第2話 十六才の誕生日
「おはよう、スー。また、うなされてたよ」
フィオナが隣りのベッドから声をかけてきました。
記憶を失ってあの森に現れ、フィオナ達と暮らすようになってから9年…。もちろん誕生日も覚えていませんので、ママ…フィオナの母親が私達が出会った日を誕生日にしてくれたのです。
あれから9年も経ったのに、私の記憶は何一つ思い出しません。
早く思い出さなければ…という思いもあれば、このまま思い出さない方がいいと思う時もあります。
思い出した事によって、手に入れたこの居心地のいい生活を失ってしまうのが怖いのでしょう…。
けれど、最近立て続けに見てしまうあの時の夢…。そして、今日で16歳…。何か関係があるのでしょうか。
頻繁に夢の中に出てくるあの森も、なぜ私はあんな森にいたのかもわかりません。
「スー?」
考え事をしていた私に、フィオナが心配そうに覗きこんで来ました。
「大丈夫…。ちょっと怖い夢を見ただけ…」
フィオナに心配かけないよう、笑顔で答えました。
「おはようっ!起きてるかい?」
勢いよくドアが開いたかと思うと、ママが入ってきました。
「スー!誕生日おめでとう!」
ママはそう言って、優しく私を抱き締めてくれました。 あの日から私のママになってくれた人…。実の娘、フィオナと同じくらい私にも愛情を注いでくれました。
「ママ!ずるい〜。まだ私も言ってなかったのに〜」
フィオナがママから私を引き離すと、今度はフィオナが抱き締めてくれました。
「おめでとう!スー」
温かい…私の大切な家族。何もかも忘れてしまった私がこうして笑顔を取り戻せたのは、フィオナの家族のおかげ…。
「ありがとう、フィオナ…ママ」
「さあっ!今日はみんなでお祝いしよう。ごちそう作るからフィオナ、“あれ”をスーに渡しといておくれよ」
「うん!わかった〜」
“あれ”…?何の事かわからない私は、着替えるとフィオナに誘われ、外に出かける事にしました。
「おはよう!スー、フィオナ。今から遊びに行くのかい?」
「やぁ、2人共。今日はどこに行くのかな?」
村のみんなも、見ず知らずの私を受け入れてくれた優しい人ばかり…。
「フィオナ、どこに行くの?」
フィオナに連れられ歩いているだけで、私にもどこへ行くのかわかりませんでした。
「ジーナおばあさんのところよ」
「ジーナおばあさん!?」
ジーナおばあさんというのは、村の奥に住んでいるおばあさんで、何でも知っていて何でもできるから、私達は小さい頃から魔法使いだ!と信じていました。
「スーにね、渡したいものがあるの」
私達はそのまま村の奥まで歩いて行きました。一体、何が待ち受けているのでしょうか…。
こんにちは。リレー小説第二話を執筆させて頂きました、山口維音です。普段、恋愛物ばかり執筆していますので、初めてのファンタジー物に緊張しながら書きました。
これから皆様と頑張って素敵な物語を書きたいと思いますので、よろしくお願い致します。