目を逸らさぬように
「……ぶふっ、きゃはははっ! あなた、なあに、そのトゲトゲだらけの見るからに悪役っぽい剣は! それじゃあ勇者っていうよりは、闇に憑りつかれたワルモノ剣士って感じじゃないっ!」
途端、ロゼットからまたもや悪口をぶつけられる。
グラグラ怒りが煮え立つ――だけど、その気持ちすら、両手に込めて!
あの、クソ青色モンスターから!
倒すべき敵から!
絶対に、目を逸らさないようにっ!
そう、強く願って。
不意に。
熱いような、シビれるような。
形容しがたい、じょうずに言葉で表せない。
だけど何か、俺を励ますみたいな不思議な感覚が、掌に走った。
「ま、あなたがマジで人間どもを憎んでるんだったら、私たちモンスターの仲間にしてあげてもいいわよ? ビジュアル的にはそっちのがお似合いじゃない、ふふ」
な、なんだ――どうしたってんだ?
ワケも分からず、掲げた魔剣をぱっと目をやり――
俺は、言葉を失った。
刃全体を覆い尽くす、気味の悪い薄モヤ。
――それが、紫色の妖しくも鮮烈な輝きを放っていたのだ!
続けて、ただでさえギンギンに尖りまくっていたトゲがメキメキ音を立てて、幾度も幾度も枝分かれを繰り返し――より凶悪な姿へ変貌していく。
ロゼットの冗談半分のお喋りは、ちょうどそのタイミングで途切れた。
突然、部屋全体がごく小さな揺れに襲われる。
「あら、地震? 最近、どうもめっきり増えたわねえ……やな感じぃ」
と、彼女がボヤいた直後――
――ぎゃああああああああああああああああああああああっ!!!
ヒステリックな叫び声が、魔剣の刀身にぽっかり空いた穴から響き出し!
地面が――いや、お城そのものが!
すさまじい激しさで、ガタガタ揺さぶられされ始めたっ!
「な、うわっ、ひゃあっ!?」
「あああ、どうなっとるんじゃ、さっきから何がどうなっとるんじゃあっ!」
「終わりだ、この世の終わりだああっ……」
びしっ、みしっ、ばきばきばきばきっ!
刃を覆う紫色のエネルギーオーラが、とめどなく膨れ上がっていくっ!
壁は軋む、柱はねじくれる、天井は歪むっ!
びゅうびゅうごうごう風が吹き荒れ、悲鳴が上がる!
ビビりまくる、地べたに突っ立ってた連中はビビり――ラザニアはまだブッ倒れたまんまだったけど――宙に浮かんでいたロゼッタにゃ、特にダメージはなかったようだ。
だけど、どうやら死ぬほどビビりまくってんのは同じみたいらしい。
――だって、顔が真っ青を通り越して、まるきり真っ白なんだもん!
「は、はああ……!? ちょ、な、何よその冗談みたいなパワーはっ!? て、ていうか、この魔法力の雰囲気って、もしかして邪神さま――はわわわわわっ!?」
魔剣のまとう闇のオーラは、更に激しさを増すっ!
ムダに豪華なカーペット、ムダに綺麗な珠飾り、ムダに作りが細かい燭台――
目に映るもの何もかも、全部全部ぜんぶっ!
世界まるごとガタガタ揺らしながら、攻撃力が跳ね上がっていきやがるっ!
「ままま待ってっ!! ご、ごめんなさい、ふざけたことばっか抜かして悪かったわっ、私がぜんぶ完璧に悪かった! ごめんなさいっ、謝ります、あやまりますからあっ、や、止めてえええっ!!」
「……ははは。さっきも――誰だかが、言ってらしたがなあっ!!」
ああ、もう!!
熱に浮かされちゃったみたいな感じだっ!!
しょうじき、もう、何が何だか分かんないけど!!
言えることは――ただ一つだっ!!
「今更!! んなふうに謝られたってなああああっ!!」
渾身の力で、振り下ろすっ!!
「遅えんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!」
瞬間――
ぱんぱんに膨れ上がった魔剣のオーラが、爆弾みたいに弾けたっ!
そして目の前に広がる全部、ぜんぶ!
文字通り、何もかもが紫色の閃光で埋め尽くされていく!
一拍遅れて――どっかああああああああんっ!
鼓膜を突き破らんばかりの爆裂音が――世界の隅から隅まで、広がりまくったっ!
「んぎゃああああああああああああああああああああああ~っ!!」
断続的に繰り返される明滅!
火薬庫一杯のダイナマイト全てに火を点けたみたいな喧しさ!
絶え間なく上がりまくる悲鳴!
地獄のような状態が、一分と少々続いて――
やがて、光も音もカンペキに収まったころ。
「……お、終わった――のか?」
「こ、ここはどこだ? 私はもしかして、死んでしまったのか……?」
俺は……呆然と突っ立っていた。
気持ちを爆発させ尽くした直後の、えもいわれぬ虚脱感に襲われていたのだ。
がらがらと鳴るガレキの音。
砕けたガラス同士ががりがり擦り合う音。
そんな俺を、正気に引き戻したのは――
「お――おい、嘘だろう」
「んなバカな、あのガキが――魔剣が、やったのか?」
「そんな……ああ、くそう、止めじゃ止めじゃ。ワシゃもう、何も考えとうないぞい……」
ぶすぶすと黒い煙を上げてひっくり返っている魔王、ロゼット。
――じゃ、なくって。
綺麗さっぱり、根こそぎ消し飛んだ、お城の天井と壁と。
その背後に広がる――雲一つない、青空だった。
「…………なに、これ…………」
煤と埃だらけの聖女様が、半分泣きそうな顔で呟いた。
「こ、これ、が……魔剣? レベル37の魔王を一撃でノして、挙句その余波で私の作った聖なるバリア付きのお城を半分すっ飛ばして……ま、まさか、聖剣の光の力と邪神の悪意が合わさった結果、こんなとんでもない武器が生まれたってこと?そんな――うひゃあっ!?」
――直後に、飛び上がった。
周囲に薄く残った闇のオーラが、何の前触れもなく浮かび上がったのだ。
紫の軌跡を残しながら、のたのたと動き回るそれは、次第に形を成していく。
その場で意識を保っている全員の視線が集中する。
そして――最後に。
俺たちの前へ現れたのは――
◇昏き黎明の魔剣
・タイプ:両手剣
・ランク:EX
・攻撃力:100000000000
・耐久力:150000000000
・リーチ:30
・備考 :通常攻撃が邪悪属性
通常攻撃が守備力無視
通常攻撃が必ず会心の一撃
通常攻撃がバリアを突き破る
道具として使うと敵全体に麻痺・混乱・気絶を超確率付加
与えるダメージ+100%
力・素早さ・精神ボーナス+255
属性耐性貫通
状態異常耐性貫通
HP・MP自動回復
戦闘終了時に耐久力完全回復
……ああ。
世の中、ほんとに。
意味分かんねえことばっか、だよなあ……。
ヤケクソ気味に、俺は内心でボヤくのだった。




