8.彼らと彼女らの仁義なき戦い。
【魔術の種類の説明】
作中で説明するのもなんだかなぁ、と思ったので、前書きにて失礼いたします。飛ばしても大丈夫だと思います(多分)。
【原始魔術】
指先に魔力をまとい、宙に魔術陣を描いて呪文を唱える事で発動する魔術。
使用するのは己の魔力のみなのと応用が効くのは口頭陣と同じだが、違うのは宙に描いた陣が媒介の役割を果たすので効果が増加するのと、陣を描くための時間のロスが大きい事である。
また、宙に描いた記号を固定させるのは技術が必要なため、お手軽でお手頃価格な魔具が普及しだした近年使用する人間は減ってきている。
【魔具】
専用の素材から作られた魔術を使うための道具であり、魔術を使う際に一番使用されているもの。
型は武器から靴紐に至るまで様々なものがある。魔具に魔力を流し、その魔具に入っている術式に対応した呪文を唱えると魔術が発動する。原始魔術より、簡略化された呪文で発動するのも特徴。
一つの魔具に入っている術式の数はピンキリで、増えるほど比例してお値段の方も高くなる。自分で付け足そうにも、重要なのは元の素材であり、質の悪いものは容量が足りずに術式を付け足したとしても発動しない。
応用はあまりきかないが、普段使いには最適なものである。
【術符】
一回使ったらなくなる消耗品。『発』の言葉だけで魔術が発動する便利な紙。紙に魔力をこめながら魔術陣を描くだけでできる。ただし、自分が作ったものでないと、他者の力を無理矢理自分の力に変える事の代償で使用する魔力は大きくなる。
魔具と違い、効果・威力は一つに固定されているため、『魔具を買うほどじゃないんだけどな~こういう時やあんな時にあったら便利だな~』という小技向きによく使われる。
二人はぎこちない関係のまま二週間が経ち、集団演習の日になった。
街から少し離れた山の中。まだ日も明けきらない時間、各班は指定された位置へと移動する。開始時間は日の出と同時、終了時間は一班を残して全滅か日没まで。
ジン班は中腹の東側だった。移動した後、ダークグリーンの特殊スーツに全身を包んだ面々を見渡して、ジンは声を張り上げる。
「頭部準備!!」
班員たちは頭部に魔力を流し呪文を唱え、スーツに組み込まれている魔術を発動させる。次に胴、腕、足と順に発動させていき、全身が守護結界に包まれる。
この特殊スーツは実戦用に開発されたものの失敗作である。外的ダメージを完全遮断してくれるという、高性能を通り越してチートなものを目指していたようだが、未だそんな夢のようなものは完全に実現していない。この失敗作も実際には怪我をしないが、代わりにスーツが生身判定されるのだ。
生身でダメージを受けた場合と同じようにかなり減量はされるが痛みは伴うし、攻撃された部位は動きづらくなったり完全に動かなくなったりする。一部の精神に作用する魔術も有効である。しかし、その性能的に演習用には最適だという事で大量生産されていた。
頭や胴をやられてしまえば、例え他の部位が無事だったとしても全身機能停止してしまうが、逆に頭と胴体さえ無事であれば、四肢が完全に停止していても回復魔術でまた動けるようになる。しかし既に全身停止してしまっていた場合、その時点で“死亡”扱いされ、回復魔術は意味をなさなくなる。
この“死亡”扱いが集団演習における生徒たちの一番の苦痛であった。“死亡”扱いされても教師が回収に来てくれる訳でもなく、終了まで放置されるのだ。
身体は動かないが五感は無事であるから、開始直後に一撃死されたらもう悲惨である。
腹は減るわ喉は渇くわ、トイレに行きたくなったら我慢するか人としての尊厳を捨てるかの究極の選択を迫られるわ。もし自分の傍で戦闘が行われていた場合、踏まれるわ、自分を中心に魔術の爆発が起きるわ、余波で吹っ飛ばされるわで散々な目に合う。
