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魔女の秘術と、同胞の証明

鬱蒼とした広葉樹の森を抜けると、空気が急にひんやりと変わった。

湿気を帯びた土の匂いとは違う、香草を燃やしたような独特の香りが鼻をくすぐる。

木々の間に隠れるようにして、獣の骨や色鮮やかな羽で飾られた木の柵が見えてきた。

そこが、王国と聖教会から異端として迫害され続けてきた亜魔族の集落だった。

歩みを進めようとしたその時、柵の陰から鋭い声が飛んできた。

「人間たちめ! 何をしに来た!」

「立ち去れ! 至聖神など、俺達には関係ない!」

骨の飾りを身につけた亜魔族の門番たちが、ギリリと弓を引き絞り、俺たちに切っ先を向けている。

エリスをかばうように俺が前に出た途端、門番たちの表情が硬直した。

「人間かと思ったが、あの顔。人間じゃないのか?」

門番の一人が弓を下ろし、信じられないものを見るような目で俺の顔をまじまじと見つめた。

「ああ、なんて醜い。いや、なんて独特な顔だ。魔物か? まさか、魔物と人の子か?」

別の門番も困惑したように顔を見合わせる。

「人間ではないというなら、攻撃をしてくることもないだろう。話を聞こう。何か用事か? 道に迷ったか?」

俺のこの醜悪な容貌が、まさか他種族に警戒を解かせる理由になるとは思わなかった。

普段なら理性を失わせて攻撃されるところだが、異端として隠れ住む彼らにとっては、人間の基準から外れた姿の方が安心感を与えるらしい。

「でも、人を外見で判断するもんじゃないぞ……」

俺は深くため息をつきながら、敵意がないことと、前線の砦から話し合いのために来たという事情を簡潔に伝えた。

門番たちは少し相談した後、俺たちを集落の中へと迎え入れてくれた。

柵の内側に入ると、巨木の太い枝や幹のうろを利用した高床式の住居が規則正しく並んでいた。

色とりどりの染め布が風に揺れ、集落の奥からは生活の営みを感じさせる細い煙が立ち上っている。

土はよく踏み固められ、砦の兵士たちが飢えに苦しんでいたのとは対照的に、ここには確かに豊かな暮らしがあった。

案内されたのは、集落の中央にある最も大きな天幕だった。

その奥で、豪奢な獣皮が敷かれた玉座に一人の少女が腰を下ろしている。

彼女が亜魔族の若き族長、アイシャだった。

父親が不慮の死を遂げたことから若くして族長となったという彼女は、透き通るような銀色の髪を肩で切りそろえ、話に聞いていたように青白い肌をしていた。

「事情は門番から聞いているけど……あなたたちは私たち亜魔族が怖くないの?」

アイシャは玉座から身を乗り出し、鋭い眼差しで俺たちを値踏みするように言った。

俺は一歩前に出て、彼女の目をまっすぐに見返した。

「俺は、あなたたちを怖いとは思っていない」

「なぜ? あなたたちからすると、魔族の末裔なのでしょう、私たちは」

「そういう意見があったのは事実だ。だが俺は、亜魔族の民が長年聖教会と対立して迫害を受けながら、魔族の勢力圏に行かずに人類の勢力圏に留まっているのは、同じ人類であることの何よりの証拠だと思っている」

俺の言葉に、アイシャの目がわずかに見開かれる。

エリスがそっと進み出た。

「王国のこれまでの行いを、王族の端くれとして心よりお詫びいたします」

カティアもそれに続く。

「聖教会による長年の迫害、誠に申し訳なかった。今更虫の良いことを言うなと思われるだろうが、魔族との戦いを続けるために、どうか知恵を貸してほしい」

二人は深々と頭を下げた。

王女と聖騎士が頭を下げるという光景に、アイシャを取り囲む亜魔族の戦士たちがどよめく。

人類が魔族との戦いに敗れれば、亜魔族も魔族の支配から逃れるためにこの土地を離れなければならなくなる。

利害は一致しているはずだった。

「あなたたちの覚悟はわかった。私たちも、この森を追われるのはごめんだし、協力する」

アイシャが頷くが、周囲の戦士たちが一斉に反対の声を上げた。

長年の迫害の歴史を考えれば当然の反応だ。

「族長! 人間たちを信じてはなりません!」

「裏切られるのが落ちです!」

荒ぶる声を手で制し、アイシャは俺たちに向き直った。

「私の民を納得させるためには、目に見える証が必要。王族であるあなたと、聖教会の騎士であるあなた。二人が、私たちが誇る魔女魔法を習得するなら、皆も仲間と認めるはず」

