最悪な奇跡
目が覚める。
いつも通りの風景だ。
重たい瞼を開き、目を擦る。
洗面所に行き、顔を洗い、鏡に映る自分を見る。
自分を見るたび、疑問に思う。
(なんで神は、こんな俺に力を与えたのか)
と、毎日、時間さえあれば常に思う。
セインは選ばれた人間だ。
でも、セインは出来損ないだった。
第四祝福魔術。それは神の力そのものと呼ばれる。
神を信仰する生き物は、物心つく三歳ごろに魔法が与えられる。
セインは神に選ばれた故に、生まれたその時から魔法が刻まれていた。
神の力を持って生まれたセインは、国中にその存在を知らしめた。
まだ0歳の彼は、すでに国中の人間にもてはやされ、そこらの貴族よりも特別待遇だった。
彼が十歳になる年、魔術学校に特例で入学した。
当たり前だ。なぜなら、彼は神に選ばれたから。
だが、セインは出来損ないだった。
それは一年もかからず、学校中に露見した。
どれだけ勉強しても物覚えが悪く、テストの点数は平均そこそこ。
魔法を鍛えても、魔法は使えるものとは言えなかった。
セインは魔術学校に約五年ほど在籍していたが、結局何も変わらなかった。
神に選ばれた人間が、彼に比べれば神が片手間で祝福を与えた人間に負けるのだ。
失望されるのは当たり前。
「神の傑作風の人間」なんて、ひどいあだ名さえつけられた。
学校を辞め、二年ほど経った。
彼はもう期待されない、ただの一般人だ。
濡れた顔を拭き、家を出る。
普通の人と同じように働いて、普通の人と同じように食事をする。
そんな時、一人の女性が近寄ってくる。
というか、体当たりしてきそうな速さで、走ってくる。セインめがけて。
案の定ぶつかり、セインは倒れ、地面に仰向けになる。
そんなセインに、馬乗りする。
「久しぶり! セイン!」
そう言い、笑顔を見せる。
「あぁ、久しぶり。リア」
そっけなく返す。
彼女はリア。セインが魔術学校に在学していた時に、友達でいてくれた子だ。
出来損ないのセインと、だ。
「今日はなんでこっちに来たの?」
セインが問う。
リアは変わらず笑顔を向けながら返す。
「理由がないと、親友のキミに会いに来ちゃいけないのかい?」
ふざけた態度で言う。
セインは真面目に返す。
「お前は回復魔導士として、日々王都で仕事してるんだろ。なんでこんな村にいるんだよ」
「この村の近くで仕事があるの。この村にキミがいるって知ってたから、来ちゃった」
リアも、ほんの少しだけ真面目に答える。
そしてまた笑顔を見せ、こう言う。
「キミは私の特別だぜ。来ないわけないだろ。同じ出来損ないとして、親近感がある」
彼女もまた、出来損ないだった。
魔術学校は実力主義だ。
どんな魔法であろうと、誰よりも上手く扱えば学校のトップになれる。
リアは、自分の魔法を少しも扱えなかった。
だから、出来損ないだった。
「元出来損ないだろ、元」
彼女は魔術学校在学二年目にして、回復魔法の才に目覚めた。
回復魔法は、神から与えられし祝福とは別の魔法である。
この魔法は、与えられる人間が限られているわけではない。
誰でも使える魔法だ。
だが、使えるにしてもその効果は人それぞれで、
かすり傷しか治せない人もいるし、
どんな致命傷でも治せる人もいる。
結局、才能だ。
リアは後者だった。
故に、元出来損ないである。
今は王都の宮廷回復魔導士として活躍している。
「それでも親友だろ、キミと私はさ。それとも、それも元かい?」
頬を膨らませ、少し睨みながら、ほんの少し怒りを込めて声に出す。
「わかったよ。少し言葉選びを間違えた、ごめん。そんなことより、早く退けてくれないかな」
まだ馬乗り状態なのだ。
はっきり言って煩わしく感じているセインが、言葉にした。
「私、王都の一部では聖女とか言われてるんだぜ。もっと喜びなよ」
リアはやっと立ち上がり、ドヤ顔で言う。
「聖女は、全力疾走して体当たりした後、馬乗りなんてしないんだよ」
セインは呆れながらツッコむ。
「はぁ……もう少し真面目だっただろ、魔術学校にいた時は」
ため息混じりに声に出す。
「それはキミも同じだろ。キミはもっと明るくて、笑顔が絶えない馬鹿だったよ」
リアはセインの茶色の瞳を覗き、変わらない笑顔で言う。
「国中に出来損ないのレッテル貼られたら、誰だって病むさ」
無感情が宿る目で、何もかも諦めたように言う。
「それにしたって、卑屈すぎだ。それがなければ完璧なのに」
少しだけ悲しさが入り混じる言葉を出す。
「完璧って、なんのだよ」
セインはそれに対して、ただ言葉のみ返す。
「言わないよ。その卑屈さが治るまで」
リアは言う。その考えを濁して。
「じゃあね。私は仕事があるからさ。バイバイ、また来るよ」
会話が終わる。
リアは背を向け、走る。
段々と小さくなる背を見て、セインは少し悲しく感じる。
いつもの時間が戻ってくる




