」


セインはその言葉を疑問に思う。


「俺が助ける側?」


「そうだよ。キミはいつも私を助けてくれていたよ」


——リアが、まだ出来損ないだった頃。


魔術学校にいた時のことだ。


どれだけ努力しても使えない、自分の魔法が嫌いだった。

魔法を使いこなせない自分が、嫌いだった。


実力主義の学校で、魔法ができないなら、それだけで差別と侮蔑の対象だ。

当然、リアは罵られ、蔑まれた。


放課後の教室で、いつも一人で泣いていた。


『リア、大丈夫?』

『リアは頭がいいから、強くなれる』

『大丈夫だよ』

『俺を見なよ』


あの時、あの学校で一番弱くて、一番辛かっただろう人間が、自分を励ましてくれた。

しかも、誰よりも明るい笑顔で。


誰よりも泣きたいはずなのに。


だから——彼を救いたい。


「ずっと、ずっと。キミは私の英雄だよ」


そんな言葉を投げかけても、彼は何もわかっていないような顔をする。


実際、何もわかっていないんだ。

お人好しすぎて、人が困っているのを見かけたら、救うのが当たり前の人間だから。

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