第6話 鍋
休日の夕方。
テレビ画面には、倒した敵が映っていた。
「……今日はすごかったな」
直人は思い出しながら呟く。
テレビ画面には、しきちゃんが引き当てたレア装備。
「しきちゃん、うんきいい!」
「運が強すぎるんだよなぁ……」
直人が苦笑すると、しきちゃんは得意げに胸を張った。
「しきちゃんだから!」
時計を見ると、時刻は18時を回っていた。
外は少しずつ暗くなり始めている。
「さて、晩飯どうするかな……」
昼はチャーハンだったし、夜はもう少しちゃんとしたものが食べたい。
冷蔵庫を開ける。
中には、以前買っていた白菜、長ねぎ、豆腐、豚肉。
それと少し余ったえのき。
「あー……鍋にするか」
「なべ?」
しきちゃんが冷蔵庫の横に顔を出した。
「うん。野菜とか肉をぐつぐつ煮たやつ」
「ぐつぐつ!」
食いつきが良かった。
「おじさん、なにつかうの?」
「まず白菜」
「はくさい!」
「次、ねぎ」
「ねぎ!」
いちいち復唱する。
それだけなのに妙に楽しそうだった。
直人はまな板を取り出し、白菜をざくざく切っていく。
「おぉー……」
「そんな感動するとこ?」
「おじさん、きるのはやい!」
「まあ1人暮らしだから、自分で料理するしかなかったからな」
実際は“料理”というほど立派なものでもない。
1人暮らしを続けるうちに、最低限できるようになっただけだ。
しきちゃんは直人の隣で、じーっと作業を見ている。
包丁が動くたびに、目が左右へ動いていた。
「しきちゃんもやってみる?」
「ううん、みてる!」
即答だった。
「見る専門か」
「おじさんがんばれー!」
応援だけは全力である。
直人は苦笑しながら長ねぎを切る。
鍋にだしを入れ、コンロに火をつける。
しばらくすると、ぐつぐつと優しい音が鳴り始めた。
「おぉ……!」
しきちゃんの目が輝く。
「ほんとにぐつぐつしてる!」
「だから鍋なんだよ」
「すごい!」
何にでも感動するので、こちらまで少し楽しくなってくる。
白菜、えのき、豆腐、豚肉を順番に入れていく。
湯気が立ちのぼり、部屋に鍋の香りが広がった。
「いいにおい……」
しきちゃんがうっとりした顔になる。
「もう少し煮るから、もうちょっと待ってな」
「まてる!」
と言いつつ、鍋をじっと見つめていた。
具材に火が通るまでの間、直人は麦茶をコップへ注ぐ。
ふと、カレンダーが目に入った。
日曜日。
そしてその隣には、無情な“月曜日”の文字。
「……あー」
思わず声が漏れた。
「どうしたの?」
「明日から仕事なんだなって……」
途端に気分が重くなる。
休みはあっという間だ。
また明日から電車に揺られて、仕様変更とレビュー対応とバグ修正の日々。
「おしごと、いや?」
「嫌ってほどではないけど……疲れる」
直人は正直に答えた。
しきちゃんは少し考える。
「でも、おじさん、がんばってる」
「まあ、働かないと生きていけないからな」
「えらいよ!はたらいててえらい!」
妙に力強く言われた。
直人は少しだけ目を丸くする。
会社では、頑張っても“できて当然”みたいな空気だ。
誰かを手伝って残業したとしても、大きく褒められることはない。
でも。
こうして真っ直ぐ「えらい」と言われると、なんだかくすぐったかった。
「……ありがと」
「えへへ」
そこで鍋がいい感じに煮えた。
「よし、食べるか」
「やったー!」
机にカセットコンロを置き、鍋を運ぶ。
湯気が立ち上り、部屋の空気が一気に温かくなったように感じた。
「「いただきます」」
しきちゃんは、まず豆腐をふーふーしてから口に運ぶ。
「……!おいしい!」
「熱いから気をつけろよ」
「ふわふわ!」
次は白菜。
そして豚肉。
「おなべ、すごい!」
「鍋は簡単だけど、おいしいからな」
切って入れるだけで、美味しくなる。
休日の夜にはちょうどいい料理だった。
しきちゃんは夢中で食べている。
その様子を見ながら、直人もゆっくり鍋をつついた。
温かい。
体だけじゃなく、部屋の空気も。
少し前までの休日は、寝て、ゲームをしたり動画を見たりしていたら、気づけば終わっていた。
誰とも話さず、気づけば月曜日。
そんな繰り返しだった。
でも今日は違う。
ゲームをして。
笑って。
一緒に鍋を囲んでいる。
明日から仕事なのは憂鬱だ。
きっと朝になれば「行きたくないなぁ」と思うだろう。
それでも。
「……まあ、悪くない休日だったな」
ぽつりと漏らす。
すると、しきちゃんがきょとんと顔を上げた。
「?」
「いや、なんでもない」
「へんなおじさん」
「うるさいな」
直人が笑うと、しきちゃんも嬉しそうに笑った。
鍋って簡単なのに美味しい!
それに誰かとやる鍋は楽しい!
ちょっと今の季節には暑いけど、我慢大会とかあるし?
いいよね?笑
誤字脱字などあったら、教えてください><
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