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亡き戦友の贈り物と、反撃の狼煙

太陽が西に傾き、乾いた風が砂埃を巻き上げる中、俺たちは亜魔族の戦士たちを連れて砦へと帰還した。

砦の門をくぐると、広場に集まっていた兵士たちの間に、水を打ったような静寂が走った。

彼らの目は、俺たちと共に歩く青白い肌と尖った耳を持つ亜魔族たちに向けられている。

長年、魔族と通じていると疑われ、聖教会から邪悪な存在として教え込まれてきた者たちだ。

兵士たちの視線には、明らかな嫌悪と警戒が混じっていた。


俺たちは兵士たちを連れて、砦の外に広がる激戦の跡地へと向かった。

そこは、味方の兵士たちと魔物たちの遺体が、泥にまみれておびただしい数で打ち捨てられている凄惨な場所だった。

むせ返るような血と腐敗の臭いが漂い、カラスが不吉な鳴き声を上げている。

エリスが両手を胸の前で組んだ。

ここ最近はクリティカル率を上昇させる効果まで見せている『祈り』の恩恵を受けて、アイシャが戦場の中心に歩み出た。

彼女は透き通るような銀髪を風に揺らしながら、大地に両手をついた。

「全てを魔の霧に……ミスティア!」

次の瞬間、息を呑むような光景が広がった。

泥にまみれた兵士たちの遺体や、おぞましい魔物の死骸が、輪郭を失ってさらさらとした光の粒に変わっていく。

黄金色と淡い青が入り混じったその光の粒は土にしみこんでいき、残滓がまるで蛍の群れのように宙を舞って、やがて太い光の帯となって夕刻の空へと昇っていった。

茜色に染まる空に、幾筋もの光の川が流れていく。

それは、死と腐敗に満ちていた戦場を、幻想的で神聖な儀式の場へと変える奇跡のような光景だった。

「ああ……」

剣の柄を握りしめていた一人の古参兵が、その場に膝をついた。

「俺を庇って死んだアイツが……光になっていく……」

彼の頬を、大粒の涙が伝い落ちる。

他の兵士たちも次々と膝をつき、天に昇る光の帯を見上げて涙を流していた。


光が完全に土へと吸い込まれ、戦場は穏やかな土の匂いだけを残す平原へと変わった。

アイシャが立ち上がり、振り返る。

「これで、ただ種をばらまくだけでも作物の育つ土地になった」

その言葉に、砦の隊長が兵士たちに頷きかける。

「倉庫にある種を全部持ってこい!」

兵士たちは半信半疑ながらも、残されていた最後の備蓄である種袋から、無造作に種をばらまいていく。

そこに、豊穣神の神官たちが歩み出た。

「豊穣の願い!」

彼女たちが杖を掲げると、ばらまかれた種から一斉に緑の芽が吹き出した。

芽は瞬く間に茎を伸ばし、葉を広げ、花を咲かせる。

ほんの数分のうちに、目の前の平原は立派な葉を茂らせた野菜や、土を盛り上げるほどに育ったイモの畑へと変貌した。

「育ったぞ! 食い物だ!!」

「信じられない、こんなにたくさんの野菜が!」

兵士たちは歓喜の声を上げ、泥にまみれるのも構わずに畑に飛び込んでいった。

彼らは泣き笑いの表情で野菜を引き抜き、泥を払ってそのままかぶりつく。


しかし、その狂騒の輪から外れ、砦の門の近くで立ち尽くしている者たちがいた。

白い法衣を纏い、威儀を正している高位の神官戦士たちだ。

彼らは壊血病によって関節の痛みに耐えながらも、死者を冒涜しているという教義の縛りから逃れられず、豊かに実った野菜を口にすることができずにいた。

老齢の神官戦士総兵長は、唇を噛み締め、苦悶の表情を浮かべている。

その時、エリスがアイシャに寄り添い、よく響く澄んだ声で尋ねた。

「ミスティアというのは、すごい魔法ですね。いつもこんなに土地が豊かになるのですか?」

アイシャは少し間を置いてから、表情を変えず、堂々と周囲に響く声で答えた。

「ここまでの魔力が残るのは珍しい。死者たちが、親しい人たちのために、何かを残したいと願った時にだけこうなる。天に昇った人たちは、仲間に生き延びてほしいって、心から願ったんだと思う」

その会話は、風に乗って神官戦士たちの耳に確かに届いた。

総兵長の白い眉毛が微かに震える。

「仲間に、生き延びてほしいと……」

かつて共に教えを乞い、背中を預けた部下たちの顔が彼の脳裏に浮かんだのだろうか。

彼は震える足で畑へと歩み寄った。

そして、土から顔を出している大きなイモを自らの手で引き抜くと、背後に控える高位神官戦士たちを振り返り、ひび割れた声で叫んだ。

「皆、先ほどの美しい光を見たな!? 私は宣言する! あの光は『至聖神の導きによる浄化』であり、この糧は『亡き戦友からの贈り物』であると!!」

神官戦士たちが息を呑む。

「戦友からの贈り物を無駄にするな! もしこれが邪法であり、教義に背く大罪であるならば……その罪と神罰は、最高責任者であるこの私が、一人で地獄へ持っていく! お前たちは生きて、魔族を討て!! 友たちの仇を討て!!」

そう叫ぶと同時に、総兵長は泥がついたままのイモを口に運び、力強く噛みちぎった。

それを見た他の高位神官戦士たちも、堰を切ったように畑へと駆け出し、実った野菜をもぎ取って食した。

神官戦士たちは融通が利かないかもしれないが、真面目で誠実だ。

教義の壁があっても、自分たちを想った亡き者からの贈り物を無下にはできないのだろう。

本当に良かったと、そう思った。


砦の食糧事情は、亜魔族のミスティアの魔法によって完全に解決した。

新鮮な野菜を豊富に摂取したことで、壊血病に苦しんでいた高位神官戦士団は数日で劇的な回復を遂げ、全員が戦線に復帰した。

そして、彼らの復帰は、戦局を決定的に変えることになった。

「アクセル!」

戦場に響くエリスとカティアの声。

二人が新たに習得した魔女魔法が発動すると、神官戦士の身体を淡い光のオーラが包み込む。

それは、彼らの行動速度を限界まで引き上げる魔法だった。

時間が引き延ばされたような世界で、神官戦士たちは残像を残すほどの速さで戦場を駆け巡る。

「ジャッジメント!!」

エリスの祈りで必殺となった即死魔法は、文字通り雨あられとなって魔物の群れに降り注いだ。

王国軍はそこから破竹の勢いで快進撃を続けた。

亜魔族の魔法で補給の不安が消え、神官戦士団の圧倒的な火力が戦線を押し上げる。

そして一か月後。

ついに王国軍は、三十年もの間人類が奪い返せなかった要衝の城塞都市へと到達した。

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