それだけならまだいいが、一番の屈辱は動物たちに群がられる事であった。もふもふ好きには天国だと思う事なかれ。頭をべっちゃべっちゃと口に入れられたり、糞尿まみれにされたりするのだ。目や口元さえもスーツで覆われていて直接的な被害はないが、やはり顔めがけて糞尿をかけられるのは精神的にくるものがある。
なので、当然のごとく日没まで逃げ回るだけの生徒はいる訳だが、ジン班は一度も逃げの姿勢で演習に臨んだ事は無い。いつだって“シエル打倒”が目標。そのために邪魔になりそうな班を早々に倒してしまうという方針が常であった。
「各自、魔具と術符の最終確認!!」
今回はシエルのみならず、ノインも倒さなくてはならないので、いつもより各々が持つ魔具と術符を細かく決めていた。
魔具は普段から持っているものが主だが、術符は今日までに各自寝る間も惜しんで作っていた。今までは学院から支給される数枚に加えて二十枚前後用意するだけだったのが、今回は一人百枚前後の術符を用意している。それだけ班員たちの意気込みが見えるというものだ。
班員たちが術符の種類と枚数を確認している姿を見て、聖人モードになっているジンは口を開く。
「皆、そのままでいいから聞いてくれ」
今では見慣れた聖人モードであったが、いつもの様子とは何かが違う聖人に、班員たちは顔を上げる。
「今まで“シエル打倒”という目標を掲げてきたが、思い返せば全て俺の私情によるものだった。それなのに、皆よく俺についてきてくれたと感謝している。今回も通常の訓練以上のものを求め、疲労しきった身体に鞭打ち術符を作り、この一ヶ月、本当によくやってくれたと思っている。俺の私情で始まった“シエル討伐”だが、そのために俺たちは血の涙を流しながらも訓練に励み、それに見合った実力を付けられたと思う。きっと今のお前たちなら大集団演習に参加しても、六年生に負けない活躍をするだろう」
幾つもの死線(訓練)を乗り越え、これから二度と帰れないかもしれない死地(シエル討伐)へと赴く班員たちは、ジンの労いの言葉に思わず涙ぐむ。
「しかしだ。それでもやはりシエルに勝てるかは分からない……。俺たちは力をつけた。それで集団演習の目的は既に果たされているじゃないか。俺の私情でお前たちがむざむざ“死体”になる事なんて無いんだ……」
「!!?」
「班長!! 私たちはそんな気弱な言葉聞きたくない!!」
まさかの“シエル討伐”中止発言に班員たちは愕然とする。
確かに訓練は過酷であったし、ほぼ約束されている終焉の日(死体化)を考えると胃痛で血反吐を吐く思いだった。
しかし、今はそれ以上に班員たちはある目的のために心を一つにしていたのだ。
「俺たちが今日まで何のために訓練してきたと思ってるんだ!?」
「そうよ!! あたしたちは強くなるためだけに訓練してきたんじゃないわ!!」
「シエル・ノイン班を倒すために頑張ってきたんだ!!」
――牛乳どころかこの世のありとあらゆる臭いものをぶっかけられ、異臭を放つ雑巾になってしまった哀れなジンのために!!
すっかり可哀想な男という認識になってしまったジンは、触りたくないほど臭いボロ雑巾扱いされているとは気づかずに班員たちの熱意に戸惑いを覚えつつも、悲痛な面持ちで叫ぶ。
「俺は……っ、俺は!! もう、お前たちが糞まみれになる姿なんて見たくないんだ!!」
「馬鹿野郎!! 糞が怖くて演習なんかできっかよ!!」
「!!?」
「むしろぶっかけられに行ってやんよ!!」
「臭い糞、みんなでかぶれば、臭くない!!」
「みんなでまみれようぜ!! 糞に!!」
「お……、お前たち……」
班員たちの謎の熱意に、謎の感動がジンに押し寄せる。そこに、班員の一人がジンの肩にそっと手を置いた。
「糞は……、漢の勲章、だろ?」
ジンは目の奥からこみ上げてくる熱いものを堪えるように空を見上げた。
長い沈黙の後、ジンはいつものように眼鏡をくいっと上げ、鋭い瞳に決意を込め声高らかに宣言する。
「俺たちは!! 糞仲間だ!!」
うぉおおおおおおおおお!!
