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凱旋と、公爵の歓迎

三十年ぶりに奪還された城塞都市ラグナ。

空は高く澄み渡り、風化しつつも堅牢さを保つ灰色の石壁が朝の光を浴びていた。

街中に人影はなかったが、長年魔族が占拠していたとは思えないほど、建物や防衛設備の状態は良く、簡単な補修で済むと思われた。

魔物は人間の道具を使わないため、街の構造そのものが破壊されることはなかったのだろう。

かつてこの地に住んでいた住民たちを呼び戻し、城塞都市と周辺地域の復興が急速に進められていた。

兵士たちも剣を置いて畑を耕し、荒れ果てた街の清掃や修繕に汗を流している。

そんな中、俺とエリス、カティア、そして現地住民の代表としてアイシャの四人に、王都への帰還命令が下った。


出立の朝、砦の門前には見送りのために前線兵士たちがずらりと並んでいた。

彼らの顔には以前のような絶望や疲労の影はなく、希望に満ちた精悍な光が宿っている。

「エリス王女殿下! レオン様! 本当に、何から何までありがとうございました!」

「どうかお気をつけて! 我々はこのラグナを命に代えても守り抜きます!」

兵士たちの温かい声援と敬礼を背に受けながら、俺たちは馬車に乗り込み、王都への帰路についた。


数日後、俺たちは王都に到着した。

久しぶりに踏み入れた王座の間は、以前の凍りつくような冷たさが嘘のように、熱気と高揚感に包まれていた。

壁際に並ぶ大勢の貴族たちが、俺たちの姿を見るなり一斉に割れんばかりの拍手を送ってきた。

天井の豪奢なシャンデリアに反響する拍手の音は、まるで別の世界に迷い込んだかのような錯覚を覚えさせる。

正面の玉座には国王陛下と、その傍らに真珠の首飾りを身につけた豪奢なドレス姿の王妃陛下が座っていた。

王妃は優しげな目元をしているが、その瞳の奥には王族としての鋭い光が潜んでいる。

階段の下には、黒塗りの礼服をまとったアークライト公爵と、金糸の刺繍が施された法衣を着る大司教が並んで控えていた。

「よくぞ戻った。城塞都市ラグナと、ラグナ戦域の解放。その途方もない功績、誠に大儀であった」

国王陛下の威厳ある声が響くと、拍手が鳴り止み、静寂が訪れた。

「陛下のお言葉、もったいなく存じます。これも全て、エリス王女殿下の御力と、前線の兵士たちの奮闘のおかげです」

俺が頭を下げると、アークライト公爵が進み出てきた。

「レオン侯爵令息、そしてエリス王女殿下。これまでの私の非礼、どうかお許しいただきたい。盲目である王女殿下の力を疑い、あのような無礼な言葉を投げかけてしまったこと、心より恥じ入るばかりです」

公爵は深々と頭を下げた。

あの高慢な男が、大勢の貴族の前で俺たちに頭を下げている。

「アークライト公爵は、そなたたちの類まれなる功績を国内の貴族全員に周知するべく、今回の大規模な報告会を開くために尽力してくれたのだ。レオンよ、これを機に公爵とのわだかまりを解いてはくれまいか」

国王陛下が穏やかな声で和解を促す。

俺は内心の警戒を隠しながら、無難に頷いた。

「……もちろんです、陛下。公爵閣下のお心遣い、感謝いたします」

「して、ラグナ戦域解放の褒賞であるが、何が良いか。望みを聞こう」

国王の問いかけに、エリスが静かに口を開いた。

「私は、ラグナ戦域の統治権を望みます。あの大地が再び豊かな実りをもたらすよう、見守りたいのです」

「よかろう。レオンはどうだ」

「私は、討ち取った魔将アシュラグラの死体をいただきたく存じます」

俺の異様な要求に貴族たちがざわめいたが、死霊術師である俺にとっては最高の素材だ。

国王は少し顔をしかめつつも頷いた。

「……まあ、それでよいと言うなら構わん。そちらの銀髪の娘は、現地の住民の代表と聞いているが、望みはあるか」

国王の視線を受けたアイシャは、透き通るような銀髪を揺らして堂々と答えた。

「私たちは、これまで通りの暮らしを望む」

その言葉を聞いた瞬間、アークライト公爵の目が鷹のように鋭く光った。

「これまで通りの暮らし、ですか」

公爵の低く冷たい声が、王座の間に響き渡る。

「そなたたちは、今回貢献があったと報告されていたが……亜魔族で間違いないな。王国にも聖教会にも従わずに生きてきた民のはずだ。それは、これからも変わらないということか」

「そうなる。私たちには私たちの、父母から伝えられた教えがあるから」

アイシャが淡々と答えると、今度は大司教が一歩前に出た。

「お待ちください、アイシャ殿。報告では、あなたが至聖神の奇跡を引き起こし、前線の兵士たちを救ったとありましたが、違うのですか?」

大司教の言葉に、公爵がわざとらしく大きな声を上げた。

「まさか、亜魔族の邪法で無垢なる兵士たちを騙したのか? 王女殿下と聖騎士カティアも、戦いの中で同じ術を使っていたと言うが……王女殿下、あなたは邪教に魂を売ったのですか!?」

公爵の声に呼応するように、周囲の貴族たちが一斉にざわめき始めた。

「亜魔族は魔族と仲がいいんだろう……?」

「ラグナを解放したのも、魔族を打ち破ったのではなく、亜魔族を通じて魔族や魔物と手を組んだのでは……?」

囁き声が波のように広がり、あっという間に俺たちを非難する空気へと変わっていく。

なるほど、と俺は理解した。

この大規模な報告会は、俺たちの功績を周知するためではない。

これだけ多くの貴族の目の前で、エリスが邪法を使ったという事実を突きつけ、今回の功績とエリスの王族としての立場を完全に失わせるための罠だったのだ。

「王女殿下、聖騎士カティア、今の話が事実なら、聖教会は看過することはできません」

大司教の冷たい声が響く。カティアが悔しげに唇を噛んだ。

その緊迫した空気の中、アイシャがゆっくりと顔を上げた。

「誤解がある」

凛とした彼女の声が、貴族たちのざわめきを切り裂いた。

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