第10話 ずぶ濡れの直人
土砂降りの雨だと、傘を持っていても無力ですよね。
その日の夕方。
窓の外を見た直人は、小さくため息を吐いた。
「うわぁ……結構降ってるなぁ」
会社のビルの外では、大粒の雨が激しく地面を叩いていた。
朝の天気予報で「夜から雨」とは聞いていたが、ここまでとは思わなかった。
時刻は21時過ぎ。
もう少し残業して雨が止むのを待つ手はあるが、まだまだ雨が止みそうにはない。
仕方ない。
帰るか。
会社を出て、駅へ向かう。
雨はどんどん強くなっていった。
駅へ頃には、靴の中までじっとりと濡れていた。
ズボンの裾も濡れて重い。
「気持ち悪いなこれ……」
電車を降り、アパートへ向かう夜道。
傘を差していても、風で雨が吹き込んでくる。
そのせいで、上半身もだいぶ濡れた。
疲れた身体に雨は地味につらかった。
ようやくアパートへ辿り着き、直人は深く息を吐く。
「ただいまー……」
玄関のドアを開ける。
すると。
「おかえり、おじさん!」
いつもの元気な声、しきちゃんだ。
「わぁっ!?」
しきちゃんが目を丸くする。
「おじさん、びしょびしょ!」
「うん……今日は雨すごくてな……」
直人は苦笑しながら靴を脱ぐ。
靴下まで湿っていて気持ち悪い。
ズボンの裾からは、ぽたぽた水滴が落ちていた。
「ぬれすぎ!」
「ここまでとは思わなかったよ。」
すると、しきちゃんは慌てたように部屋の奥へ走っていく。
「しきちゃん?」
ぱたぱたと小さな足音。
そして数秒後。
「おじさん!これ!」
両手で大きなタオルを抱えて戻ってきた。
「お、ありがとう」
直人はタオルを受け取り、濡れた髪をわしゃわしゃ拭く。
「あー……生き返る……」
乾いたタオルの感覚が気持ちいい。
しきちゃんは、その様子をじっと見上げていた。
「そんなにぬれるんだね」
「結構強い雨だったからな」
特に濡れたズボンが足にくっついてきて気持ち悪い。
靴下の中もぐちゃぐちゃだ。
直人はネクタイをゆるめながら、大きく息を吐いた。
「つかれた……」
仕事も忙しかったこともあるが、帰り道でこの雨だ。
どっと疲労感が押し寄せてくる。
すると、しきちゃんが心配そうに見上げてきた。
「だいじょうぶ?」
「んー……ちょっと疲れたな」
正直に答える。
すると、しきちゃんは小さく頷いた。
「おじさん!」
「ん?」
「ちゃんとおふろ、はいるんだよ?」
「……わかってるよ。さすがにこんな濡れたままだと気持ち悪いしな」
「かぜひくといけないから、はやくはいって!」
確かに、このままいたら普通に風邪を引きそうだ。
「……はい」
直人は苦笑する。
すると、しきちゃんは満足そうに頷いた。
「えらい!」
「風呂入るだけなんだけどなぁ……」
「たいせつ!」
しきちゃんはなぜか得意げだった。
直人はタオルでズボンを拭きながら、ふっと肩の力を抜く。
外では、まだ激しい雨音が続いている。
窓を打つ雨の音。
少し前までなら。
こんな日は、しばらく気分が沈んだままだった。
でも今は違う。
「おかえり」と言ってくれる声があって。
タオルを持ってきてくれる子がいる。
それだけで気分が晴れていくようだった。
「……ありがとな、しきちゃん」
ぽつりと呟く。
「?」
「タオル持ってきてくれて」
すると、しきちゃんは少し照れくさそうに笑った。
「えへへー」
それから、ぴしっと直人を指差す。
「おふろ!」
「はいはい、今入ります」
「うん!」
完全に保護者みたいだった。
直人は苦笑しながらお風呂に向かった
濡れて家に帰ったときに誰かにタオルもらえると嬉しいですよね。
ふわふわタオルだとなお良し!
誤字脱字などあったら、教えてください><
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