ジン班の雄叫びがまだ薄暗い初夏の空に響き渡った。
◇ ◇ ◇
「ぅわ……。何、今の雄叫び」
声が聞こえてきた東の方に、ノインは驚き振り向いた。
「ああ。ジン班の恒例の雄叫びだよ」
「恒例なの?」
「うん。ジン班って結束が固いから、心が一つになりすぎて、ついつい昂っちゃうんだって」
「ははっ。本当にジン君は面白いね」
「うん!! 凄いかっこいいと思う!!」
「そうだね~」
対シエルスルースキルをノインは身につけたようだった。
ジン班と比べ、ゆるゆるとした雰囲気の中たわいない話をしていると、山中に響き渡る笛の音がした。演習開始の合図だった。
「私は偽りの空であり大地である。私の友もまた同様である」
ノインがピアスの型をした魔具を発動させる。すると、二人の姿は景色に溶け込み、遠目からは認識できなくなった。
「それじゃあ、シエルさん。打ち合わせ通り、慎重に一つずつ潰していくって事で。ジン班は一番後回し。慎重にだよ? 分かった?」
「うん」
本当に慎重という意味が分かっているのか怪しいシエルのヘラヘラとした笑顔にノインは訝しむも、なるようにしかならないか、と嘆息し行動を開始しようと北へと向けて歩き出した。
「ぅわっ!?」
十歩も歩かないところで突如足元が泥に変わり、ノインは足を取られ転んでしまう。
「ノイン君、泥遊び? 少年の心を忘れないのは大切だよね!」
「シエルさん来ちゃダメだ!」
一緒に遊ぼうとシエルが足を踏み入れようとするのをノインは泥の異質さに気づき声を上げるが、すっかり幼児気分になっているシエルはもう既に泥の上で転んだ後だった。
「あれ? 動かない」
「うふふふふ~」
泥に突っ込んだ身体が動かずにもがいている所に現れたのはドラ●もんではない。オペリアだった。
「オペリアちゃん! しまったー。やられちゃったな!」
「くそっ! なんだ、この泥!?」
「もがけばもがくほど、絡みついて離さないよぉ~」
オペリアは木の枝に座り、凄く悪い顔をして笑っている。
泥の中のシエルの指先から魔力の光が灯る。ノインは目を見張った。泥に突っ込んでいて動かない指先の代わりに、光が意志を持っているかのように自ら魔術陣を描いているのだ。
宙に文字を留めるだけでも技術がいるものを己の意志のみで自由に操れる。これこそが、シエルの天才たる所以だった。
「自由は力を宿らせ、私を縛るものに渇きを与えるだろう」
熱風がシエルを中心に渦巻いた。泥が乾いて、パリパリと音を立てて崩れていく。
「あ~ぁ。やっぱり、シエルちゃんには効かないねぇ。でもぉ、今回は“一人”じゃないからねぇ? 頑張って助けてあげてねぇ?」
うふふ~、と緊張感がない笑顔でオペリアはそのまま木の上へと跳んで去って行った。
シエルが首を傾げて見てみると、ノインがまだ泥に囚われて身動きできないままだった。
「あれ? ノイン君のとこに風いってなかった?」
「いや、きたよ。でも、これは自分で逃げ出さないといけないトラップみたいだ」
捕らえた者の魔力に感応し、他者の魔力は受け付けないようにする魔術。まさかたかが学生の集団演習でそんな高度なものに出くわすとは思っていなかったノインは内心舌打ちしながらも、学院から支給された術符をシエルに出してもらうように頼み、それでなんとか泥から抜け出した。
安堵したのも束の間、また二人にオペリアが仕掛けたトラップが襲う。それは普通なら即死レベルのものだったり、すかしっ屁レベルの嫌がらせだったりと差が激しかったが、おかげで二人は思うように前へは進めなかった。
◇ ◇ ◇
『現在、西北西35ー18。このままぁ、ビュジー班と遭遇させまぁす』
「了解。できればサリネ班とクルルダ班への誘導も頼む。こちらは今からパダ班との戦闘に入る」
『りょ~かい☆』
オペリアからの通信を切り、ジンはすぐ傍まで迫っている他班への攻撃の準備に入る。
「陣形・伍に展開。烏合の衆だが、クセのある奴ばかりだ。気は抜くなよ」
ジン班はノインが使ったのと同じ目くらましの魔術を使っているので、まだ向こうの班に存在を気づかれていない。そのため、ジンは通信器を通し小声で班員に指示を出した。
パダ班を囲むように配置し消音と目くらましの魔術をかけ直されたのを確認した後、『準備完了』という全員からの報告を受け、ジンは突入の合図をする。
パダ班の周囲を木の根が盛り上がり、それは檻へと形成した。すかさず次の魔術が発動される。木の檻の天井に毒々しい色の大きな蕾ができた。対象者の魔力を奪う蔦が伸び、戸惑うパダ班に巻き付く。
「うっ……!?」
「花が咲く前に散らせ!!」
木の檻と連動された蕾は、魔力を吸うごとに徐々に開いていきそれが完全に花開いた時、壊すには吸われた分の二倍以上の魔力をぶつけないと壊れない檻へとなるのだ。捕らえるための檻、というよりは、疲弊させる目的のものである。
パダ班が懸命にもがいている中、ジン班もただ見ているという訳ではない。花を散らそうとしたり、花が咲く前に脱出しようとしているのを妨害しつつ、それ以上のダメージを与えようとしていた。
やがて花が完全に開きかけた時、パダ班の一人がついに花を散らしてしまった。
「出てくるもぐらを逃すな!」
ジンの言葉の通り、もぐら叩きが始まった。『烏合の衆』と言われた通りまとまりのないパダ班は、何も考えずに我先にとバラバラに脱出しようとした。そこに、猫だましのような魔術を当て、怯んだ隙に『漢は拳で語るもの』担当たちがボコボコにしていく。それでも取りこぼしてしまった者を、ジンが仕留めていく。
そうして、二十名いたパダ班が半数ほどまで減った時、一人がキレて暴挙に出た。
「其れは堅固たる支え! 助けて“金剛の練磨者”~~~!!」
ボコッ!!