魔女魔法。

それはアストレア戦記において、時空や天候や土地の属性を操る強力な術だ。

味方の行動を速くし、敵の行動を遅くし、マップの環境を敵の苦手な属性に変えて能力を下げ、属性魔法の威力を増減させることができる、非常に強力な戦闘補助の手段だった。

「魔女魔法と呼ばれているからには、魔女という職業じゃないと覚えられないんじゃないか?」

ゲームの仕様を思い出しながら俺が問いかけると、アイシャは笑った。

「誰でも覚えられる。王国の人間は、聖教会の信徒だからという理由で、忌み嫌って覚えようとしなかっただけ」

なるほど、ゲームの職業制限はそういう事情だったのか。

実際は自由に習得できるとはいえ、その条件は重い。

邪法として忌み嫌われてきた魔女魔法を習得し、聖教会から破門されることになれば、エリスもカティアも国を追われることになる。

それでも、エリスは一切迷った様子を見せず、アイシャに返事をした。

「私は構いません。皆様の生活を守ってきた魔法が、邪悪なる術ということはないはずです」

カティアも力強く頷いた。

「私もだ。神は人を救う行為を罰することはない……というのが私の解釈だ」

二人の決意を聞き、アイシャは満足そうに微笑んだ。

「いい覚悟。どんな魔法を覚えたい?」

俺は迷わず口を開いた。

「二人ともアクセルを習得してくれ」

アストレア戦記において、味方の行動速度を劇的に引き上げるその魔法は、極めて大きな力を持つ。

敵が最初の行動を起こす前に、複数回の行動で殲滅するという戦術が可能になるのだ。

エリスの『祈り』のレベルアップ速度が落ちるかもしれないが、それでも習得する価値がある魔法だった。

「レオン様、アクセルとはどのような魔法なのですか?」

「なぜあなたが、私たちの魔法の名を知っているの?」

エリスが不思議そうに首を傾げ、アイシャも怪訝な顔をする。

「ずっと前に読んだ死霊術の本に、魔女魔法についても書かれていたんだ。仲間たちの動きを速くする、とても便利な術らしい」

その場しのぎの説明だったが、それ以上の追及はなく儀式の準備が始まった。

数時間の後、アイシャの指導のもとで精神を集中させた二人は、見事にアクセルの魔法を習得した。

儀式を終えて天幕の外に出ると、空は赤く染まり、集落には松明の火が灯り始めていた。

炎の揺らめきが、立ち並ぶ亜魔族の民たちの顔を照らしている。

魔女魔法を習得したエリスとカティアの姿を見て、集落の者たちの警戒心はすっかり解けていた。

「まさか本当に人間が、我々の魔法を受け入れるとは」

「完全に信じたわけではないが……この魔法を使う以上、お前たちは同胞だ」

彼らは笑顔で二人を迎え入れ、ついに、枯れた大地に住みながら食料をどのように得ているのかを教えてくれた。

案内された集落の裏手には、見事に実った豊かな畑が広がっていた。

「よく見てて。これが私たちが大地と共生する魔女魔法……魔元素分解、ミスティア」

アイシャはそう言うと、持ち込まれた獣の死体と、討伐された魔物の死体に向けて手をかざした。

彼女の指先から放たれた光が死体を包み込むと、それらはさらさらとした光の粒に変わり、音もなく土に溶け込んでいった。

「人間にとって毒にしかならない魔物の死体も、この魔法で分解すれば土を豊かにする養分になる。これで畑を耕し、作物を育てているの」

俺は驚きで目を見開いた。

「魔物すら養分にできるなんて……すごすぎるな」

カティアが肩の力を抜いて息を吐く。

「しかし、死者を養分にするという点は、レオン様のグール農法と変わらない。総兵長殿を納得させることができるだろうか」

「カティアの言う通り、聖教会の高位神官の方々は気にするでしょう。アイシャ様、この魔法は対象を選ぶことはできますか? 戦場の魔物の死体だけを分解して、人間の遺体は残す、といった風に……」

エリスの問いに、カティアは首を横に振る。

「そこまでの繊細な操作はできない。それに、仲間の死体もそのままにしておくと病気の原因になるから、この魔法で必ず大地と天に還すように言い伝えられている」

「そう、ですよね。やはり、どうにかしてわかっていただくしかないですよね。ありがとうございます。これで砦の兵士たちを助けることができます」

頷くエリス。

アイシャは自らの武器を手に取り、集落の中でも特に手練れの亜魔族の戦士たちを振り返った。

「私たちも同じ大地に生きる身で、放っておくことはできないって、皆わかっているよね。魔族に好き勝手はさせない。王国軍の砦に行って、一緒に戦うよ」

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