田中富子
###日本 田中家 祖母富子
「とみちゃん、いるかい」
「さっちゃん、また来たのか。暇だね」
「ハ、ハ、ハ、春子ちゃんに頼まれたからね」
隣の家に住んでいるさっちゃん、丸井咲子は和男と同じ歳の娘がいる40年来の友人で家族ぐるみで仲良くしていた。さっちゃんの娘は一人っ子だったのでうちの子供達と兄弟のように育っている。
さっちゃんの娘が隣町へ嫁に行き夫婦二人の生活になってからも変わらず仲良くしており、和男が死んだ時も一緒に泣いてくれ心配してくれた。おかげであの時、随分気持ちが落ち着いたと思う。
その後もさっちゃんは洋子や沙彩とも親しくしていた。沙彩なんかは私よりもさっちゃんといる時間が長かったのではないだろうか。
さっちゃんは何度も
「とみちゃん、洋子さんに感謝しないといけないよ」
と言ってくる。
私が
「嫁なんだからいいんだ」
そう返すといつも
「その考えがだめなんだ」
ため息を吐かれた。
そんなさっちゃんが洋子や沙彩が居なくなった事を心配しないわけがない。
さっちゃんが二人が居なくなった事を知ったのは春子が私の事を頼んだ時らしい。
その後はほぼ毎日のようにうちに顔を出すようになった。
「洋子さんと沙彩ちゃんはまだ戻らないの」
「あぁ、どういうつもりなんだか」
「とみちゃんがまた何か言ったんじゃないの」
私が悪いと言っているようだ。
「大した事は言ってない。それに、話をしていたら急に光っていなくなっていたんだよ」
「それは何度も聞いたけれどね」
「信じていないんだろう」
「まぁ、そんな事聞いたことがないからね。でも、洋子さんがとみちゃんを置いて出ていくのも考えられないんだよね」
「そうだろう」
「高校生の沙彩ちゃんが携帯を置いていくのもおかしいよ。中学生の孫でも財布よりも携帯だって言うから」
その通り。私が追い出したのではない。
「でも、いなくなってしまったんだよね」
さっちゃんは少し話をして帰ってしまった。もっと話していたかったけれどパートで働いているから忙しいのだろう。先程も仕事帰りに寄ってくれたようだ。
洋子達がいないと人と話す機会がない。
夜、花子に電話する。
「ちょっと話をしようか」
「お母さん、何言ってるの。用事がないなら切るよ」
取りつく島もない。
「用はある。えっと、食べる物を何か買ってきて欲しい」
「えぇ、食べる物が無いの?」
「米はあるけれどおかずになる物がない」
「缶詰とかレトルト食品は無いの」
「少しある」
「冷凍食品や乾物は」
「あるけれど、作ったものが食べたいじゃない」
「自分で作れば?お母さん、足が弱ったと言っても歩けるんだから」
「来てくれないのかい」
「うぅん。日曜日に行くから」
「わかった。待ってるよ」
「はいはい、おやすみ」
「おやすみ」
花子はパートも行っているし忙しいのだから仕方がないか。
日曜日、春子と花子が一緒に来てくれた。
「二人共よく来てくれたね。あがってあがって」
買い物もしてきてくれたようだ。
「お母さん、花子に電話したんだって。食べ物が無いって」
「ほら、素麺や缶詰やレトルトのものを買ってきたから」
春子と花子が買い物袋を広げて見せてくるけれど。
「冷凍食品や缶詰じゃあないきちんとしたおかずが食べたかったんだよ」
私はここの台所で作ったおかずが食べたい。
「面倒くさいなぁ」
花子はぶつぶつ言い出す。
「ねえお母さん。洋子さんのいる場所はわかったの?」春子
「知らないよ。本人もだけれど警察からは何も言ってこないからね」
「警察に聞いてないの」春子
「見つかったら何か言ってくるだろう」
「心配じゃあ無いの」花子
「勝手に出て行ったのになんで私が心配しないといけないんだい」
「はぁ、洋子さんが出ていく気持ちがわかる」花子
「私はあんた達がこうやって来てくれればいいんだ
よ」
「私達も毎週は来れないわよ」春子
「まぁ、あんた達も自分の家庭があるからね。なるべく来てくれるだろう」
「そうね。それでさっき花子と相談したんだけれど、今ご飯を配達してくれるサービスがあるのはしってる?」
「いや、知らないよ」
「1日一回、お弁当を届けてくれるのよ。冷凍とかではなくて当日作ったものよ。そりゃあ冷めているかもしれないけれど栄養も考えてあるし、それに、生存確認にもなるでしょう」春子
「生存確認って私はまだ死なないよ」
「わかっているけれど私達が安心したいのよ」春子
「それなら。でもそのお弁当は美味しいのか?」
「食べた事がないからわからないけれどお母さんみたいに歯が弱い人用の物もあるからいいと思う」花子
三人で相談して配達弁当を頼む事にした。まあ、味はわからないけれど自分で作らなくて良いのは助かるから。
「お母さん、通帳はある」花子
「あるけど、何に使うんだい」
「配達弁当は引き落としだから口座とか印鑑とか必要なのよ」花子
「私の貯金から落とすのか」
「お母さんのお弁当だからね」春子
そうか。それはそうだ。二人は私のために手続きまでやってくれた。




