↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
昨日の敵は今日の嫁  作者: 梅干し
昨日の嫁は今日の敵
12/13

9.彼らと彼女らの楽しいキャンプ。

「ジン。ミサ、リュート、キエフの三名が捕われたようだ」

「回復役が二人も……。キツいな……」


 マッスルから命からがら逃げのび、川の近くで全員が息切れと恐怖で倒れ込んでいるところに、副班長がジンに報告する。


「おそらく“死人”にはなってないだろうが、筋トレが終わるまでは解放されないだろう。それまで隠れるか?」

「いや、筋トレが終わっても使い物にならないだろう……」

「それもそうか……」


 マッスルのしごきは半端ない。大体が足腰が立たなくなり、良くて生まれたての小鹿のようになる。苦い思い出に副班長と共に遠い目になるジン。

 ひとまずは休憩する事にして、ジンは偵察に行かせている班員と連絡をとる。


「ボルダ。他班の動きはどうだ?」

『現時点で、九班が壊滅。内、三班はオペリアの罠で壊滅、ビュジー班とサリネ班はシエル班が交戦しているのを確認したが、クルルダ班含め他四班はどこの班が壊滅させたのかは不明。現在はメーユ班、ルル班、ワードン班の三班が乱戦中。残り一班はキャンプを満喫している』

「了解。引き続き偵察を頼む」


 通信を切り、いつものように眼鏡をくいっとさせようとして、ゴーグルに阻まれゴツッと虚しい音を立てる。無言で副班長の方を向くと、無言で視線をそらされた。さりげない優しさが気まずさを際立てる。


「……んん、え~……、その、なんだ……。今の通信は聞いてたよな?」

「あ、ああ! もちろんさジン!」

「……。でだ。俺らが警戒していた三班が潰れたのは朗報だが、他にクルルダ班を潰せる実力を持つ班がいるという事だ。でも、そんな班いたか?」

「いや。乱戦中の三班は俺らの敵じゃない。キャンプ班も隠れるスキルは特化してるがそれだけだ」

「だよな。それに、まだ昼前だ。それなのに、もう九班も潰れたのは早すぎる」

「シエル班が潰したんじゃないのか?」

「ボルダが不明だと言ったんだ。シエル達とは違うと思ったから不明だと言ったんじゃないか?」

「そうだな……。ボルダが間違う訳ないし……。じゃあ、一体どこが……?」

「そこが問題だ。乱戦中の三班のどこかが実力を隠しているとも考えにくい。なら、俺らが予想していなかった不確定要素が発生しているという事だ」

「先生が放った刺客(マッスル)が徘徊してるとか……?」

「ぅわ、それシャレになんねぇよ……」


 もし、筋トレ目的ではなく、明らかな戦意をもって襲ってきているならば……。想像し、二人して身を震わせる。

 そこに、班員の数名が飲み水を確保しようと川に近づこうとしているのが見えた。


「おい! お前ら、そこに近づくな! オペリアの罠が……」


 ジンが言い終わる前に、紫色の煙が川の前に立ち込めた。

 間に合わなかったと、頭を抱えたい気持ちになりながら、残っている回復役と共に駆けつけようとしたら、煙の近くにいた班員たちからけたたましい笑い声が上がる。


「ぶはっはははは!!」

「お前それナニ!?」

「ないわー!! それマジないわー!!」


 煙の中から現れたのは、大人から子供まで誰でも知っている国民的キャラクター『サウザンドさん』のコスプレをした誰かだった。

 頭頂部と耳の横がカールされた特徴的な髪型のカツラ。簡素なシャツと膝丈スカートにエプロンを付けて、おたまを持っている。特殊スーツの上から無理矢理着させられたようで、もっこもこになっており凄まじく不格好である。

 更に、段ボールで作られたであろう『こらー! カトゥーウォー!!』と弟キャラを叱る吹き出しが背中に付けられて、ぷらぷらと揺れている。


 マッスルの恐怖が和らいだ所に、いきなりの不格好なサウザンドさんの登場。その不意打ちのようなゆるい展開に班員たちの腹筋は崩壊寸前。ここで奇襲なんてかけられでもしたら壊滅必至である。

