第7話 肩たたき
週の始まり、月曜日。
「……はぁ……」
終電間際の電車を降りた佐藤直人は、重たい身体を引きずるように歩いていた。
月曜日から、すでに疲れている。
朝はミーティング。
昼はトラブル対応。
午後は仕様変更により、コーディング。
さらに帰る直前、大きめのバグが見つかり、後輩と一緒にソフトウェアを修正する。
「なんで月曜ってこんなにしんどいんだろうな……」
まだ1週間は始まったばかりだというのに、気分はもう水曜まで働いたような気分だった。
コンビニ袋を提げたまま、直人はアパートの階段を上がる。
鍵を開け、部屋へ入る。
「ただいまー……」
すると。
「おかえり、おじさん!」
元気な声が返ってくる。
部屋の隅には、赤い着物姿のしきちゃんがいた。
その声を聞くだけで、少しだけ気が緩む。
直人はネクタイをゆるめながら、机の前へ座り込んだ。
「おじさん、ぐったりしてる」
「今日は特に忙しくてね……」
直人は机に肘をつき、そのまま深く息を吐く。
肩が重い。
目もしょぼしょぼする。
頭までぼんやりしていた。
「おしごと、たいへん?」
「月曜からフルコースだったよ……」
「ふるこーす?」
「いっぱいあったってこと」
「むぅ……」
しきちゃんは心配そうに直人を見つめる。
そして何かを思いついたように、ぱっと声を上げる。
「おじさん!」
「ん?」
「しきちゃん、かたたたきする!」
「肩たたき?」
「うん!」
やる気満々だった。
直人は少し笑う。
「いやぁ、そんな小さい手でやってもらってもなぁ」
「できるもん!」
「そう?」
「まかせて!」
しきちゃんはぐっと拳を握った。
その姿が妙に可愛くて、直人は苦笑する。
「じゃあ、お願いしようかな」
「まかせて!」
しきちゃんはてちてちと後ろへ回り込む。
それから、小さな手で肩をぽすぽす叩き始めた。
「どう?」
「……うん」
正直に言うと、あまり効いてはいない。
子どもの小さな手だから、力もほとんどない。
凝り固まった肩には、ちょっと当たっているくらいの感覚だった。
でも。
ぽすぽす。
とんとん。
一生懸命叩いてくれているのが伝わってくる。
「おじさん、かたい」
「ずっとパソコン触っていたからな」
「ぱそこん、わるいやつ?」
「悪いやつではないんだよ。仕事には必要だしなぁ……」
直人は苦笑した。
しきちゃんは真剣な顔で肩たたきを続ける。
時々リズムがずれたり、変な場所を叩いたりするけれど、本人はかなり真面目だ。
「そこ肩じゃなくて背中だぞ」
「ふにゃっ」
「はは」
思わず笑いが漏れる。
ついさっきまで、仕事のことで頭がいっぱいだった。
明日やらないといけないこと。
終わっていない仕事内容。
明日午後のレビュー資料の作成。
そんなものばかり考えていたのに。
今は、小さな座敷童の不器用な肩たたきに笑っている。
「しきちゃん、じょうず?」
不安そうに聞いてくる。
直人は少しだけ考えてから答えた。
「……うん。上手だよ。ありがとう」
すると、しきちゃんはぱっと顔を明るくした。
「えへへー」
嬉しそうだった。
その笑顔を見ていると、直人の頬も少し緩む。
肩の疲れは、そんなに取れていない。
でも。 誰かが「疲れてる」と気づいてくれて。
何かしてくれようとしてくれる。
それが、1人暮らしの直人には思った以上に嬉しかった。
「……なんかさ」
「?」
「こういうの、久しぶりかも」
「かたたたき?」
「うん」
子どもの頃、母の日に肩たたき券を作った記憶がぼんやり蘇る。
大人になってからは、誰かに肩を叩いてもらうことなんてなかった。
まして、仕事終わりに「お疲れさま」みたいに迎えてもらえることも。
しきちゃんは、まだぽすぽす叩いている。
「おじさん、げんきでた?」
「……ちょっと出た」
「ほんと?」
「うん」
直人は小さく笑った。
すると、しきちゃんも満足そうに笑う。
「よかった!」
その無邪気な声を聞きながら、直人はふっと肩の力を抜いた。
月曜日は嫌いだ。
疲れるし、しんどい。
でも。
帰った部屋に「おかえり」と言ってくれる誰かがいる。
それだけで、少しだけ救われる気がした。
「おじさん」
「ん?」
「こんどは、もっとつよくたたく!」
「いや、それはそれで怖いな……」
「まかせて!」
しきちゃんの楽しそうな笑い声が、静かな夜の部屋に優しく響いていた。
みなさんは肩はこる方ですか?
作者は仕事のときにはこるけど、それ以外ではやわやわな感じです笑
どちらかというと目のほうがしんどい><
助けて、しきちゃん!
誤字脱字などあったら、教えてください><
ブックマーク、感想などもらえたら嬉しいです!




