最低な生物
少しグロいです
リアがいなくなり、時間が経った。
もう外は暗い。
田舎の村なので、街灯なんてないし、それがより一層、夜の暗闇を際立たせる。
セインはすでに仕事が終わり、自分の家でくつろいでいると、村の警鐘が鳴る。
「魔獣が出たぞー!!」
村の見張りをしていた一人の男が、大声で叫ぶ。
それを聞いて、たくさんの村人が家から飛び出す。
村は魔獣騒動が起きた時、魔法を使える者が撃退、討伐するようになっていて、また、それが出来ない場合は隣村まで避難することになっている。
魔獣自体あまり出ないこの村にしては、今回のケースは珍しいことだ。
セインは外に出て、村を見渡す。
村人の中に困っている人がいないか確認するためだ。
セインはかなりのお人好しだ。
実際、セインがする仕事とは、村の住人の手伝いが大半だ。
セインは村を走りながら見回る。
そんな時——
「うわああ!!」
たくさんの村人の悲鳴が聞こえる。
セインはそれを聞いて、焦って走り出す。
そして、悲鳴が鳴り響くその場に着く。
セインは、その光景に驚愕する。
村人の血で赤に塗れた魔獣の姿。
かつては人であっただろう、その肉塊。
そして、血の海。
二足歩行の狼型魔獣。
大きさは、人間の三倍はある。
セインは当然、恐怖する。
実戦経験はないし、魔法は使えるものではない。
恐怖して当たり前だ。
セインは弱くて脆い、出来損ないなのだから。
魔獣はセインを一目し、すぐに視線を逸らす。
雑魚には興味がない——そんな目だ。
それはセインにもわかる。
そして今は、それに安堵する。殺されないとわかったから。
だが、すぐに勘違いだとわかった。
視線を逸らした先は、少女だった。
セインに興味がないのではなく、殺される順番が違うことに気付いた。
(まずい、まずい……)
セインの思考は、それに染まる。
自分より幼い子供を、目の前で殺されるわけにはいかない。
セインはそう思う。誰よりもお人好しだから。
「助けて……セイン……」
そう、泣きながら言う。
悲鳴を必死に抑えた、途切れてしまいそうな弱い声で。
セインは、この少女について知っている。
名前はマリア。
この村の村長の孫娘で、村人中からとても愛されていて、セインもこの少女と時々遊んだり、おしゃべりしたりしていた。
セインはこの状況で、その記憶が押し寄せる。
だから、身体が動いた。
彼女には将来性があるし、この先、たくさんの大切なものができる。
セインより、生きる価値がある。
咄嗟に、魔獣の前に出る。
マリアを守るために。そして、死ぬために。
セインに与えられた祝福は、第四祝福魔術。
その力は、魔法を消す——それだけだ。
消せると言っても、魔法の大きさによる。
セインは、手のひらサイズの魔法しか消せない。
その大きさを超えると、セインの魔法は一切発動せず、ただ魔力のみを大量に消費する。
それを使う。
セインの、浅はかで微かな抵抗だ。
セインは今、死ぬ瞬間にいる。
人生で一度しか味わえない「死」が、まさに今、目の前に来ている。
極限に研ぎ澄まされた視覚が、魔獣だけを見る。
手を前に出す。
「第四祝福魔術、展開」
その行為には意味がない。
なぜなら、消すことができるのは魔法のみ。
魔獣は魔法ではない、生物だからだ。
——突如、魔獣の顔半分が消える。
まるで、抉られたように。
だが、死んではいない。魔獣が叫ぶ。
魔獣には核があり、それが損傷しない限り死なないからだ。
魔獣はセインに突進し、腕を振り上げ、セインの胸を鋭い爪で切る。
セインは咄嗟に腕を上げ、ガードする。
意味はない。
その爪はあまりにも速く、鋭い。
人間の皮膚や筋肉、骨など、なんの盾にもならない。
腕が落ちる。
胴に、左肩から右脇腹にかけて血が吹き出す。
どう見ても致命傷。
後ろにいるマリアは、悲鳴をあげて泣き叫ぶ。
セインの意識は消えかけ、身体から温かみが抜け落ちる。
感覚はなくなり、視界は薄れ、音は聞こえない。
マリアの悲鳴すら、届かない。
その時——
「すまない、遅れた。よく頑張ったな、勇気ある青年」
セインには聞こえない。
だが、薄れた視界は赤で染まる。
炎の赤だ。
魔獣は消滅。
セインはそれに安堵し、気絶する。