 まさか、オペリアはそこまで考えて……、などと馬鹿げた考えは早々に捨て、ジンはとりあえずはハズレ罠であった事に胸をなで下ろした。


「笑うのはそこまで! 全員集合! 今から作戦を練り直す! サウザンドさんも早くそれ脱げよー」

「ぶっは! ジンも大概ひでぇな! ちゃんとクロードの名前呼んでやれよー!」

「え? 俺じゃねぇよ? ナナルーじゃねぇの?」

「え? あたしじゃないよ? ピューダじゃないの?」

「え?」

「え?」

「え?」


 沈黙がおちる。全員の視線がサウザンドさんに集中した所で、ジンがポツリと呟く。


「お前、誰だ?」


 その瞬間、サウザンドさんが逃亡をはかった。


「印・壱・拾弍・弍拾九・八・印!!」


 ジンが口頭陣を発動させる。サウザンドさんの前に見えない壁ができ、したたかにぶつかって尻餅をついた。


「捕獲!!」


 ジンが叫ぶと、班員たちは一斉に飛びかかり、サウザンドさんの悲鳴が木霊した。



 ◇ ◇ ◇



 オペリアが計五名の闖入者をモザイク無しでは良い子に見せられない状態にした頃、ジンからの通信が入った。


「なぁにぃ~? シエルちゃんたちなら、キャンプ班に混ざってバーベキュー中だよぉ?」

『何? 今日はいやに早いな。いや、それはどうでもいい。それより、お前は知ってたな?』

「うふふ、なにを~?」

『とぼけんじゃねぇよ。特殊スーツを着てるが明らかな部外者を一匹捕まえたんだよ。下手な尋問じゃ口を割らない。どう見てもどっかのプロだ。何か知ってんじゃないのか?』

「心配しなくてもぉ、オペリアが始末するから大丈夫だよぉ」

『はあ? お前んとこのいざこざかよ。そんなもんに口を出したくなんざねぇけど、何班かはそいつらにやられてんだろ。先生に報告はしてんのか?』

「オペリア、ジン班ならやられないって信じてるぅ☆」

『そういう問題じゃねぇよ! 絶対報告してねぇよな!?』

「もしぃ、報告なんてしたらぁ、オペリアのイタズラ☆百連発が待ち受けてるからねぇ?」


 ジンは青ざめ絶句した。確実にイタズラ☆なんて可愛らしいものでは済まないからである。


「でもぉ、バレちゃったら仕方ないねぇ~。オペリアが始末するまでぇ、シエルちゃんとこと固まってた方がいいかもねぇ?」

『ちっ、早くしろよ』


 通信が切られる。オペリアは思ったよりも早くバレてしまった事に嘆息する。素人に尋問される状態で捕まるなんて間抜けな奴がいる事も実に嘆かわしい。素人だからいつでも逃げ出せるとタカをくくっているのだろうか。

 それならば。素人ではない自分が迎えに行ってあげようとスキップでジン班の元へと向かった。



 ◇ ◇ ◇



「よし! キャンプをしに行くぞ!」


 オペリアとの通信を切り、ジンが発した第一声がそれだった。

 何がどうなってそんな陽気な発想になってしまったのか。班員たちは理解できず、首を傾げる。


「悪魔(オペリア)からの脅迫により詳しい事は言えないが、今は動かずにシエルたちと固まっていた方が良さそうだ。現在、シエル班はキャンプ班とバーベキュー中らしい。そこに行く」


 脅迫か……。それなら仕方ない……。誰も何も言わずに納得し頷いた。


「班長、サウザンドさんはどうする?」

「面倒だが、放っておく訳にもいかないからな。“死人”状態にして持ち運ぶしかないだろう」

「了解」


 尋問するため外していた頭部をしっかりと被せてから小型ナイフで突き刺した。見た目は食い込んでいるのに、実際には生身に少しも届いていない不思議。不思議の一言で済まされるからこそのファンタジーである。

 ぐったりしたサウザンドさんを班員が担ぎ、ジン班は川の上流の方にいるらしいシエルたちの元へ移動を開始した。



 ◇ ◇ ◇



 通称キャンプ班と呼ばれている班がある。彼らの目的は戦う事ではない。また、逃げる事でもない。いかに見つからずに楽しめるか、に尽きる。

 キャンプ班、なんてなんだか平和な響きではあるが、実際やっている事はスリルショックサスペンスと隣り合わせである。

 今が旬の山菜が東で生えていると聞けば、絶賛交戦中のど真ん中でも突っ込み、西に脂がのって上手いと噂される猛獣の群れがいると聞けば明らかに罠が設置されていても突っ込んでいく。

 どんな苦境に立たされても、キャンプ、そしてバーベキューにかける情熱は揺るがない。その無謀ともとれる勇気と、仲間の屍を越えて目的のために突き進む使命感、そしてすぐ隣で山菜を摘んでいるのに見つからない術の精密さは、教師陣からの評価は意外と高い。

 そんな彼らの天敵と言えるもの。それはシエル=リーンである。

 野生の勘なのだろうか。どんなに彼らが何重にも術をかけようとも、すれ違うと必ず見つかってしまう。そして、死に物狂いで集めた食材を食われてしまうのだ。

 隠れる事にかけては自信のある彼らが、術で見抜かれるのではなく、野生の勘で捕まってしまう事で味わう屈辱はいかほどなものか。今では、シエルの横を通り過ぎる=一種の度胸試しになっていたりする。


