タクト・クロナン
翌日から私は以前のようにタクトさん付きになり仕事をする。
タクトさんが留守にしていたために仕事が溜まっていたので(トーリさんが代わりに対処してくれたけれど全ては無理だった)昼食はタクトさんと二人執務室でとる事にする。
テーブルに昼食を置き向かい合わせで座る。
「そういえば、サーヤは流星群を見たんだって?」
「はい、綺麗でしたよ」
「そうか、私は見る余裕がなかったからな」
「サントロさんもそう言ってました」
「どのようなものだった?」
「そうですね。星降る夜でした。素敵でしたよ」
「そうか。一緒に見たかったな」
「えっ」
「サーヤと一緒に見たかったなと思った」
「えぇと」
くすくすとタクトさんが苦笑する。私の顔は赤くなってると思う。
「グレスク町に行くことにした」
タクトさんが言う。
「そうですか。では、その間は私はトーリさん付きになりますか」
「少し違う」
タクトさんが食事の手を止めて私を見た。
「私が叔父上の跡を継ぎグレスク町の町長になる事は?」
「知っています」
「今は父上について伯爵領の勉強をして、あと1年は続ける予定だったんだけれど、今回の事でグレスク町へ早めに行くことになった。叔父上が父上に手紙で懇願したらしい」
「すぐに行かれるのですか」
「まだだ。母上が王都からまだ戻られていないからな。この件を母上に知らせなかった場合どうなるか想像するだけでも怖いものがある」
なるほどと納得してしまい苦笑してしまう。
「母上が帰られるのは10日後らしい。出発はその後になる」
タクトさんが真剣な顔でこちらを見るので思わず背筋を伸ばしてしまった。
「サーヤにグレスク町に一緒に来て欲しい。仕事を手伝ってもらえれればうれしいが、仕事のためだけではなく妻として一緒にグレスク町で暮らして欲しい」
###タクト・クロナン
「妻として一緒にグレスク町で暮らして欲しい」
自分の気持ちを伝えた時、サーヤはとても驚いていた。
「す、少し考えさせて頂いてもよろしいでしょうか」
保留とした言葉に気落ちしたり断られなかっただけでも良かったのかと思い直したり、午後からは仕事にならなかった。今迄の分が溜まっているのに。
お互いがギクシャクしてしまいサーヤには資料探しとして図書室に行ってもらった。
もう少しゆっくりと気持ちを伝えていく予定だった。しかし、グレスク行きは延ばすことは出来ない。町に被害がなかったとはいえまだ魔物を警戒しなければいけない。他にも倒した魔物の処理、怪我をした者達への補償などやる事が山積みになっている。次の町長として叔父上と一緒に解決していかなければならないと思う。
私にとってサーヤは初め『甘えている子供』にしか見えなかった。お母さん、お母さんとヨーコさんを頼り自分のの言いたい事もヨーコさんに言わせていて、16歳と聞いて信じられなかった。平民なら働いている年だ。
慣れてくると話をするようになる。異世界の知識が珍しく会話が増えていった。
こちらの事を知ろうとしている気持ちやキャトリの手伝いをしている所を見ると初めの印象が間違っていたと感じた。
好感が持てたのは聖女だからと高圧的にならなかったことだ。権力や地位が手に入ると横暴になる者がいる事を知っている。
領都に着き、伯爵邸で暮らす頃になると気の合う友人のようになっていった。
護衛のつく生活に戸惑っていたようだったけれど周りの人達とも上手くやっているようだった。バーナルが護衛としてついたけれどバーナルとマリカナがお互い好意を持っている事を知っていたので気にならなかった。いや、安心した。
今思うと、気にならなかった。安心した。という所でサーヤの事を意識していたのだろう。
この時はわからなかったけれども。
聖女様はヨーコさん
とわかった時に『良かった』と思う自分の気持ちに気がついた。
サーヤが聖女様ではなくて良かった
と思った。
クロナン伯爵次男タクトの私は今は貴族であっても将来はグレスク町の町長となり平民になる。
いくら王家とつながりがあろうとも聖女様と平民ではつり合わないからだ。
気持ちを自覚してからも普通に接するように気を付けていた。サーヤは恋愛に関しては『幼い』と思う。こちらと日本の考え方の違いもあるだろう。
父上は私の気持ちを知っていたのだろうか。
学校を卒業したサーヤが私に付くことになった。
毎日すぐ近くにいて、真面目で一生懸命に働いている。とても心地よい時間だった。
時間をかけてゆっくりと気持ちを伝えていくつもりだったのに今回の流星群と魔物の襲来でグレスク行きが早まった。
グレスク行きの心構えは出来ているので、後はサーヤの事だ。一緒に行って欲しいと思った。
今朝、父上にサーヤへの求婚の許可を貰い、昼食の時に言ったのだけれど、
「はぁ」
やはり早かったか。困らせてしまった。
父上に報告に行くのが憂鬱だな。




