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仕事に疲れて家に帰ると、座敷童がいた  作者: 白熊 猫


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8/11

第8話 定時帰り

「……今日やらないといけない仕事終わった?」

佐藤直人は、パソコン画面を見つめたまま呟いた。

時刻は16時50分。

定時まで、あと10分だ。

いつもなら、この時間でも追加の仕事が飛んできたり、誰かのヘルプに入ったりして、気づけば21時、22時になっている。

だが今日は違った。

追加の仕事の依頼なし。

急な仕様変更もなし。

レビューも全部お昼で片付いた。

後輩からの質問や相談もなかった。

「……帰れる」

信じられない気分だった。

定時となり、直人は恐る恐る周囲を見回す。

チャットやメールも静か。

電話も鳴らない。

「もう帰れるな……」

小声で呟きながら、そっとパソコンをシャットダウンする。

すると隣の席の先輩が驚いた顔をした。

「佐藤くん、今日早いね」

「え、あ、はい……」

なんだその“珍しいものを見た”みたいな反応は。

いや、自分でもそう思うけど。

「お先に失礼します」

会社を出た瞬間。

「……明るっ」

まだ外が明るかった。

夕方の駅前。

仕事帰りの人たちや学校帰りの学生であふれている。

普段の直人が帰る時間には閉まっている店も、今日はまだ営業中だ。

なんだか少しだけわくわくした。

「たまには寄り道もいいかもな……」

駅へ向かって歩いていると、甘い香りがふわりと漂ってきた。

見ると、駅前のケーキ屋が開いていた。

ショーケースを見ると、色とりどりのケーキが並んでいた。

ショートケーキ。

モンブラン。

チョコレートケーキ。

フルーツタルト。

「……あ」

直人は、ふと思い出す。

しきちゃん、甘いもの好きそうだよな。

フレンチトーストのとき、あんなに嬉しそうだったし。

「……買って帰るか」

自分1人なら、まず入らない店だった。

男1人でケーキ屋は少し入りづらい。

でも今日は、不思議と足が向いた。

店員に勧められるまま、苺のショートケーキとチョコレートケーキを買う。

箱を受け取ると、なんだか少しだけ特別な気分になった。

「ただいまー」

家のドアを開ける。

すると。

「おかえり、おじさん!」

いつもの元気な声。

部屋の隅にいたしきちゃんが、ぱっとこちらを見る。

そして。

「……!」

手に持った箱へ視線が釘付けになった。

「おじさん、それなに?」

「ケーキ」

「けーき!?」

反応がすごい。

しきちゃんが駆け寄ってきた。

「けーきって、あまいやつ!?」

「たぶんしきちゃんが想像してる通りのやつ」

「わぁぁ……!」

目がきらきらしていた。

直人は苦笑しながら机の上へ箱を置く。

「そんなに嬉しいの?」

「うん!だって、けーきだから!」

箱を開けると、しきちゃんは「おぉぉ……」と感動した声を漏らした。

「しろい……!」

苺のショートケーキをじっと見つめる。

「こっちはチョコのやつな」

「くろい……!」

語彙は少ないが、感動しているのは伝わる。

直人はフォークを用意しながら笑った。

「好きな方選んでいいよ」

「えっ、いいの!?」

「うん」

しきちゃんは真剣な顔で悩み始めた。

ショートケーキを見る。

チョコケーキを見る。

またショートケーキを見る。

「むむむ……」

「そんな悩む?」

「だって、どっちもおいしそう……!」

最終的に。

「しろいの!」 苺のショートケーキを選んだ。

「じゃあ俺はチョコで」 二人で机を囲む。

「「いただきます」」 しきちゃんは、おそるおそるショートケーキをひと口食べた。

次の瞬間。

「……!」

ぴたりと固まる。

「どうした?」

「……ふわふわ……」

感動したように呟いた。

「あと、あまい……!」

「そうだな。」

「くりーむもしあわせ……!」

ものすごく幸せそうな顔だった。

その反応を見ているだけで、直人まで少し嬉しくなる。

「そんなに美味い?」

「おいしい!」

即答だった。

しきちゃんは苺を大事そうに最後まで残している。

たぶん1番好きなんだろう。

直人もチョコケーキを食べる。

甘さは控えめで、仕事帰りの疲れた身体にちょうどよかった。

向かいでは、小さな座敷童が幸せそうにケーキを食べている。

その光景が妙に穏やかで、直人はふっと頬を緩めた。

「なんか、いいな」

「?」

「こういう日もいいなって」

普段なら、疲れてコンビニ弁当を食べて寝るだけだ。

でも今日は違う。

定時で帰って。

ケーキを買って。

誰かと一緒に食べている。

たったそれだけなのに、やけに満たされた気分だった。

しきちゃんは最後の苺をぱくっと食べる。

「……おいしかったぁ」

完全に蕩けた顔をしていた。

「満足?」

「うん!」

それから、しきちゃんは期待に満ちた目で直人を見る。

「おじさん」

「ん?」

「また、けーきのひする?」

直人は思わず笑った。

「そうだな。また定時で帰れたらな」

「ていじ!」

覚えたての言葉みたいに繰り返す。

その無邪気な様子に、直人はまた小さく笑った。

――また買って帰るのも悪くない。

そんなことを思いながら、今日も1日が終わった。

社会人の人はお仕事お疲れ様です!

学生の人もお勉強お疲れ様です!

明日だけは残業せずに帰りましょう!

しきちゃんがきっと許してくれます笑


誤字脱字などあったら、教えてください><

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