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喋りたいこと



「……ふーむ?」


 青髪青目の悪魔――ロゼットは、興味深そうな声を出した。


「そこのちびっ子が、勇者? そりゃ一体、どういうことかしら?」

「どういうことも、へったくれもありませんっ」


 問いに答えるのは、いくぶんか元気を取り戻したソプラノの声。

 ――聖女様だった。


 その凛とした声を受けて、こっちもだんだん頭が冴えてきたぜ。

 今、俺を取り巻く状況がどうなってるのか――

 ぼんやりと理解が追っついてくる。


「女神さまのお告げで告げられた名前は一つではなかったのです。一人は、あなたの卑劣な不意打ちに倒れてしまったラザニア。そして、もう一方が――そこのトルテであった、というワケです」

「へええ。選ばれし勇者が、二匹もねえ。それ、本当なの?」


 ロゼットは、冷たげな口調に疑念をひそませる。

 ええっと、つまり、現状を整理すると……。


 あの魔王クラスのモンスターを撃退するのは、今んトコまず不可能で。

 今はひとまず、撤退するしか道はなくって。

 でも、そのためには時間稼ぎ――囮役が必要で。

 その囮役を、聖女様は俺に押し付けようとしていて。


 ……ん、んん?

 こ、これ、もしかして――俺、めちゃめちゃに大ピンチじゃない?


 う、嘘だよね?

 手に汗が滲んでいくのを感じる。

 聖女様ともあろうお方が、こんな善良な子どもをいけにえにするだなんて……。

 ありえないよねっ!?


 必死の訴えを視線に込めて、聖女様の方を見つめるっ!

 それに気が付いた彼女は、俺へ慈しむような微笑みを浮かべたのち――

 ロゼットに向き直り、言った。


「疑うんなら自分で戦って確かめてみりゃいいじゃないですか」

「ななななな、何とち狂ったことほざき出してんだよテメーはっ!?」


 こ、この、あほんだら聖女っ!

 ラザニアですらあいつにゃ一発KOだったんだぜ!?

 俺なんかが飛び出してみろ、十秒経たずにミンチにされちまうよっ!


 ぎゃあぎゃあ喚き散らす俺――の口を、ばちん!

 聖女様が引っ叩く勢いで塞いできた!

 く、くるしいっ――しかし彼女は気を遣うそぶりすら見せないまま、俺の耳元に口を寄せ、小声でささやいてくる。


「ばかっ、とち狂ってるのはどっちですか!? いいからとっとと話を合わせなさい、でなきゃこの場で全員ボコボコにされちまいますよっ!」

「そ、そりゃそうかもしんないけどっ! 俺はいったいどうなっちまうんだ!? テメーら、ちゃんと俺を助けてくれるんだろうなっ!?」

「……まあ……はい」

「へ、返事が頼りねーっ!!」


 何なんだよ、そのクソボンヤリした表情は!

 聖女様ともあろう者がそんな顔しないでくれよ、頼むから!


「ええいっ、まだるっこしい! さっさといけにえになれ、クソガキめっ!」

「お前が幾ら痛めつけられようが、ワシらにゃ関係ないんじゃい!」

「どうせお前が邪神退治に貢献できるチャンスなんて今くらいしかないんだから、ゴチャゴチャ言ってないで、素直に聖女様の言うことを聴けっ!」


 んなっ!?

 お偉方まで、そんなふざけたことをっ!?


 言い返そうとするけれど……畜生っ。

 集まる視線に、またもや足がすくんじまう。

 ふ、ふざけんな、冗談じゃねーぞ!

 こんな所で、こんな所でっ。


「……あー、あのね。私も別に疑ってるってワケじゃあないのよ。なにも、勇者は必ず一人きりでなくちゃならない、なんて決まりはないんだし。ただ、ねえ……」


 などと喧々囂々やっている中――

 ロゼットが面白半分、といった調子で口を挟んでくる。


 彼女は、俺を頭のてっぺんからつま先までねめつけてから――ふくくっ。

 と、押し殺したみたいな笑い声を上げた。


「どうやら、女神もすっかり耄碌したみたい、って思ってね? だって、さっきの綺麗な子はともかくとして、こっちのおチビちゃんからは、才気の欠片も感じられないもの」


 言って、ヤツは口元に手を当て――丁寧に、俺を嘲笑った。

 その様を見た、瞬間。


 ――俺の中の、何かが弾けた。


 ああ……。

 もう、きょう一日だけでさ、俺って何べんバカにされて笑われたっけ。


 見た目が田舎っぽい?

 レベルが低すぎ?

 聖剣じゃなくって、魔剣を使え?

 恥知らずのバカ者?

 ははは、こんなの数えきれやしないぜ。


 そういや、俺が笑われた回数って、トータルでどんくらいになるのかなあ。

 きっと、千や万じゃあ、収まりきらないだろうなあ。

 これからもきっと、幾らでも、幾らでも増えていくんだろうな。


 こんだけ酷い目に遭って、遭って、遭い倒して。

 言いたいことも言えないで。

 黙りこくったまんまで。


 挙句、最後は人身御供でバイバイってか。

 あはっ、あははははっ、笑えるなあ、笑えるなあ。








 ――ふっっ、ざけんなあああああああああっ!!!



「かんっっっっ……ぜんにっっ!!! 頭に来たぞ、クソったれーっ!!!」








 お腹の底から溢れる怒りに身を任せ――力の限り、俺は全霊で吠えたっ!!

 その声のデカさといったら、もう!!

 大臣のクソ共はあまりの爆音に悲鳴を上げ、ロゼットは目を見開き!

 聖女様に至っちゃ、ぶったまげてひっくり返るくらいに物凄かったのだっ!!


「な、何を、あなた……急にどうし――」

「うっせーんだよこのクソったれバカヤロー!! おらっ、ほっぺたをつねってやるっ!!」

「んにゃっ!? にゃ、にゃにをすりゅっ……レベル1のチビガキなんぞにんなことされたって痛くも何ともないけど、にゃっ、にゃめ、やめろーっ!」

「なら先に俺のレベルをバカにするのを止めろおおおバーカ!!」


 もう、もーう我慢ならねえっ、完全にブチ切れたっ!

 実力の差も経験値の差も、聖剣も魔剣も知ったことか!

 どうだっていい、今の俺にゃあ関係ねえ!


 とどめに、ぺしっと平手打ちを喰らわせてやった!

 うしろからブツクサ聞こえる文句のことなんか完璧に無視して、俺はロゼットを迫力満点のおっかない顔で睨み付けるっ!


「うふふ、なあに、どうしたの? いきなりかわいい顔しちゃって」

「決まってんだろっ――テメーを、今、すぐ!! 黙らせてやるっ!!」


 つ、つくづくひとのことをコケにしやがってっ。

 もう許さないぞ――俺は背負った魔剣を引き抜き、大上段に構える!

 そして、身体中に気合を込め始めた……!


 もう、限界だ!

 我慢なんかしてやるもんか、口ごもってなんかいられるもんか!

 喋ってやる!

 喋りたいこと、喋りたいだけ喋ってやるっ!!


「――どいつもこいつもあいつもこいつも、ムカつくヤツばっかしだ!! みんなまとめて、根こそぎ俺がブッ飛ばしてやらあっ!!」




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