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神罰の証明と、異端の亜魔族

その日の午後、グール農法は実施された。

砦の外の荒れた土地に、グールたちが穴を掘っていく。

一般の兵士たちは遠巻きにしていたが、誰も止めなかった。

神官戦士たちは抗議の声を上げるが、カティアに止められて実力行使まではできずにいる。

戦場の死体がグールとなって起き上がり、整列して自ら穴を掘って横たわり、次の列のグールたちが土をかけて埋める。

全力でグール・サーヴァントを行使して、数百体の死体が土の中に消えた。

グールたちによる自己埋葬が終わってすぐに、豊穣神の若い神官が豊穣の願いを試してみると、みるみるうちに野菜が生えてきた。

兵士たちが驚きの声を上げつつも動けずにいる中、カティアがしっかりとした歩みで畑に近づき、熟れた赤い実をむしってかぶりつくと、美味しそうに飲みこんだ。

「甘くて美味しいな」

周囲がざわつき、何人かの神官戦士がカティアを責め立てた。

「聖騎士カティア、あなたは何ということを……!」

「許される行為ではない!! 至聖神の教えに背く、大罪だ!!」

カティアは空を指さし、低空を舞う怪鳥ガルーダを示した。

「私の行為が罪になるか、神に聞いてみよう。神が私を見捨てたなら、容赦なく裁いてくれ」

エリスが『祈り』を発動すると同時に、カティアが高らかに叫んだ。

「ジャッジメント!」

閃光。

空を飛んでいた魔物の巨体が引きつったかと思うと、そのまま枯葉のように宙を舞い、大きな音を立てて地面に落ちた。

カティアは集まった兵士たちと神官戦士たちを見渡した。

「神はまだ私に力を与えてくださっている! 魔族と戦うためにグール農法で空腹を満たすことは、神の教えに背いていないと、聖騎士カティアが宣言する! 全ての責任は私が負う!」

しばらく誰も何も言わなかった。

それから、一人の若い神官戦士が歩き出し、畑の収穫を始めた。

後に続く者が、一人、また一人と増えていく。

最終的に、神官兵の小隊以上を指揮する、高位の神官戦士長たちだけが残った。

「……我々は、グール農法で育った作物は食べない」

神官戦士長は、固い声でそう言った。

「わかった。無理強いはしない」

俺は答えた。

「有毒でないことが判明した魔物の肉を食べてくれ。備蓄はあるが、量が足りなければ砦の周囲で狩るように。こちらのリストにまとめている」

神官戦士長は黙ってそのリストを受け取った。


補給の問題は概ね解決し、魔物の肉と、グール農法で育てた野菜が、砦の食堂に並び始めた。

まだ量は少ないが、完全に底をつく前に次の収穫が見込める。

兵士たちの顔から、あの骨の髄まで疲弊しきったような表情が薄れ始めた。

死体の処理が進んだことで、衛生環境も改善し、砦内で広がっていた熱病の患者が減った。

心身ともに充実した兵士たちの奮戦と、エリスの祈りを受けた神官戦士団のジャッジメントにより、魔物の群れを次々と撃破し、前線が少しずつ敵の侵攻を押し返し始めた。

しかし、数週間が経った頃から、新たな問題が現れた。

神官戦士長たちが、戦線に出てこなくなったのだ。

最初は疲労だと思われたが、翌日も翌々日も出てこない。

見舞いに行くと、傷の治りが悪く、関節の痛みを訴えていた。

同じ症状の神官戦士が、一人、また一人と増えていく。

俺はその症状を聞いて、かつて生きた現実世界で得た知識を思い出した。

昔の船乗りたちが苦しんだ、壊血病だ。

新鮮な野菜をほとんど食べていないことから、ビタミンCが不足して発症する。

「神官戦士長の皆様、お願いだ。グール農法で育てた野菜を食べてくれ。そうすれば快復する」

「それはできない」

「このまま戦線に復帰できなければ、前線が崩れかねない。何より、症状が悪化すればあなたの命が危険だ」

神官戦士長は目を閉じた。

「わかっている。しかし……教義に背くことは」

その顔には、信念と現実の間で引き裂かれているような苦しさがあった。

俺はしばらく考えた。

もともと、魔族の侵攻の前はこの地域にも人は住んでいた。

人が住んでいたということは、食料を手に入れる手段があったということだ。

「この地域のかつての住民たちは、どうやって新鮮な野菜を手に入れていたんだ?」

兵士たちに聞くと、一人の古参の兵士が答えた。

「もともと交易で野菜を手に入れていたんです。補給が滞って戦線が悪化し、商人が来なくなったら食料も手に入らなくなり……みんなこの辺りを離れていきました。あとは……森の奥に、亜魔族の集落がありますが……」

「会ったことは?」

「ありません。王国と聖教会に従わない民で、我々人類との交流はなく、どのように暮らしているかも不明です」

「亜魔族か。聞いたことはあるが……」

聖教会が邪法とする魔法を行使し、王国の支配を受け入れず、聖教会の教えも否定している少数部族。

大昔から聖教会からは異端として迫害され、人類を敵視していると伝えられている。

「行ってみる価値はありそうだ」

「私も行きます」

「聖騎士になっても私はエリス様の護衛騎士だからな。当然私もだ」

エリスとカティアが即座に言ったが、それ以外の全員が反対した。

「危険だ! 奴らは人間を敵視して、これまで何度も我々人類と争いになっている!」

「奴らは青白い肌で、人型の魔族と同じ見た目で……魔族の末裔と言われている。魔族と通じているのは間違いない」

グール農法の時はまだ意見が割れたが、今回は神官戦士も一般兵も、一致団結して止めてくる。

俺たちのことを仲間と認めて、心配してくれているのがわかるので、嬉しい気持ちはあった。

「ありがとう、心配してくれて。だが、人を外見で判断するもんじゃないぞ。外見で判断するなら、夜会で令嬢にゴブリンよりも醜く恐ろしいと言われた俺は、魔物の仲間か?」

「それは……フェルディナ殿の顔は確かにいまだに慣れませんし、気を抜くと吐き気を催しそうになりますが、魔物などではないし、邪悪な意思を持つ者ではないと断言できます。我々はフェルディナ殿と共に戦い、どんな人物かよくわかっているのです。多少無茶苦茶なところはありますが、ここは戦場なので、まあ仕方ないと言いますか……」

一般兵たちが深く頷き、神官戦士たちからも否定の言葉は出なかった。

「そう言ってもらえて何よりだ。やっぱり、相手をよく知るというのは、大事だと思うんだよ。俺に、亜魔族を知るチャンスをくれないか?」

そして翌日、くれぐれも気を付けるようにと砦の皆に見送られて、俺たちは亜魔族の住む森へと向かった。

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