土が盛り上がり、黄金に輝くものが姿を現した。その眩しさに、思わずその場にいた全員が目を覆う。そこに、現れたものの野太い声が轟響いた。
『なんと貧弱な人間どもよ!!』
聞き覚えがあるその声に、ジン班は思わず青ざめる。目を開けて見てみると、あのマッスル地獄をもたらすマッスル――の、金色バージョンが神々しくジンたちを見下ろしていた。
「ボーっとするな!! 陣形・四!! 一人も“死人”を出すな!!」
まさかのマッスル登場に戸惑いつつ、金色という未知の物体が何を起こすか分からない恐怖に、ジン班は防御形態をとる。
『ぬっ!? こしゃくな事をしおって!! こんなものこうしてくれるわ!!』
金色のムキムキの腕を振りかぶり、宙に向かって振り下ろした。パダ班からは、マッスルが何をしたかったのか理解できなかったが、慌てたのはジン班だった。
「班長! 消音、目くらまし共に消失!」
「何!? 今ので破られたのか!?」
『これで遮るものは何も無い!! 我が肉体美を見よ!!』
なんと、マッスルは己の肉体美を見せびらかしたいがために、魔術を力技で打ち破ったらしい。マッスルの輝く黄金の肉体が木々を照らす。
『どうだこの美しい筋肉!! 貴様らもこうなりたいだろう!? よし!! ならば筋トレだ!!』
やっぱそうくるのかよ!! 敵味方関係なく全員の心が一つになった。
そこへ、見張り役からの通信が入る。
『こちら、ファシーリュ。エクザス班がそちらに気づき移動を始めた』
「ちっ。皆!! 撤退だ!!」
『なぬ!? 筋肉を前に逃亡すると言うのか愚か者どもめ!! 一人たりとも筋肉から逃れられると思うなああああああ!?』
金色の壁が幾つもジン班の前に立ち塞がった。パダ班は既に金色の壁の中に収容されていて、強制筋トレさせられている悲鳴が聞こえてくる。
「総攻撃!! 壁を突き破って全力で逃げろ!!」
訓練の賜物か、はたまたこんな所でマッスル地獄に合いたくないからこその必死さ故か、打ち合わせも何もなくジン班は合同魔術を発動させる。
巨大な炎が金の壁にぶつかった。高熱は金を溶かし、穴を開ける。更に炎を手に宿した班員が力の限り打ちつけ、穴から上が大きな音を立てて倒れた。
それでも、腰あたりまである金の壁。肉体派の班員が後衛専門の班員を担ぎ、必死すぎる形相で飛び越えていく。
『脆弱なる人間ながら見事なり!! しかし!!』
「ぅわああああああ!!」
「きゃああああああ!!」
金色の壁に頼らず、マッスル自身がその太腕を伸ばし、ジン班の数人を捕まえてしまった。
「ミサーーー!!」
「リュートーーー!!」
「振り返るな!! アイツらの分まで生き延びるんだ!!」
捕まってしまった班員と、途中から聞こえてきたエクザス班の悲鳴を背に、ジン班は逃げ出した。アイツらの犠牲は無駄にはしないと、心の中で涙を流しながら……。
◇ ◇ ◇
ジン班がマッスルの驚異から逃げのびた頃、シエルたちは既に二班を倒し終わった後だった。
「ふぅ。さすがに立て続けの戦闘は疲れたね」
「うん、やっぱ上がった後にはフルーツ牛乳だよね」
「僕はやっぱりコーヒー牛乳かな」
シエルのボケを適当に返しながら、ノインは今当たった二つの班の事を考えた。
ジン班に次ぐ実力がある二班だった。オペリアが仕掛けたであろうトラップで道を変更せざるを得なかった事から、ジン班の邪魔になるであろう班を自分たちが倒すように誘導されたと考えるのが妥当だろう。あわよくば、自分たちが疲弊する事を狙って。
――これだけギクシャクしときながら、まだシエルさんに執着してるんだ。別れる気はないのかな。ソレとコレとは別なのかな?