 それだけならばまだいい。最初から食われてしまう事前提で多めに集めているし、シエルに気づかれずに通り過ぎるという目標もできた。しかし、シエルに必ずついてくるものがある。ジン=バースだ。

 ジンがやってくると、例外なく大規模の戦闘になる。一度禿山にしてしまうのではないか、というほどの激しい戦闘があり、教師たちが慌てて止めに来た事もある。

 それに巻き込まれるのがキャンプ班である。彼らは隠れる事にかけては他班の追随を許さないが、戦闘にかけては下から数えた方が早い。そんな班が目の前で起きる大規模魔術を避け切れるだろうか。いや、避けきれない。

 ジン班にとって、シエルとの戦闘はトラウマであるが、キャンプ班にとってはジン班もトラウマの象徴である。


 今日も今日とて、キャンプ班は愛しの食材たちをシエルに食べられるのを、戦々恐々としながら眺めていた。


「今日はいつジン班が乱入してくるのかしら」

「いつもは昼過ぎから夕方にかけてだから、バーベキューの時間をいつもより早くしてるんだ。まだゆっくりできるだろ」

「そうだったらいいんだけど……。バーベキュータイム=ジン班乱入じゃない?」

「不安になるような事言うなよ……」


 怖いのなら逃げればいいのに、バーベキューを見捨てられないのがキャンプ班である。


「あっ、シエルさん、それまだ網にのせたばかりだよ!」

「いいお肉はレアの方が美味しいって、ジンがしたり顔で言ってたよ?」

「それまだレアまでいってないから。ほぼ生だから」


 片面がうっすらとしか焼かれていない肉を、シエルがもっちゃもっちゃと美味しそうに食べている。一応殺菌はしてあるが、もししてなくともシエルならば腹など壊さないだろうと、野生児であるシエルを眺めながらキャンプ班は思った。


「あれ? ペペはどこ行った?」

「え? あっちで魚を捕ろうと頑張ってたのに。どこ行ったんだろ?」


 キャンプ班がペペと呼ばれる男子を探していると、ノインが心配そうな顔を作って近づいてきた。


「誰かいなくなったの?」

「きゃっ、ノイン君……。え、えっと、ペペって子が見当たらないの。誰よりもバーベキューを愛する子なのに……」

「そう……。それは心配だね」


 ノインご自慢の顔を近づけると、途端に赤くなってモジモジしてしまう女子に、この反応が普通だよなぁ、となけなしのプライドがむくむくと復活していく。

 少しご機嫌になったノインは、サービスで周りを探る魔術を使ってぺぺを探してあげる事にした。


「旅人は自由に駆ける。其れを阻むものを知り、私に道を示すだろう」


 片方のピアスが煌き、柔らかな風がノインを中心に広がっていった。風がぶつかった場所の情報がノインに流れ込んでくる。


「……ん? んん? ぅわ……」

「の、ノイン君、どうしたの?」

「キミたちって、隠れるのが上手なんだろう? だったら早く逃げた方がいいよ。なんか、すごい人数に囲まれてる」


 ついにジン班が来た!! バーベキューデストロイヤーめ!!

 キャンプ班は今日もバーベキューを完遂できない事に涙を流しながら、そそくさと逃げる準備を始め出した。しかし、彼らは今日も逃げる事は叶わない。

 少し離れた場所で轟音が響いた。次いで、川をはさんだ反対方向からも耳を塞ぎたくなるような断末魔が聞こえてくる。


「な、何が起きてるの!?」

「みんな! 早く隠れて逃げろ! うわっ!!」


 キャンプ班が逃げようとしたところに、一人が風の魔術で吹き飛ばされた。それをきっかけに、次々とキャンプ班が倒れていく。そんな中、シエルは何食わぬ顔で襲い来る魔術を弾き、もくもくと生肉を食べ続けていた。


「シエルさん!! 肉ばっかりじゃ栄養が偏るよ!!」

「ちゃ、ちゃんと野菜も食べてるもん!!」


 場違いな会話が続いた後、ノインは我に返って叫ぶ。


「そうじゃなくて! 僕と逃げるんだ!!」


 これが、これからノインに訪れる災難のきっかけの言葉だった。

最初は二章も五話くらいで完結する予定だったんですが、どうでもいい設定のおかげでだらだらと続いてしまいました。

その最たるものがキャンプ班ですね。自分で書いてて心底どうでもいい設定だな……と思いました(照)

次話でラストとなります!

後少しのお付き合いですが、お待ち頂けると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。