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よくもまあ



「……こ、こんな」


 聖女様の震えた声が、ぽつんと響く。


「こんなことが、あってたまりますかっ! こ、こうげきりょく、いっせん、いっせんおく……一千億って! 一千億ってあなた! 攻撃力50の武器ですら殴り続けりゃミノタウロスに本気のトラウマ植わえ付けられるってのに!」

「な、なんでそんなこと知ってんの……?」

「なんだっていいでしょうそんなん! 重要なのは、あんたみたいなちんくしゃが魔王をやっつけてしまったってことですよっ!」


 ――あんたみたいなのが、魔王を。

 その言葉を耳にした途端、胸がドキッとした。


 そ、そうだ。

 あの、そこでドレスの裾を焦がしながら転がってる、羽の生えた女の子。

 ヤツを、ラザニアでさえ勝てなかったヤツを、倒したのだ!


 ……大して勉強もできなくて!

 運動神経も、友達も、勇気も何にもない!

 ないない尽くしのこの俺が!

 見事、やり遂げてみせたのだっ!


「おかしいですよ、ぜったい、ぜーったいに、なんかがおかしいですっ! ズルっこですよズルっこ!」

「――ふ、ふふ」


 知らず、気味の悪い笑い声がこみ上げてきた。

 聖女様がびくっと全身を引き攣らせる。


「うふ、うふふふふ……ズル? ズルだって?」


 ぐんと首を聖女様の真ん前に近付ける。

 色んな感情がないまぜになった表情へ、とびきりイジワルに目を細めてやった。


「そーんなの、俺の知ったことかっ! だって魔王をやっつけたのは魔剣のお陰だし! 文句があんなら、この剣に言えってこった!」

「むぐっ……ああ、でもっ、そ、そうだ! そうですよっ」


 流石に、追い込まれたように汗を浮かべる彼女だったが――

 突然、いいことを思い付いた!

 とでも言いたげな顔をしたのち、威張りくさった口調で言った。


「クソチビ、あんたに命じます! その邪悪なる魔剣と、ラザニアの聖剣を、今すぐとっかえなさいっ!」

「はあっ!?」


 な、何をすっとんきょうなことをほざき出すんだ、この野郎。

 だけど、聖女様は至って真面目な立ち姿だ。


「あんな邪悪な気配に覆われた武器を、あんたみたいに愚かなチビが持ってたら、きっといつか力に溺れるに決まってます! だったら、ラザニアのように高潔な精神の持ち主に与えておいた方がいいでしょう!?」

「ら、ラザニアが高潔な精神の持ち主!? 脳みそ腐ってるぜ、お前――」

「ていうかそもそも、剣の腕前とか他のあらゆる全部、あんたを百倍してもラザニアのが上じゃないですか! 魔剣だって、あんたより巧みに扱えるでしょうよ!」

「……そ、そりゃまあ、そうかもしんないけど」


 ちょっと納得してしまった……く、くやしい。

 と、ほんの少しの間だけボサッとしてたら――ぱしっ!


「ああっ!? ちょ、返し、それ俺の! 俺の魔剣だぞ、どろぼうっ!」

「元々はこの城の所蔵物ですし実質私のみたいなモンですよこのボケナス!! 私の許可なしで使えば、むしろそっちのが泥棒でしょうがっ!!」


 なんと、聖女様に魔剣をひったくられてしまったのだ。

 こ、こいつ、予想以上に腕力があるな。

 彼女は物凄い目で俺を睨み付けたあと――未だにひっくり返ったまんまのラザニアの方へ向かった。


「さあ、ラザニアよ……ああ、かわいそうに、こんなに傷ついて。でも、もうだいじょうぶ! 私が今、あなたを真の勇者にして差し上げますからねっ」


 と、慈愛に満ち溢れた感じで、ラザニアの傍に腰を下ろす聖女様。

 ぴくりとも動かない彼の手(あんだけ騒ぎがあっても目を覚まさないって、やっぱしこいつも大物なのかもな……)を取り――まるで割れ物でも触るみたいな調子で。

 魔剣をぎゅっと握らせ、装備させた。


 ――とたん!


「あばばばばばばばばばばばばばばばばばばっ!?」

「きゃあっ!? ら、ラザニアーっ!」


 倒れたラザニアの全身から――いや。

 握りしめた魔剣から、真っ黒い電撃がほとばしったっ!

 びっくりして飛び上がる聖女様――

 一方の黒コゲ状態と化した彼は、何が何だか分からない、とでも言いたげにパチパチ瞬きを繰り返し――


「……ぶへっ」


 またもや、夢の世界へ旅立っていった。

 HPが0になってるヤツへ更に攻撃すると、こんなふうになるんだな。


「な、なんでえ? そんな、別にチビ助専用武器ってワケでもないのに――にぎゃっ!?」

「さーて、どうしてだかは分かんないけどな」


 聖女様がショックを受けているうちに、素早く魔剣を取り上げる。

 勢いよく肩に担ぎ――大胆不敵な笑みを浮かべ、びしっと決めるピースサイン!


「どっちにしろ、こいつは俺にしか振るうことができないみてえだ。わはは、残念だったな、聖女様!」

「そ、そんなあああああ~っ……」


 聖女様は何とも気の抜けた声を出しながら、へなへなと座り込んだ。

 ……ち、ちょっと、かわいそうなことしちゃったかなあ。 

 微妙に気まずい気分になっていると――





「……げふっ! ごほっ、えほえほっ……よ、よくも、よくもまあ、好き勝手やってくれたわねえっ、じこの、クソったれ人間があああっ……!!」


 黒コゲ状態になってたヤツ――の、羽が生えてる方がよたよたと立ち上がった。




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