どちらにせよ、どんな顔してシエルと対峙するのか見ものだ、とノインは“死体”となった生徒の墓を作ろうとしているシエルを止めもせず眺めていた。
「シエルちゃん、ナウい埋め方はぁ、太ももまでと手を埋めてぇ、前屈みにしてぇ、こう、前の人のお尻に顔をつけてあげてぇ、みんな繋がるように円を描くように配置するんだよぉ」
「うわー!! それ凄いナウい!! これでみんなも満足して成仏できるねっ!!」
――死んでないから。動かないだけで生きてるから。それよりも何ナチュラルに混ざってるんだそこのオカマ。
いつの間にかいたオペリアを、ノインは冷めた目で見る。それに気づいたのか、振り向いたオペリアの目もまた冷め切っていた。
シエルが墓作りに夢中になったのを見計らって、オペリアはノインに近づく。
「ね~ぇ、手引きしたのはノインくん~?」
「手引き……? 何の事?」
問いの意図が分からず、ノインは訝しげに見る。オペリアは、ゴーグルの向こうの目を見定めるかのようにジーっと見た後、いつものふわふわとした笑みを作った。
「こーゆーのはぁ、“微笑みの詐欺師(笑)”さんのやり方じゃないもんねぇ? 信じてあげるぅ」
「何か知らないけど、馬鹿にされてる事はよく分かったよ」
「なんかぁ、変なのが山の中ウロチョロしてるのぉ。明らかにプロだからぁ、ノインくんのとこの人かなってぇ~」
「……ああ。なるほど。確かに、あの人がやりそうなやり方だ。でも、僕はもうとっくに手を引いてるし、あの組織とももう何の関わりも無いよ」
「え~? そぉなのぉ? その割にはシエルちゃんにベタベタしちゃってぇ」
「それは、ほら。ジン君の反応が面白いからつい」
「うふふ~。確かに面白いけどぉ。これでシエルちゃんが泣く事になったらその面、二度と見れない面にしてやるからな」
ドスのきいた男声で凄んでくるオペリアに、ノインは笑顔のまま固まった。オペリアの背後に巨大な毒蛇が見える気がする。
「とりあえずぅ。シエルちゃんのお守りお願いねぇ」
コロッと変わったオペリアは、またドラ●もん笑いをしながら木々の向こうへと姿を消した。
固まったままのノインは、そろそろ裏社会から足を洗おう、と心に決めたのだった。
オペリアが見つけた不審人物たちは、一般生徒にはできるだけ手を出さないように動いていた。不幸にも二十人編成の班が一つ丸々潰されていたが、特殊スーツを着ていた事が幸いして誰も怪我を負っていない。
教師への報告はすべきか、否か。
オペリアの答えは決まっている。否、だ。
死人は出ないだろうという事。それと、教師の手に委ねてしまったら、一般人式のぬるい対処しかしないだろう。それはオペリアの信条が許さなかった。
「うちのシマぁ荒らしたオトシマエ、つけてもらうぜ」
そう呟いたオペリアは、もうどこからどう見ても男だった。
【黄金のマッスル】
おじいちゃん先生が従える大地の精霊から派生したマッスル亜種。
己の筋肉にこだわりを持ちすぎてしまったために、おじいちゃん先生のポリシーとは反してしまい、はぐれマッスルになった。
例え仲間と離れても、愛するおじいちゃん先生から見放されたとしても、己を鍛える事をやめぬその姿勢は黄金の輝きとなってマッスルを魅せる。
黄金のマッスルは自らが望む者としか契約しない。逆に、望まれてしまったら、いつの間にか契約させられている。基準は、『マッスルの資質があるか否か』という黄金のマッスル目線のあやふやなものである。
喚んだ時の利点は、肉体美を曇りの無い眼で見てもらうために『幻惑系の魔術を打ち破る』事と、金の壁に囲まれてしまったら『敵味方関係なく強制筋トレさせられてしまう』事と、筋トレが終わるまで『堅固な金の壁の中で守られる(出してもらえない)』という防御に特化したものである。
時間が来るまで絶対に死にたくないという籠城したい方にオススメ。




